第二章 キャベツ革命 〜2104年〜
キャベツベイビー技術が登場してから50年。2104年の世界は大きく変わっていた。
「本日のニュースです。グローバル出生統計によると、世界の新生児の65%がキャベツベイビーとなり、史上初めて天然ベイビーの数を上回りました」
朝のニュース番組でアナウンサーが報じている。
「日本では既に85%がキャベツベイビーとなっており、自然出産を選択する女性は少数派となっています。専門家は、この現象を『キャベツ革命』と呼んでいます」
テレビを見ていた山田家では、3世代が朝食を囲んでいた。
「昔はこんなじゃなかったよなぁ」
祖父の山田誠司(82歳)がぼやいた。彼は当然、天然ベイビーだった。
「昔はね、命を授かるというのは奇跡だったんだ。今は注文するようにして子供を作るなんて…」
「お父さん、また始まった」
息子の山田健一(52歳)は苦笑した。彼も天然ベイビーだった。
「でも僕は便利だと思うよ」
孫の山田太郎(17歳)が言った。彼はキャベツベイビーの第一世代だった。
「ボクの彼女も言ってたけど、将来子供が欲しくなったら、絶対キャベツベイビーにするって。自分の体を壊したくないんだって」
「そういう考え方だから、最近の若い女の子は強くなくなったんだ」
祖父が反論する。
「お父さん、それはただの老害の意見だよ」と健一。「時代は変わるんだ」
「変わりすぎだよ」と誠司は言った。「人間が人間を産まなくなったら、何かが失われる気がするんだ」
「何が失われるっていうの?」太郎は本気で不思議そうに尋ねた。
誠司は言葉に詰まった。確かに、キャベツベイビーは遺伝的には親のDNAを引き継いでいる。健康状態も良好で、知能指数も天然ベイビーと差はない。むしろ、キャベツ内での生育環境が最適化されているため、先天的疾患のリスクは大幅に低減されていた。
失われるものは何か? 誠司にはそれを明確に言葉にできなかった。
「俺の時代は、子供を作るって言ったら、まず相手を見つけて、結婚して、それからって道のりがあったんだ」
誠司は朝食のみそ汁をすすりながら続けた。
「いまや、アプリの『ベイビーメイト』を開いて、好みの相手を選んで、DNAをキャベツに入れるだけ。それじゃあ、愛情が育まれるはずがない」
「おじいちゃん、それは違うよ」太郎は反論した。「僕たちの世代だって、真剣に相手を選んでるよ。ただ、子供を作る方法が違うだけで」
「そうか?」誠司は疑わしげに眉をひそめた。「先週のニュースでは、キャベツベイビーの養育放棄が増えてるって言ってたぞ。あまりにも簡単に子供が作れるから、責任感が薄れてるんだよ」
「それはごく一部の例外だよ、お父さん」と健一。「キャベツベイビーを持つ親の多くは、しっかり子育てしてる」
「それでも、何かが違う」誠司は頑固に主張した。「私の時代は、母親がお腹を痛めて子を産むということに、深い意味があったんだ」
「でも、それって女性の身体的な負担が大きかっただけじゃない?」太郎が言った。「今の方が平等だよ。母親も父親も同じように子供を迎えられる」
誠司はため息をついた。孫と自分の間には、埋められない溝があるように感じた。
「太郎」と健一が話題を変えようとした。「今日の学校はどうだ?」
「実は、今日の社会科の授業で『キャベツ革命と現代社会』についてのディスカッションがあるんだ」
「へえ、それは面白そうだな」と健一。
「何を議論するんだ?」誠司も興味を示した。
「キャベツベイビーが主流になったことで、社会がどう変わったか。家族の概念が変わったことや、女性の社会進出が加速したことなんかについて」
「ふん、もちろん、否定的な側面も議論するんだろうな?」誠司が皮肉っぽく言った。
「もちろん。でも、おじいちゃんの言うような『魂が欠けている』とか、そういうオカルト的な話じゃなくて」太郎は冗談めかして言った。
「そんな言い方はしてないだろ!」誠司は少し怒った。「私が言いたいのは、自然なプロセスを経ることの大切さだ」
「でも、『自然』って何?」太郎は真剣に問いかけた。「人間が開発した技術も、自然の一部じゃないの?」
この哲学的な問いに、誠司も健一も答えられなかった。
「もう学校に行く時間だよ」太郎は立ち上がり、バッグを肩にかけた。「今日も『キャベツベイビー』だからっていじめられないといいな」
「いじめられてるのか?」健一が心配そうに尋ねた。
「冗談だよ」太郎は笑った。「今や天然ベイビーの方が少数派なんだから。むしろ、『古代の方法で生まれた珍しい子』って感じでさ」
太郎が出て行った後、誠司と健一は静かに朝食を続けた。
「時代は変わったな」誠司はもう一度つぶやいた。
「ええ、でも太郎はいい子に育ってます」健一は穏やかに微笑んだ。「結局、どうやって生まれたかより、どう育てるかが大事なんでしょう」
「そうだな」誠司も認めた。「ただ、何かが違う気がしてならんのだ」
二人は黙って、テレビに目を戻した。アナウンサーは、キャベツベイビー技術のさらなる進歩について熱心に語っていた。
2.
