青春ミステリーの傑作

最初はワンアイディアのショートストーリーかと思った。
しかし読み始めてすぐ本格的な推理ものとわかって夢中になった。

主人公の「僕」が地道に捜査を続ける展開がよかった。
超人的な推理力や直感ではなく、学生が英単語を一つずつ覚えるように謎がゆっくりほどけ、また謎が霧のかなたに消えたりする。
序盤の展開はやや遅めだが、「ある瞬間」物語のテンポが一気に急迫する。
この緩急も見事だった。
読んでいて戦慄を覚えた。

PAシートやシールドの八の字巻きが出てきて
「作者さんは絶対バンドやってたな」
と思った。
バンドの蘊蓄学がそのままヒロインの死の謎に直結していて、ここも見事だった。

「僕」が勃起すると死んだ女の子が幽霊となってあらわれる。
これが本作のタイトルの元だが、コメディ味はあんまりない。
むしろちょっと悲しかった。
山田風太郎の『幻燈辻馬車』で、幼い娘が「お父」と叫ぶと戊辰戦争で死んだお父さん(すごく若い)の幽霊が助けにくる話を思い出した。

すべての謎が解けたあとのエピローグは感動的だった。
主人公と作者がともに「全力を出し尽くした」感があって、もう若くないのに泣けてきた。
この感動はめったに得られるものではない。
青春ミステリーの傑作と断言する。
ぜひご一読をおすすめします。

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