第2話 暁の恋人
199■年、私の職業は個人探偵だった。とある街での不可解な殺人事件の捜査依頼を受け、ひたすらに事件の足跡を探し求めていた。独自で捜査を続けていくうちに、1人の女に行き届いた。ついに禁断に触れられる、そんな期待でドアを開けた先に待っていたのは───
得体の知れない"愛"だった。
今まで生きてきて知らなかった世界が、急に飛び込んできた。不思議と抵抗できないその見えないヴェールに包まれ、一瞬で丸め込まれ、真っ黒な愛に溺れてしまう。
「お前が気に入った」
その一言が脳にへばりつき、心臓を鷲掴みにした。捜査を投げ出し、警察との関係を切り、行方をくらまし、その愛情をくれた人、知らない世界へ引き入れてくれたその人と、私は──
──地獄へ堕ちた。
「アリィ! どこにいるの!?」
アルフレッド・アリア。
私が追っていた人物であり、私をこの世界へ引きずり込んだ張本人であり、私の恋人であり……殺人鬼だ。
「クレア、ここだ。こっちに来い、飛べ」
「…!」
気だるさが混ざった低い声。
死ぬ前に聞いたあの声。
会いたかった。少し見上げた空中に翼と腕を広げ、微笑みながら私を見ている。
「アリィ! やっと見つけた!」
翼をはためかせ、飛びつく。私より高い背丈。頭は丁度アリィの胸元辺り。別れてから程ないというのに鼻をくすぐる懐かしい匂い。老若男女あらゆる人を殺めたとは思えないほどに暖かい手。その全てに惚れ直す勢いで頬を擦り付ける。
「……この場所は広くて探すのに手間取った、すまないな……クレア。」
急に抱き寄せられる。温もりが全身をつつみ、死んだ思考が色付く錯覚さえ覚える。初恋をした乙女のように胸が高鳴る。止まったはずの心臓が痛い。
「──お前を襲おうとしたクズは何処にいる?」
言葉からは底が知れないほどの憎悪と怒りが汲み取れた。ああ、この人は今。
私の為に怒り、私のためだけにその怒りをぶつけようとしてくれているのか。私に対する独占欲、深すぎる愛情は、焼き尽くされても──
「私をからかって、襲おうとしてきたクズは……」
変わらない。だからこそ、私も貴女を離したくないし、離れたくない。
「──向こうだよ、アリィ。二人組、短い角が生えてた。周りに同じような奴は居なかったから、すぐ分かる」
「なるほど、わかった。……アリィ、ここで待っていてくれ。すぐ終わらせてくる」
額へ、"ちゅ"っとキスを落とされる。それは愛情の証。死ぬ前の舌を絡め合うあのキスとは違う、軽く、しかし重い愛。私は"行ってらっしゃい、アリィ"と無意識に発言していた。アリィは私に小さく微笑んでから、優しく地面へと下ろし、指を指した方へ飛んでいった。
──────
許せない。許せるわけが無い。私の恋人、私だけのもの、私だけのクレアだ。それに手を出しただと?許せるか、許せるものか。後悔させる間もなく殺してやる。
飛んでいると、程なく匂うクズの匂いが2つ。クレアから言われた姿。間違いない。目の前へ降り立つ。
「……あ? 今度はなんだよ…別の女か?」
「はははっ!おいお前!ちょうど良かった。さっきそこからパクったクスリがあるんだが試さねえか?これすげえよ、頭がすげぇキマるぜ!」
「……下劣な悪魔め。死に晒せ!」
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