「キャベツベイビーは人工的に作られた人間であり、魂が欠けている」
新宿の街頭で、「自然出産保護協会」のメンバーたちがビラを配っていた。彼らは天然ベイビーの親たちを中心とした保守的な団体だった。
「人間の出産が機械的プロセスに還元されることに反対します!」
彼らの周りには好奇の目を向ける人もいれば、呆れた表情で通り過ぎる人もいた。
「まだそんなこと言ってる人がいるんだ」
通りかかった若いカップルの女性がつぶやいた。
「頭古いよね。私たち、来月キャベツベイビーの契約するんだ」
彼女の彼氏が応じた。
一方、協会のメンバーの一人、中年の女性は熱心に演説を続けていた。
「かつて、女性は命を育み、産み出す神聖な存在でした。その尊厳が、ただの『血液ドナー』に貶められているのです」
その言葉に足を止めた年配の女性がいた。
「私はあなたたちに賛同します」
その女性は言った。「私は3人の子を自然出産で産みました。その経験は、たとえ辛くても、女性としての私を形作ったのです」
「ありがとうございます。あなたのような方がいてくれて心強いです」
しばらくして、警察官が近づいてきた。
「すみません。このデモは許可を取っていますか?」
「これはデモではなく、啓発活動です」
「最近、キャベツベイビーに関する過激な発言で社会不安を煽る事例が増えています。活動を続けるなら、正式な手続きを踏んでください」
警官は冷静だが、厳しい口調で言った。
「キャベツベイビーを批判しただけで『過激』だなんて、この国の言論の自由はどうなってるんですか!」
協会のメンバーが声を荒げた。
「言論の自由と、差別的発言は別問題です」警官は冷静に応じた。「『魂が欠けている』などの表現は、キャベツベイビーとその家族に対する人権侵害とみなされる可能性があります」
「人権侵害ですって?」中年女性は声を上げた。「私たちは真実を語っているだけです。この国は完全にキャベツ企業の言いなりになっているんですね!」
これを聞いていた若い男性が近づいてきた。
「すみません、私はキャベツベイビーとして生まれました」
彼は静かに、しかし堂々と言った。
「あなたたちの言ってることは、私の存在自体を否定しているように聞こえます。『魂が欠けている』なんて、どうしてそんなことが言えるんですか?」
協会のメンバーたちは一瞬黙り込んだ。
「あなたの存在を否定しているわけではありません」中年女性は少し口調を和らげた。「私たちは、生命の神秘と尊厳を守ろうとしているだけなのです」
「でも、私も生きている人間です。感情も、思考も、夢も持っています」若い男性は冷静に反論した。「ただ、キャベツから生まれただけで、魂が欠けているなんて言われるのは、非常に傷つきます」
この言葉を聞いた周囲の人々は、若い男性に同情的な視線を送った。
「この活動は本日はここまでにしましょう」警官は毅然と言った。「次回からは、適切な許可を取った上で行ってください」
協会のメンバーたちは不満そうに道具をまとめ始めた。
若い男性を見守っていた別の警官が彼に近づいた。
「大丈夫ですか?」
「はい、問題ありません」若い男性は微笑んだ。「こういうことは慣れています」
「何か問題があれば、遠慮なく警察に連絡してください。キャベツベイビーへの差別行為は、違法です」
「ありがとうございます」若い男性は頭を下げた。「でも、彼らも自分たちの考えを表明する権利はあると思います。ただ、もう少し思いやりを持ってほしいですね」
警官は感心したように頷いた。
「驚くべき寛容さですね。これこそが、真の人間性の証だと思います」
「ありがとうございます」若い男性は微笑んだ。「ところで、警官さんはどちらで?」
「私は天然ベイビーです」警官は答えた。「でも、私の子供たちはキャベツベイビーです。だから、こういった差別的な言動には敏感になっています」
「そうですか」若い男性は驚いた表情を見せた。「実は、私の妻も天然ベイビーなんです。でも、彼女は次の子供はキャベツベイビーにしたいと言っています」
「そうですか、それは良かった」警官は微笑んだ。「時代は確実に変わっています。かつての対立は、少しずつ解消されていくでしょう」
若い男性は頷いた。
「そう願いたいですね。このキャベツ革命が、真の意味で人類を豊かにするものになることを」
その言葉に、警官も深く頷いた。
結局、その日の活動は中止となった。社会の主流がキャベツベイビーに傾きつつある中、「自然出産」を主張する声は少数派になりつつあった。
3.
