ヤギ

後藤いつき

ヤギ

そのまま二月が過ぎ三月四月、桜の葉の青々とした五月のこと、森の闇の中からのそりと一匹真白いヤギが這い出てくる。ヤギは誰にも気づかれぬまま畦道を歩いてやってきて、めえと一声鳴くや子供が出てきて慎重に近づいてがしりと捕らえる。ヤギはびくともしない。びくともしないヤギは子供にとり面白くなくて、ヤギの尻を子供は蹴った。

ヤギの目。

怒っているのか憐れんでいるのか。

そんなような目が少年をとらえて、いや、そんなような目に少年がとらえられて、真昼の空の下、ゆるやかな風が土と緑の匂いを乗せて消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤギ 後藤いつき @gotoitsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る