第2話

 話は変わりまして、にも一人。やくよけがんにと、ちょっと名の知れたぶっかくに、金にいやしいあきんどおくがたを連れてがんけにやって参りました。


通りすがりの人:「商売繁盛祈願きがんですか?」


 会う人、会う人、皆そうたずねる。かいせんどんあかそう」と言えば少しは名の通ったぜにで。ごうとくと悪いうわさも数あれど、さすに嫌になってくるというもの。久しぶりに会った旧友ですら、さんぱいの理由を


赤城屋主人の旧友:「商売繁盛がんかい?」


 と問うものだから、こいつは面白くありません。しかし、人の裏をかくぐらいでないとしょうにんというものは務まらない上に、お金は皆大好きな筈で、それを突き詰めてはいけないのかと思う次第でございました。は全部返すから、代わりにらない金をくれと、ぐっとこらえて笑顔を作れば、


赤城屋主人:「ほら、きちさんの所が押し込み強盗にったろう。それで、この世のたいへいを願っていたという訳だ」


 とまあ、あかしゅじんは得意顔。


 ちなみに江戸中期から後期にかけてましては殺しごうかんを含む武装強盗が多発しておりまして、ひどいものになりますと、店の人間を全て含めた一家皆殺し、ては火まで付けていきますと、じんかけも無いきょうぞくはびっていたのでございます。意味も無いざんぎゃくばんこうという理由から、仲間のぞくは全員ちゅうまわしの上にうちくびごくもんあぶりに処されると、当時は厳しく取り締まられておりました。


 火付盗賊ひつけとうぞく改方あらためかたという専門の役職もあった程でございましたから、さすしゃにはなりません。引き合いに出すというのも私はどうかと思いますが、そんな手段を選ばない御主人と致しましても、やっぱりかみにはかなわないようでございまして、


女将:「おや、珍しい事もあるものですね。しかし、御前さん。いつもかみだなに向かってもぞもぞと、金のなる木がどうとかと、がんけをしているではございませんか」


 と、チクリと一刺しやられれば、思わず口をとがらせまして、


赤城屋主人:「う、い。他人様に金のなる木が降って来ますようにって、そういう事だい」


 と、まあ、こんな感じで、いつの時代も決まり切ったやり取りが繰り返される訳でございます。


 やはり、夫婦というものは通じ合っていると言いますか、こう、一つ屋根の下で暮らしていますと、大体の事は分かってしまうものでございます。


 しかし、神様の前でなんか張るものではございませんね。壁に耳ありしょうに目ありと言います様に、まさに油断大敵。聞いている人は聞いているものですから、神も仏もそれに例外ではございません。

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