「これが最新のキャベツベイビー育成センターです」
企業の広報担当者が案内するのは、東京郊外に建設されたばかりの巨大な施設だった。ドーム型の建物の中には、何千もの特殊キャベツが整然と並べられ、それぞれが小さな命を育んでいた。
「当施設では、最先端のAIが24時間体制で各キャベツの状態を監視し、最適な環境を維持しています」
見学に訪れていた記者たちが熱心にメモを取る。
「従来の『ライフキャベツ』から進化した新型『プレミアムライフキャベツ』では、胎児の脳の発達を促進する特殊な栄養素を添加することが可能になりました」
「それは知能指数の向上につながるのですか?」と記者の一人が質問した。
「直接的な影響は現時点では証明されていませんが、初期の脳の発達が最適化されることは間違いありません」
「つまり、デザイナーベビーに近づいているということですか?」
「そのような表現は適切ではありません。あくまでも健全な発達を支援するための技術です」
広報担当者は慎重に言葉を選んだ。
「しかし、知能指数の向上が証明されていないなら、『プレミアムライフキャベツ』の価格が従来の3倍という設定は消費者にとって公正でしょうか?」
鋭い質問を投げかけたのは、週刊誌の記者、鈴木麻衣(35歳)だった。彼女自身も天然ベイビーだったが、キャベツベイビー産業には特別な関心を持っていた。
広報担当者は一瞬表情を硬くしたが、すぐに取り繕った。
「価格設定は、先進的な技術開発コストと、24時間体制での厳密な管理システムに基づいています。また、プレミアムライフキャベツではオプションで遺伝子レベルでの疾患スクリーニングも行っています」
「でも、すべての親が『プレミアム』を選べるわけではありません」麻衣は食い下がった。「これは新たな格差を生み出すことになりませんか?」
「我々は政府と協力して、補助金制度も検討しています」と広報担当者。「キャベツベイビー技術の恩恵は、すべての人に平等に届けられるべきだと考えています」
見学は続き、記者団は最新の「キャベツナースロボット」の実演を見学した。人型ロボットが、繊細な動きでキャベツの世話をする様子に、多くの記者は感心の声を上げた。
「これらのロボットは、人間の手以上に正確で、衛生的な管理を実現します」と説明があった。
見学ツアーの後、記者会見が行われた。
「我々の目標は、全ての子供が理想的な環境で育つことができる社会の実現です」
CEOのスピーチに、集まった記者たちは頷いていた。
しかし、その会場の隅で、鈴木麻衣は不穏な表情を浮かべていた。彼女は後日、「キャベツベイビー産業の闇」と題した記事を発表することになる。その記事は大きな波紋を呼ぶことになるだろう。
会見の後、麻衣は施設内のカフェテリアで一休みしていた。そこに、先ほどの広報担当者が近づいてきた。
「鈴木さん、記事の執筆がんばってくださいね」
にこやかな表情だが、麻衣には皮肉に聞こえた。
「ええ、事実を基に書きます」麻衣は冷静に応じた。
「そうですね、事実を...」広報担当者は意味深に言った。「ところで、鈴木さんはお子さんはいらっしゃらないんですよね?」
「はい、まだ」麻衣は警戒心を強めた。
「もし将来お考えなら、当社の『ジャーナリストスペシャルプラン』というものがあります。メディア関係者には特別割引を...」
「結構です」麻衣はきっぱりと遮った。「私の取材と個人的な選択は別問題です」
「もちろんです。失礼しました」広報担当者はにこやかに謝った。「ただ、この業界の内部事情を知れば知るほど、キャベツベイビーの素晴らしさを実感できると思いまして」
「本当の素晴らしさなら、隠すことなく報じられるはずです」麻衣は立ち上がった。「今日はありがとうございました」
麻衣がカフェテリアを出ようとした時、一人の女性従業員が彼女に近づいた。
「鈴木さん」女性は小声で言った。「私、あなたに話したいことがあります。でも、ここではまずいです」
麻衣は驚いたが、冷静に対応した。
「どこで話せます?」
「今夜8時、新宿の『キャベツカフェ』で。一般客も多いから目立ちません」
「わかりました」麻衣は頷いた。「お名前は?」
「森下です。それ以上は会ってから」
森下はそそくさと立ち去った。麻衣は何も聞かなかったようにその場を後にした。
彼女の胸の内では、記者としての鋭い直感が告げていた——今回の取材は、単なる企業広報の報道ではなく、もっと大きな何かに繋がるかもしれないと。
その夜、麻衣が「キャベツカフェ」に到着すると、森下と名乗った女性は既に待っていた。彼女は神経質そうに周囲を窺いながら、麻衣を奥のテーブルへと案内した。
「ありがとうございます、来てくださって」森下は声を潜めた。
「何をお話ししたいのですか?」麻衣は率直に尋ねた。
「私は5年間、キャベツベイビー育成センターで働いています」森下は言った。「最初は理想に燃えて入社しました。でも、最近の方針転換には耐えられません」
「方針転換?」
