二口目 化物

「あ、忘れ物した」

帰路に着く途中、駿佑はそういって学校に戻ろうとする。

「翔馬くん、学校に忘れ物しちゃったから取りに戻るよ、先に帰ってて!」

翔馬は一緒について行こうとしたが、呼び止める間もなく駿佑は走り去っていった。

図書委員の仕事で完全下校まで残っていたせいで翔馬の友達も全員帰ってしまっている。一人でトボトボと駅に向かい改札を通ろうとしたが、カバンから定期券が出てこない。どこかに定期券を落としたか学校に忘れたことを察して絶望しながら翔馬も学校に向かって歩き始めた。完全に施錠された校門を軽々と飛び越え、急ぐ理由もないためフラフラと図書室までの道を戻っていく翔馬。

南棟三階の廊下の突き当たりにある図書室に向かっている間、中央棟の教室で電気が付いてるのを見かけ、教室のなかで騒いでいるように激しく動く人影を見つける。

目を凝らして見てみると中央棟に女子生徒と駿佑がなにやら喧嘩している。

翔馬は急いで中央棟に向かい、激しい物音のする教室に飛び入る。

そこには駿佑を羽交い締めにしている女子生徒がいた。翔馬は喧嘩を仲裁しようと駆け寄る。


「おい何やってんだお前ら!!」

「翔馬くん!?ダメだ、この人から離れて!!」

「ん?」

女子生徒は翔馬の制服の襟を掴んで投げ飛ばした。







凄まじい痛みが翔馬の体を襲った。

翔馬の体は窓ガラスを突き破り中央棟と南棟を繋ぐ渡り廊下まで吹っ飛ばされたのだ。

「あぶねえ...渡り廊下に落ちなかったら死んでたぞこれ...」

「翔馬くん前!!」

後ろを振り返って冷や汗をかく翔馬に向かって駿佑が叫ぶ。


「ぎぃ゛あ゛あ゛ぁ゛ああ゛ぁぁ゛あ゛‼」

女生徒は叫びながら教室の窓際から渡り廊下まであり得ない距離を飛び跳ねて襲いかかってくる。

咄嗟の判断で奇襲を躱した翔馬が振り返ると、瞳を赤く染め、息を荒げたまるで狂犬のような様子の女生徒がいた。

叩きつけた手元にはバキバキに割れた渡り廊下のタイルが握られており、女生徒は人間の可動域を超越している動きでタイルの破片を握った手を振りかぶり翔馬に投げつけようとした。

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