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プロローグ

「ああ、ハルカの声が聞こえる」


 ベットの横で、女性が泣いていた。ベッドの上には幼い女の子が眠っていた。女の子の腕には点滴が刺さっていて、胸のあたりにいくつか電極が引っ付いていた。電極から伸びた電線がモニター付きの医療機器に繋がっていた。ピッピッという無機質な心電図を取る機械の音と女性の泣き声が、病室に響いていた。


 女性が泣くたびに、ぼた、ぼたと涙が床にこぼれ落ちていった。


「ああ、ハルカの声が聞こえる」


 女性は何度も何度も、そう言って泣いていた。女性は女の子の腕に頬を押しやって、愛おしそうに両腕で抱きしめていた。ベッドの脇にある机に、黒いノートパソコンが置かれていた。艶消し塗装の、黒い筐体だった。女性はそのパソコンを見るたびに、涙を溢れさせた。


 女性の様相は酷いものであった。瞼はくまで真っ青で、眼球は泣いているせいで赤く腫れていた。髪は枯れ枝のように荒れているうえに腰まで長く伸び、腕も足もみすぼらしい程に痩せていた。


 女の子の顔は、ぴくりとも動かなかった。女性が横で泣いていて、腕を抱きしめられているというのに、ちっとも反応は無かった。女の子は寝返りもせずただずっと眠っていた。女の子の寝ている姿には、なんだか生気がなかった。まるで、人形がベッドの上に寝ているかのようであった。


「ああ、ハルカの声が聞こえる」


 冬の静かな夜だった。明るい月が、優しく病室を照らしていた。窓の外の街の明かりが、星のように瞬いていた。

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