「プレミアムライフキャベツです」森下は眉をひそめた。「あれは単なる高級志向のマーケティングではありません。実際に...遺伝子操作を行っているのです」
麻衣は息を飲んだ。
「それは法律で禁止されているはずです」
「表向きは『最適化』と呼んでいますが、実質的には知能や外見に関わる遺伝子を選別しています」森下は手元のタブレットを取り出し、データを見せた。「これが通常のキャベツベイビーと、プレミアムのDNA比較です」
麻衣はデータを凝視した。彼女は遺伝学の専門家ではなかったが、明らかな違いがあることは理解できた。
「これは...大変なことです」麻衣は言った。
「人類は二つの種に分かれようとしています」森下は真剣な表情で言った。「お金持ちの『プレミアム』と、一般の『スタンダード』。それも、今はまだ小さな差ですが、世代を重ねるごとに広がっていくでしょう」
「なぜこれを私に?」麻衣は尋ねた。
「あなたは正直な記者だと聞いています」森下は答えた。「私一人では何もできません。でも、これが世に知られれば...」
「危険ではないですか?」麻衣は森下の身を案じた。
「もちろんです」森下は苦笑した。「でも、子供たちの未来のためなら...」
二人はさらに話し合い、森下は内部資料を麻衣に渡すことに同意した。
「一週間後、同じ場所で」森下は言った。「それまでに証拠を集めます」
麻衣は頷いた。彼女は大きなスクープの予感と同時に、不安も感じていた。この記事が世に出れば、社会は大きく揺れ動くだろう。そして、それは彼女自身の人生も変えるかもしれなかった。
4.
「母さん、なんで私はキャベツから生まれたの?」
14歳の娘、佐藤美月が突然尋ねた。夕食の席で、母親の佐藤香奈は箸を止めた。
「どうして急にそんなことを聞くの?」
「学校で、天然ベイビーの子たちがキャベツベイビーの私たちを変わり者扱いするんだ」
美月は俯いた。
「それに、私たちには本当の誕生日がないって言うの。キャベツから取り出された日を誕生日って言ってるだけだって」
香奈は深呼吸した。この日が来ることは予想していた。
「美月、あなたが生まれる前、私と父さんは子供が欲しくて何年も頑張ったの。でも、なかなか恵まれなくて…」
「不妊治療をしてたの?」
「そう。それでも駄目だったから、キャベツベイビーという選択をしたの。あなたを授かるために」
「でも、母さんのお腹で育ったわけじゃないんでしょ?」
「そうね。でも、あなたは私と父さんの遺伝子を持っているし、私たちが切実に望んで生まれてきたのよ」
「でも…」美月は言葉に詰まった。「キャベツの中で育ったってことは、母さんと特別なつながりがないってことじゃない?」
香奈は娘の手を取った。
「特別なつながりは、生まれた後に作るものよ。私はあなたを育てながら、毎日そのつながりを感じてきたわ」
美月は少し納得した様子だったが、まだ何か引っかかるものがあるようだった。
「でも、天然ベイビーの子たちは、お母さんのお腹の中にいた時から、お母さんの声を聞いたり、気持ちを感じたりしてたって言うんだ」
香奈は答えに窮した。確かに、それは彼女が娘に与えられなかった経験だった。
「美月、人と人とのつながりは、生まれ方よりも、生まれてからどう愛し合うかが大切なのよ」
「でも、それはただの言い訳じゃない?」美月は意外にも鋭く指摘した。「母さんが選んだ方法のせいで、私は母さんのお腹の中にいる経験を失ったんだよ」
香奈は衝撃を受けた。娘がこれほど深く考えていたとは。
「確かに、あなたの言う通りかもしれない」香奈は正直に認めた。「でも、私たちは別の形で特別なつながりを作れたと思うわ」
「どんな?」
「あなたがキャベツの中にいる9ヶ月間、私は毎日話しかけたわ。センターに行って、あなたのいるキャベツのそばで本を読んだり、歌を歌ったりしたの」
「えっ、そんなこと初めて聞いた」美月は驚いた表情を見せた。
「父さんも一緒によく行ったわ。二人で交代で話しかけたりしたの。あなたが動くと、キャベツが少し震えるの。それがとても嬉しくて」
香奈の目に涙が浮かんだ。
「本当?」美月は半信半疑だった。
「本当よ。写真もあるわ」
香奈は立ち上がり、リビングの棚から古いフォトアルバムを取り出した。そこには、大きなキャベツの前で微笑む香奈と夫の姿が写っていた。
「これが、あなたがいたキャベツよ」
美月はアルバムを食い入るように見つめた。
「じゃあ、私は母さんのお腹にいなかったけど、母さんが毎日会いに来てくれてたんだ」
「そうよ。育成センターの人たちは、最初は困惑してたけど、私たちはあなたに毎日話しかけることにこだわったの」
「他の親たちは?」
「みんながそうしたわけじゃないわ」香奈は認めた。「多くの親は、技術を信頼して任せきりだったかもしれない。でも、私たちは違ったの」
「だから私は特別なの?」美月はちょっと得意げに言った。
「そういうことね」香奈は笑った。「あなたは特別なキャベツベイビーよ」
二人は笑い合った。緊張が解けた瞬間だった。
「でも、母さん」美月は再び真剣な表情になった。「私が大きくなって、子供を持つときは、どうしたらいいと思う?」
