神仏頼み

小林 広平

第1話

 金は天下の回り物と言いますが、いくら有っても有るに越した事の無いぞくぶつでございまして、自分のふところに入ってくる奴もいれば、他人様の元へと旅立っていく奴もいると、様々な種類がございます。とりわけ、自分のふところに入ってくる奴はわいいもので、ついついよくくらんでは、するりと抜けて落っこちていく奴も後を断ちませんが、これも歴史のせるわざなのか、いつの時代も変わらぬぜいでございます。


 のうこうしょうと昔のえらい人がおっしゃいました。しょうにんとは金をかせいやしい身分とされていた訳ですが、人は開き直ると怖いもので、へりくだっては商売繁盛、いずり回っては商売繁盛と、金に物を言わせて、世の中を悠々ゆうゆうかっしておりました。


 中にはたんものを仕入れついでにうらみまで買って、ぞくに押し入られる事も多々あったようですが、元よりを怒らせたら刀で斬られても文句は言えないぶっそうな世の中でございましたから、木の皮食って、ろうは捨てるは、子供は捨てるはの農村とかと比べましたら、贅沢三昧、極楽至極。「世渡りだけが人生だ」と、たかくくってさんに行ければ、お江戸の時代じゃほんもうであると、その様なふうちょうでございました。


 とは言え、やはり命は惜しいというもの。現在ではすたれてしまったじんじゃぶっかくも、当時は全盛期である訳ですから、娯楽がてらに人が集まる集まる。さんぱいきゃくでごった返す程のせいきょうぶりでございます。年末年始関係無しに、何かがあったらしんぶつだのみ。これが当時のきたりでございました。


 ひゃくむと言いますでしょう。ら辺の聞いた事も無い神社で、人目に付かない様に地味ながんけをですね。わざわざはだになって、一日の内に百度も繰り返し参拝したというのですから、これはたまげたものです。いやはや、昔の方の信心深さには頭が下がる心地でございます。


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