短いスカート、長いソックス

葛籠澄乃

全1話

 わたしの知っている年頃の女の子たちというのは、いつも男の子に夢中だ。男の子を誘惑したくてたまらないといった体臭フェロモンをしている。先生達にバレないようにメイクを欠かさないし、ある子は髪を緩く巻いていたり、自然なストレートにしてシャンプーのCM並みに髪を靡かせている。たまに、トイレの個室ですれ違うと、その狭い空間に香水かヘアオイルのキツい匂いが残って咽せそうになる。


 周りの女の子たちがそんな体臭を見せびらかすのに夢中なのに対して、わたしは女の脚ばかりを目で追っている。スカートから覗く真っ白な脚。産毛なんて見当たらず、細く、どこか肉を感じるしなやかな曲線美に、わたしは思わず顔を赤らめずにはいられない。膝上5〜8センチのスカートに、膝下で止まるソックス。あれはいけない。白でも黒でもなく紺はますますわたしを興奮させてしまう。なぜそうさせるのかはよくわからない。ただ、たまらんなあ、と思うのだ。きっと本人たちは無意識の領域で行っているのだろう。制服のスカートは程よい短さ、ソックスは校則のもの。入学して数ヶ月経った頃から刻み込まれた日常である。それが顔面や香水なんかよりも、人によっては性的興奮を覚える要因のひとつにもなることを彼女らは知らない。


 わたしが下ばかり向いているは、わたしが自信がなくて人見知りで目線を合わせるのが苦手だからと思われている。が、実際はスカートから覗く太腿、膝裏の筋、脹脛の筋肉の丸みを見てマスクの下で顔を赤らめているのは誰がわかるだろうか。


 ある日、わたしがいつものように友人の半歩後ろを確保して、わたし好みの脚ばかりを気にして歩いていた時のこと。


「いつもあたしの脚ばかり見てるよね?」

「見てないよ」

「見てるよ、その証拠によく話が噛み合わない」

「あなたの脚だけを見てるわけじゃないのよ」

「最低! 変態ね、ほんとに」


 罵られてしまった時に初めて、しまったと思った。わたしはいつもこういう時に限って無駄に本当のことを滑らせてしまう。


「ごめんなさい、もう見ないようにするから機嫌を直してくれる?」


 わたしは普段聞き役に徹するが、今回ばかりはまた口を聞いてもらいたくて顔を見てたくさんの話題を振った。ごめんなさいと反省点をつらつらと連ねもした。しかし、空回りしてしまって空気がますます凍えてきて泣きたくなってしまってまた下を向いてしまうのである。そこにちょうど友人の美しい膝が見えるものだから、多少心が慰められた。顔はポーカーフェイスで隠せても、丸出しの脚は隠せないもの。こんな性格だから、わたしは反省なんてできないんだろうな。男が自分の下半身に従順なように、わたしは自分の性癖に従順すぎる。


「いいよ、もう」


 彼女は諦めたような溜息を零して、なにがおかしいのか、ふつふつと笑う。わたしが困惑したように口角を上げると、ますます笑うのだ。


「わかった、あなたはバカよ、とってもバカ。でも、あたしはあなたのその従順なバカさ加減が大好きなんだわ。でも、もうちょっとわかりにくく盗み見なさいよ、これじゃあ本格的にあなたがあたし以外に変態のレッテルを貼られちゃう」


 バカなのか大好きなのか変態なのかひとつに絞ってほしい。でも、許されたということでいいかしら? わたしは自分の性癖を満たすために、もう少し遠くから前を向いて脚を眺めるということを習得すると約束した。

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短いスカート、長いソックス 葛籠澄乃 @yuruo329

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