「それはあなた自身が決めることよ」香奈は言った。「キャベツベイビーを選んでも、自然出産を選んでも、どちらも素晴らしい選択だわ」
「母さんは後悔してる?」突然の質問に、香奈は一瞬言葉を失った。
「...いいえ」香奈は静かに答えた。「後悔はしていないわ。あなたを得るためには、どんな方法でも選んだと思う。ただ...」
「ただ?」美月は母の言葉を待った。
「女性として、命を育む経験ができなかったことに、少し寂しさはあるわ」香奈は正直に認めた。「でも、それはあなたへの愛情とは全く別の話よ」
「わかった」美月は頷いた。「私のことを愛してるんだね」
「もちろんよ」香奈は娘を抱きしめた。
夕食後、一人になった香奈は静かに涙を流した。子供を持つ喜びと引き換えに、何かを失ったのかもしれない。しかし、それは仕方のないことだった。彼女の世代で、天然ベイビーを産む選択をした女性はほとんどいなかったのだから。
5.
キャベツベイビーのクラスだけが通う特別学校「グリーンスプラウト学園」。ここは、キャベツベイビーの特性に合わせた独自のカリキュラムが組まれていた。
今日は17歳の山田太郎の大切な日だった。彼はクラスで「キャベツ革命と私たち」というテーマでのスピーチを担当することになっていた。
「キャベツベイビー技術の登場から50年が経ち、私たちは『キャベツ革命』の真っ只中にいます」
太郎は落ち着いた声で話し始めた。教室には40人ほどの生徒が集まっていた。全員がキャベツベイビーだった。
「私たちの親の世代では、キャベツベイビーは『選択肢の一つ』でした。しかし今や、主流となっています。2104年現在、日本の新生児の85%がキャベツベイビーです」
クラスメイトたちは熱心に耳を傾けていた。
「これは単なる出産方法の変化ではなく、社会構造そのものの変革です。例えば、女性の社会進出率は過去50年で倍増しました。キャベツベイビー技術によって、出産による女性のキャリア中断がなくなったからです」
教師の中原先生(45歳・女性・天然ベイビー)は頷きながら聞いていた。
「また、家族の形も多様化しました。シングルマザーやシングルファーザーが子供を持つハードルは大きく下がりました。さらに、同性カップルにとっても、子供を持つ選択肢が広がりました」
太郎は少し間を置いてから続けた。
「しかし、課題も存在します。キャベツベイビーがジェネレーションギャップを生み出しているという指摘もあります。また、『プレミアムキャベツ』の登場により、経済格差が生物学的格差に直結する可能性も懸念されています」
教室の後ろで、一人の女子生徒が手を挙げた。鈴木雪乃(17歳)だ。
「質問があります」雪乃は立ち上がった。「太郎くんは自分がキャベツベイビーであることに、誇りを持っていますか?」
意外な質問に、教室が静まり返った。太郎は少し考えてから答えた。
「誇りというよりは...それが私の個性の一部だと思っています。キャベツから生まれたか、子宮から生まれたかは、私自身の選択ではなく、親の選択です。大切なのは、その後どう生きるかだと思います」
「でも、私たちは社会から異質な存在として見られることもありますよね」雪乃は続けた。「特に年配者からは」
「確かに」太郎は認めた。「でも、それは単に時代の変化に対する戸惑いかもしれません。私の祖父も最初は懐疑的でしたが、今では私を普通の孫として受け入れてくれています」
「それは太郎くんが幸運なだけでは?」別の生徒が発言した。「私の祖父母は、私が『本物の子供』ではないと今でも言います」
クラスで議論が白熱し始めた。
「皆さん、冷静に」中原先生が介入した。「太郎くんのスピーチに戻りましょう」
太郎は続けた。
「確かに、世代間の理解のギャップは依然として存在します。しかし、私は楽観的です。なぜなら、時間が解決してくれると思うからです。私たちが親の世代になるとき、キャベツベイビーはもはや特別なことではなく、当たり前の存在になっているでしょう」
「でも、それって次は何が来るんでしょう?」雪乃が再び質問した。「キャベツベイビーが『古い技術』と見なされる日が来るかもしれませんよね」
「それは可能性としてあります」太郎は真剣に応じた。「技術は常に進化します。しかし大切なのは、どんな技術であれ、人間の尊厳と平等を守ることだと思います」
スピーチの後、太郎は大きな拍手を受けた。中原先生も満足そうに微笑んでいた。
授業の後、雪乃が太郎に近づいてきた。
「素晴らしいスピーチだったよ」彼女は言った。「でも、正直に言うと、私にはもっと複雑な気持ちがあるんだ」
「どんな?」太郎は興味を示した。
「私たちは『製造された子供』なんだよ」雪乃は静かに言った。「それって、人間の価値を下げるんじゃないかって思うことがある」
「そんなことはないよ」太郎は即座に反論した。「私たちは親に望まれて生まれてきたんだ。それは天然ベイビーと同じだよ」
