「……馬鹿馬鹿しいと思うだろ?」

 結局、俺は誘いを断った。その後も引き止められることはなく、たらふく高級料理を注文して、俺とリズは船に帰った。大量の食料、燃料、技術と情報をもらい、船も彼らの最先端技術で改良してもらった。

 全く、至れり尽くせりにも程がある。

「うちの星だって、皆が『誰からも支配されたくない』って意地を通したせいで滅んだんだ。この意地は全く合理的じゃあない」

 今は新しい船で一息ついて、リズとお茶をしている。

「いいえ。私はウィリアム様の選択を尊重致します。そのためのですから」

 随分人らしい形の手を手に入れたリズが、空のコーヒーカップを持って返答した。

 形は人らしいが、銀色の中身が表に出ていて、機械らしさも消えていない。

 リズを人型にすることも提案されたが、俺がそれを断ったのでこういう風になっている。

「ありがとな。またしばらく頼むよ」

「勿論です」



 今回の件で一つ、わかったことがある。

俺は、幸せに生きていける星なんて、はなから求めてはいなかった。

俺が求めていたのは、きっと、相応しい死に場所なんだ。

この死に損ないが、納得できる死に場所なんだ。



 以前より美味しくなったコーヒーを片手に、また一つ考える。

「あ〜〜〜やっぱ受け入れてりゃよかったかな〜〜〜〜〜!」

 全く後悔がないわけじゃない。ないわけがない。少し広々とするようにはなったが、またしばらくこの船に缶詰だ。

 というより、もうこの船が棺桶かもしれない。

「食事やら燃料やらはもうどうにかなりそうだし、エンタメもまあ尽きはしないけど……。

 やっぱり孤独だけはどうにもならんね」

 


 コーヒーを飲み終わって、一通りの後悔を愚痴り終わった。

 気は進まないが、再びコールドスリープに入らなければならない。

「準備を頼む」

「了解致しました」

 いつもよりも表面がテカついたポッドが現れた。俺はそこに腰掛ける。

「なあリズ」

「はい」

「俺は次、目覚めると思うか?」

「それは……」

 少しの間計算し、音を開く。

「……ええ、きっと」

「そうか。なら安心だな」

 ポットに横になり、体の位置を整える。

「また何かあればお知らせ致します」

「ああ、頼むよ」

「では」

 俺は、静かに目を瞑った。

「おやすみなさいませ、ウィリアム様」

「おやすみ、リズ」

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タラグラ 巡渦 @meguri_uzu

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