消えた大叔母と魔女の記憶
桃花西瓜
第1話 消えた9年と空っぽの告別
「ああ、また火事か……」
燃え盛る炎が画面に映り込む。赤く染まった空、立ち昇る黒い煙。テレビの向こうの景色に、胸がざわざわと騒ぎ出す。焦げる木のように、胸の奥から不安が広がっていく。
私は落ち着かない心を静めるように、スマホを開き、SNSをスクロールする。
『また火事かよ。今月入ってもう10件以上だよ』
『異常気象の影響だ』
『放火じゃないのか?』
案の定、火事の話題ばかりだ。こんなのを読んでいたら、かえってさらに気が重くなりそうだが、自分だけがこの心の不安を抱えているわけではないとどこか安心する気持ちがあった。
「
背後から母の声がした。
「え、何で?」
「大叔母さんの葬式よ」
母は神妙な顔をして、私にそう告げた。
「え……葬式? でも、大叔母さんって行方不明じゃなかった?」
私は振り向きざまに、母にそう聞き返した。
「もう9年も見つかっていないのよ。おばあちゃんも、もう待てないって決心したの」
母の言葉には、どこか諦めが滲んでいた。私は何も言えず、ただうなずくしかなかった。
「そっか……わかった」
それだけを言って、部屋へ向かった。
階段を一段ずつ上るたびに、胸の奥が重たくなっていくのを感じた。気づいたら、自分の部屋の扉を閉め、無意識に机の近くへと歩み寄っていた。
視線の先には、小学生に上がる頃に大叔母さんからもらった奇妙なドリームキャッチャーがある。小さな木製の円の中に、網目模様が張られている。でも、不気味な目玉の模様や刻まれた文字のせいで、昔は怖くて仕方がなかった。
「小さい頃はこの目が怖くて箱に隠していたのよね……」
私は手を伸ばし、そのドリームキャッチャーをそっと手に取った。古びた木の感触が手に心地よく伝わる。
大叔母さんが、どうしてこんなものを私にくれたのか――その理由は、今でも分からない。だけど、何となくこれを捨てられなかった。
ドリームキャッチャーをもとに位置に戻すと、クローゼットを開け、旅行用のボストンバッグを引っ張り出した。
翌日、大叔母さんの葬式は静かに進んだ。身内だけが集まり、こじんまりとした式だった。
私の手には一輪の花。棺桶は空っぽで、その空虚さが私の心にも響いていた。
本当にこれで終わりなの?
大叔母さんは死んでしまったの?
そんな疑問が頭を巡る。悲しむことすらできないまま、ただ花を見つめていた。
葬式が終わり、次の日は大叔母さんの家へ行くことになった。いつもは穏やかな親族たちも、家に近づくにつれて口々に文句を言い始める。
「まったく、こんな山奥に家を建てるなんてね。本当に人付き合いが嫌いだったんだろうな」
「この土地、どうするつもりだ? 調べたけど、地価は安いし使い道もないぞ」
その言葉に内心反発を覚えたが何も言い返せず、ただ静かに聞いているしかなかった。大叔母さんが選んだ場所。それには何か理由があったはず。周囲を見渡すと、家はツルに覆われ、その周辺には木や花が好き放題に育っている。これが、あの人の世界なんだ。
おばあちゃんが古びたカバンから封筒を取り出し、中から銀色の鍵を手にした。この奇妙な家にピッタリの樹木のようなデザインだ。目玉の装飾と目があった気がして胸がざわつく。
鍵穴に差し込まれる音が静かに響き、ガチャリ、と心地よい音がした。みんなが息を飲む中、さび付いた音を立てながらドアが開いた。
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