「でも、プロセスが工業的すぎると思わない?」雪乃は続けた。「私のお母さんは、私が生まれるまでの9ヶ月間、一度も育成センターに来なかったんだよ。『プロに任せておけば大丈夫』って言って」
「それは...ちょっと寂しいね」太郎は同情した。「僕の両親は毎週のように会いに来てくれたよ」
「私、時々思うんだ」雪乃は視線を落とした。「もし私が天然ベイビーだったら、お母さんはもっと愛情を持ってくれたんじゃないかって」
「そんなことはないよ」太郎は彼女の肩に手を置いた。「愛情の深さは、生まれ方で決まるものじゃない」
「理屈ではわかってる」雪乃は少し笑った。「でも、感情は複雑なんだ」
「わかるよ」太郎も頷いた。「僕たちは人類史上初の『キャベツ世代』だからね。前例がない道を歩いてるんだ」
「そうだね」雪乃は少し元気を取り戻した。「だからこそ、私たちがしっかりしないといけないんだよね」
「そう、僕たちが先例を作るんだ」太郎は力強く言った。「後に続く世代のために」
二人は廊下を歩きながら、キャベツベイビーとして生きることの意味について、真剣に話し合った。彼らは知らなかったが、この日の会話が、後に太郎と雪乃が立ち上げる「キャベツアイデンティティ運動」の原点となるのだった。
6.
「これは単なる技術革新以上のものです。私たちは人類の歴史の転換点にいるのです」
ノーベル医学生理学賞を受賞したキャベツベイビー技術の開発者、ディエゴ・モレノ博士(87歳)は、東京大学での特別講演でそう語った。
「キャベツベイビー技術は、単に出産の苦痛から女性を解放しただけではありません。人類と自然の関係を根本的に再定義したのです」
会場には研究者や学生のほか、メディア関係者も多数詰めかけていた。その中に、鈴木麻衣の姿もあった。彼女は「キャベツベイビー産業の闇」の記事を発表し、キャベツベイビー業界の内部告発者となった森下とともに、大きな波紋を呼んでいた。
「モレノ博士」麻衣は質疑応答の時間に立ち上がった。「『プレミアムライフキャベツ』で行われている遺伝子操作について、どのようにお考えですか?」
会場に緊張が走った。モレノ博士は一瞬表情を硬くしたが、すぐに取り繕った。
「私の開発した基本技術は、あくまで自然な生殖プロセスの代替手段として設計されました」博士は慎重に言葉を選んだ。「特定の企業が行っている『強化』については、科学者として懸念を持っています」
「では、人類が『プレミアム』と『スタンダード』に二分化することへの懸念は?」麻衣は畳みかけた。
「それは防がねばならない事態です」モレノ博士は明確に答えた。「私の夢は平等な世界の実現であり、新たな差別の創出ではありません」
講演後、モレノ博士は麻衣に個別に話しかけてきた。
「鈴木さん、あなたの記事は重要な問題提起でした」博士は静かに言った。「私の技術がこのように使われることは、本意ではありません」
「でも博士、技術が開発されれば、そのような応用は避けられないのではないですか?」麻衣は問いかけた。
「その通りです」モレノ博士は悲しげに頷いた。「だからこそ、私はもう一つの技術を開発しています」
「もう一つの技術?」
「はい、誰もがアクセス可能な、オープンソースのキャベツベイビー技術です」博士は熱を込めて説明した。「特許や知的財産権の制限なく、世界中どこでも利用できる基本技術を」
「それは素晴らしいアイデアですが、企業は反対するでしょう」麻衣は現実的な懸念を示した。
「もちろんです」博士は苦笑した。「しかし、技術は人類全体のものであるべきです。特に、生命を創造する技術は」
二人の会話は、若い研究者の登場で中断された。
「モレノ博士、次のセッションの時間です」
「わかりました」博士は麻衣に向き直った。「鈴木さん、あなたのような記者が真実を報じ続けることが、技術の民主的な発展には不可欠です」
麻衣は頷いた。彼女は記事を書き続けることを決意していた。
会場を出ると、麻衣のスマートフォンに通知が届いた。森下からのメッセージだった。
「緊急事態。会社が私の内部告発を特定。逃げなければ。詳細は後ほど」
麻衣は息を飲んだ。状況は彼女の想像以上に深刻になっていた。
彼女が急いで会場を出ようとしたとき、見知らぬ男性が近づいてきた。
「鈴木麻衣さんですね」男性は低い声で言った。「私はグローバルキャベツ社の顧問弁護士です。あなたの記事について話がありますが」
「弁護士を通して連絡してください」麻衣は冷静に応じた。
「残念ですが、それでは遅いかもしれません」弁護士は意味深に言った。「森下さんの安全についても、保証はできませんよ」
「脅しですか?」麻衣は声を上げた。
「事実の指摘です」弁護士はにやりと笑った。「あなたの記事は多くの誤情報を含んでいます。訂正記事を出していただければ、民事訴訟は避けられるでしょう」
「私の記事に誤りはありません」麻衣は毅然と言った。「証拠もすべて持っています」
「本当に?」弁護士は意味深に問いかけた。「森下さんが提供した証拠が、実は彼女の個人的な恨みから捏造されたものだとしたら?」
