夢の中の女
──夢といえばね。
私、小さい頃から繰り返し見ている夢があって。
──違う違う、夜眠っている時に見る夢の方。
今でも多いときは週2くらいで見るんだけど。
──いや、ホント。ヤバくない?
でね、それはある町の夢で。私はそこに住んでるの。
──ううん、実際には無い町。たぶん。
少なくとも、私が小さい頃に住んでた町とかではないの。
それでさ、明晰夢っていうの?
夢の中で「あ、ここは夢の中だ」ってわかってて。
──そうそう。自由に動けんの。良いっしょ〜。
でさあ、うちって昔から厳しくて。
もう幼稚園の頃からさ勉強勉強って。
──それでこの学校ってどうなのよって? ほっとけ。
だからさあ、その、親が遊びに連れてってくれた記憶があんまりないんだよね。いや、さすがにゼロってわけじゃないと思うけど。あんま、思い出に残ってないっていうか。
でも小さい頃──それこそ幼稚園の頃とかはさ、別の家がどうとかは知らないから、勉強はヤだったけど、まあこんなもんかなって思ってたの。でも小学生くらいになるとさ「あれ? なんかうちだけ違くね?」ってなって。
とはいえさ、うちの親、めっちゃ勉強しろってしてくるけど、こう、何ていうの? キツくはないんだよね。私が大人しく言われた通りやってたってのもあるかも知れないけど。その、怒鳴ったりとか? それこそ叩いたりとかは全然なくて。私が勉強してるとき、親も勉強してるから、たぶん、何ていうのかな、単純に勉強好きなんだと思う。最上級のホビー? エンタメとしてさ、勉強してる、みたいな。
──え、ちょ、キモイはやめて。
私はさあ、そこまで勉強好きなわけじゃないし、頭も良くないけど。でも、家での勉強はさ、学校の勉強みたいなのに限らず、図鑑を読んだりとか「マンガで学ぶ歴史」みたいのとか。──そうそう、そうなの。だから楽しいっちゃ楽しくて。だから感謝してるっちゃしてるんだよね。こうやって、夢みつけて専門入るきっかにもなったと思うし。
で、ね。もう、ちょっと自分語り入っちゃった。違う違う。そうじゃなくて。夢の話ね、夢の話。
まあ、だからさ、えっと、なに。そう、だからさ、勉強自体はストレスに感じてないつもりだったんだけど。でも、たぶん心の底では? どっかで遊びたい気持ちがあったんだと思うんだよね。だからそういう夢をみてたのかな、って。
──でしょ〜? 小さい私かわいそう。
夢の中では自由に動けるからさ、友達と鬼ごっこしたりとか。
──え? いや実際にはいない友達。言ったじゃん、私、リアルで友達と外で遊んだことないんだってば。──おいおい泣くな泣くな。今はあんたがいるし、私自身は全然、それが不幸だとかは思ってなかったんだって。今もね。
だけど、楽しかったなあ。鬼ごっことか、かくれんぼとかさ。町に住んでる子供達にルール教えてもらってさ。基本的に町の中では昭和かよって感じの遊びしかないんだけど。──そう、ゲーム機とかもなくて。でも、スイミングとかは習ってたけどさ、体動かして遊ぶってあんまりしてこなかったから、私めっちゃどんくさくて。──いや、ちょっ「わかる」ってなに。やめてほんと。自覚はあるから。
でね……何だっけ。もう、全っ然話進まないんですけど。だからその、子供の頃はその夢が癒しだったって話なんだけど。だから、その、子供の頃は、こう、現実の逃げ場みたいな感じでその夢はあったのかな、って。成長してから思うようになったわけよ。
けどさ、今も見るんだよね。
今は家も出て一人暮らししててさ。まあひとよりはインドア派だけど、ねえ、あんたみたいな気の合う友達も出来てさ。こうやって、ほら、外に出て遊ぶ機会も増えたわけじゃん。
でもさ、まだ見んのよ。同じ夢。
さすがにさあ、もう鬼ごっことかはしないんだけど。そうなると娯楽がないんだよね。あの町。一応図書館とかはあるから、本読んだりして時間潰すんだけど。
──そうなのよ〜。明晰夢のツラいとこなの。逆に。とりあえず自分が起きるまでは適当に時間潰すしかなくてさあ。いやほら、無理に起きようとするとさ、しんどいのは私だし。
──え? いやそれがさ、飛んだりは出来ないのよ。
──そう、物理法則っていうの? そこは現実と同じで。
──確かに。逆に夢がないよね。夢のクセに。ウケる。
はあ……それにしても、子供の頃はわかるけどさあ、なんでまだ見るんだろ。あの夢。
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