麻衣は一瞬動揺したが、すぐに冷静さを取り戻した。
「調査報道の基本は、複数の情報源による確認です」彼女は自信を持って言った。「私の記事は森下さん一人の証言に基づいているわけではありません」
弁護士は少し表情を曇らせた。
「考え直す機会を差し上げます」彼は名刺を差し出した。「明日までに連絡をください」
麻衣は名刺を受け取ったが、何も約束はしなかった。彼女は急いで会場を後にし、安全な場所に移動した。そこで彼女は森下に連絡を試みたが、応答はなかった。
「プレミアムキャベツの真実を、何としても世に知らせなければ」麻衣は決意を新たにした。「たとえ大企業を敵に回すことになっても」
彼女はノートパソコンを開き、フォローアップ記事の執筆を始めた。キャベツベイビー革命は、彼女が想像していた以上に複雑で、多くの利害関係が絡み合っていた。
7.
「天然かキャベツか、それが問題だ」
東京・渋谷の繁華街に面した大型ビジョンでは、有名コメディアンがキャベツを抱えて「ハムレット」の有名な台詞をもじったCMを流していた。キャベツベイビーは、すっかり日常に溶け込んでいた。
その映像を眺めていたのは、キャベツベイビー第一世代の彼女を持つ大学生、高橋直樹(22歳・天然ベイビー)だった。
「やっぱり子供はキャベツベイビーがいいよね」
彼の彼女、田中ミカ(21歳・キャベツベイビー)が言った。二人は大学のキャンパス近くのカフェで、将来について話していた。
「そうかな...」直樹は少し躊躇した。「俺、実は天然ベイビーの方がいいなって思ってるんだ」
「えっ」ミカは驚いた表情を見せた。「なんで? 全然メリットないじゃん」
「メリットだけじゃないと思うんだ」直樹は真剣な表情で言った。「人間の営みとして、自然な過程を大切にしたいっていうか...」
「『自然』ってなに?」ミカは少し語気を強めた。「スマホもAIも使ってる私たちが、なぜか出産だけ『自然』にこだわるの? おかしくない?」
「そう言われると反論しづらいけど」直樹は頭をかいた。「でも、命を作るっていうのは特別なことだと思うんだ」
「私がお腹を痛めて産むのが『特別』なの?」ミカは冷ややかに言った。「随分と男性的な考え方ね」
「そういう意味じゃなくて」直樹は焦った。「二人の間に生まれる子供だからこそ、自然なプロセスで...」
「私の体を犠牲にしろってこと?」ミカは立ち上がった。「私はキャリアも大切にしたいし、体型も崩したくない。それが悪いことなの?」
「悪いなんて言ってないよ」直樹は手を振った。「ただ、選択肢として考えてみたいだけで...」
「もう時代は変わったのよ」ミカは鞄を取り上げた。「キャベツベイビーが選択肢じゃなくて、スタンダードなの。それが嫌なら...」
そこまで言ってミカは立ち去った。直樹は呆然と彼女の背中を見送った。
数日後、直樹はキャンパスの図書館で偶然、佐々木教授(58歳・天然ベイビー)に出会った。彼は生命倫理学の権威で、直樹が尊敬する教授だった。
「先生、少しお時間よろしいですか?」直樹は勇気を出して声をかけた。
「ああ、高橋君」教授は微笑んだ。「どうしたんだい?」
「実は...」直樹は躊躇いながらも、ミカとの議論について話した。
話を聞き終えた教授は、しばらく考えてから口を開いた。
「難しい問題だね」教授は言った。「これは単なる技術の問題ではなく、価値観の対立なんだ」
「先生は天然ベイビーとキャベツベイビー、どちらが良いと思いますか?」
「良い悪いの問題ではないと思うよ」教授は答えた。「大切なのは、『なぜその選択をするのか』という理由だ」
「理由...」
「例えば、単に便利だからという理由でキャベツベイビーを選ぶのと、深く考えた末にキャベツベイビーを選ぶのでは、意味が違う」教授は続けた。「同様に、単に伝統的だからという理由で天然ベイビーを選ぶのと、特定の価値観に基づいて天然ベイビーを選ぶのも違う」
「でも、彼女は絶対にキャベツベイビーがいいって...」
「それは彼女の価値観だね」教授は穏やかに言った。「君は彼女の価値観を尊重しつつ、自分の価値観も大切にしなければならない。そこに妥協点があるかどうかは、二人で見つける必要があるだろう」
「妥協点...」直樹は考え込んだ。
「高橋君、この問題は夫婦間の価値観の相違として昔からあったものだよ」教授は哲学的に言った。「ただ形が変わっただけで、本質は同じなんだ」
直樹は頷いた。教授の言葉に少し救われた気がした。
その晩、直樹はミカに連絡を取り、話し合いの機会を求めた。
「ごめん、あの時は一方的だった」ミカは素直に謝った。「でも、私にとってはとても大事なことなの」
「わかってる」直樹も真剣に応じた。「お互いの考えを尊重しながら、ゆっくり話し合っていこう」
二人の間には、まだ解決すべき大きな問題があった。しかし、それは二人だけの問題ではなく、キャベツ革命の時代を生きる多くのカップルが直面している課題だった。彼らの選択が、この時代の新しい家族のあり方を形作っていくことになるだろう。
8.
2104年12月31日、世界は新年を迎える準備をしていた。
東京タワーの展望台では、特別なカウントダウンイベントが開催されていた。このイベントは「キャベツ革命50周年記念」と銘打たれ、世界初のキャベツベイビーが誕生してから半世紀を祝うものだった。
会場には多くの著名人が集まっていた。最初のキャベツベイビーとして生まれた歴史的人物、ジュリア・チェン(50歳)もスペシャルゲストとして招かれていた。
「50年前、私が世界で初めてキャベツから取り出されたとき、多くの人が『不自然』『倫理に反する』と批判しました」
ジュリアは聴衆に向かって語りかけた。
「しかし今、キャベツベイビーはもはや特別なことではありません。私たちは新しい時代を築いてきたのです」
会場からは大きな拍手が起こった。
一方、東京の下町にある小さな神社では、別の集まりがあった。「自然出産を守る会」のメンバーたちが、ひっそりと新年を迎える準備をしていた。
「キャベツベイビーが主流になって50年」60代の女性が小さな声で言った。「世界は便利になったかもしれないけど、失ったものも大きいわ」
「そうだね」別の高齢の男性が応じた。「でも、私たちの声も少しずつ広がってきている。最近の若い人たちの中には、『自然回帰』を求める動きもあるからね」
彼らは静かに盃を交わし、新年の到来を待った。
都内の高級マンションでは、鈴木麻衣が森下とともに、ひっそりと年を越す準備をしていた。二人は内部告発の後、キャベツベイビー企業からの圧力に耐えながら、真実を伝え続ける活動を行っていた。
「来年は、プレミアムキャベツの問題をさらに深く掘り下げよう」麻衣は決意を語った。
「そうですね」森下は頷いた。「モレノ博士のオープンソース技術も、大きなニュースになるでしょう」
「私たちは歴史の分岐点にいるのかもしれない」麻衣は窓の外の夜景を眺めながら言った。「キャベツ革命が次の段階に進む瞬間に」
山田家では、3世代が集まって年越しをしていた。82歳の誠司、52歳の健一、そして17歳の太郎。
「来年はどんな年になるかな」太郎が何気なく言った。
「きっといい年になるさ」健一は息子の肩をポンと叩いた。
「私はな、一つだけ望みがある」誠司が静かに言った。「この技術が、人類を分断するのではなく、結びつけるものになってほしいんだ」
「おじいちゃん...」太郎は少し驚いた。「いつもキャベツベイビーに批判的なのに」
「批判じゃないよ」誠司は微笑んだ。「ただ、技術が人間性を損なわないようにと願っているだけさ」
「わかるよ」太郎は頷いた。「僕もそう思う。キャベツから生まれようが、子宮から生まれようが、結局は同じ人間だもんね」
「そうだ」誠司は孫の頭をなでた。「人間は道具を作る生き物だが、その道具に支配されてはいけないんだ」
テレビでは、東京タワーからのカウントダウンが始まっていた。
「10、9、8...」
家族3代は手を取り合い、新年の到来を待った。
「...3、2、1、ハッピーニューイヤー!」
2105年の幕開けだった。キャベツ革命から50年、人類は新たな時代へと踏み出していた。出産の概念を根本から変えたこの革命は、今後も様々な姿で人類の進化と共に歩んでいくことだろう。
誰もがまだ知らなかったが、この2105年は、キャベツベイビー技術がさらなる進化を遂げ、そして予期せぬ危機に直面する年となる。それはまた、人類が「人間とは何か」という根源的な問いに、改めて向き合うことになる年でもあった。
しかし、それはまたの物語である。
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