3−2 王都に向けて出発
私は今、陰鬱な気持ちで王都に向かう馬車に中で景色を眺めている。
……はあ、ドナドナの子牛ってこんな気持ちだったのかな?
馬車の中には今回王都に向かうメンバーである、伯父さん夫婦とアルウィン兄さん、そして父さんと私が座っている。因みに、クリスは他の使用人達と一緒の馬車の中だ。
伯父さん達夫婦は私の親戚でオウルニィの代官として出席。父さんは私の保護者なのでもちろん出席。アルウィン兄さんはというと、貴族学校に入学する前に王都を見学したいと駄々を捏ねたのと、私の精神安定の為について来てもらう様に伯父さん達に頼んだ。まあ当然ではあるが、国王陛下の謁見には出席はしない。……羨ましい。
母さんはオウルニィにクーパー一族全員が留守になる事を避けたいという理由でオウルニィに留守番となった。本当の理由は、母さんは下級貴族としての礼儀作法しか教わっていなかったので国王陛下の前で粗相をしてしまうのではないかと怯えてしまったからだ。……まあ、気持ちは凄くわかる。
早朝に出発したのに、もう気温はかなり上昇しはじめて馬車の中の温度は急上昇、全員が汗まみれな状態だった。
……海から遠いお陰で湿度は低いけど、馬車の中はサウナ状態だよ。
伯父さん達は貴族の矜持なのか、まるで暑さを感じていないような素振りで平静を装っているけど、あれはかなり痩せ我慢をしているな。
アルウィン兄さんに至っては、かなりグロッキーな状態だ。
先程まで、初めての王都行きにはしゃいでいたが、この気温には敵わなかった様だ。
まだまだ王都までの道のりは長いし、当分の間は気温が下がる様な事はないだろう。このままでは王都に着く前に熱中症で倒れる人が出てくるかもしれない。
私は父さんに魔術の使用許可を申請してみた。……私は平気だけど、みんなの不快そうな表情を見るは心情的に辛いんだよ。
「どうしたんだいアリア。お花でも摘みたくなったかい?」
「違います!ちょっと魔術を使っても良いですか?」
「ん、どんな魔術を使うのかな?」
「とりあえず、馬車付近の気温を下げてみます。このままじゃあ、暑さで倒れる人が出るから」
「それは助かるけど、大丈夫なのかい?アリアの負担にならないのかい?」
「まあ、この程度なら余裕ですよ……」
私は術を行使して、隊列の馬車の中と御者席、馬車を引いている馬の周辺の気温を二十五度付近まで下げた。ついでに日焼け対策として、隊列の上空に見えない日傘を創り紫外線が降り注がないようにしておいた。
「おお、随分と過ごしやすくなったな。魔術とはこんなに大したものなんだな」
「ええ、そうですわね。ありがとうアリア」
これで少しは快適な旅になるだろう。
けど、まだ旅は初日。まだまだ王都までの長い長い道程は始まったばかりだった。
私達一行は最初の宿場町に到着し、貴族が利用する宿屋に入った。
この歳になると、たとえ未成年だとしても殿方と同室になる事はない。それは親子間でも適用されるので、私は個室に案内されていった。因みに部屋割りは伯父さん夫婦で一部屋、父さんとアルウィン兄さんで一部屋となっている。
クリスは私の着替えの為に今は私の部屋に入ってはいるが、寝泊まりは他の使用人と同室になるらしい。
「こんな旅が、まだまだ続くと思っただけでもうグッタリだよ……」
「そうですね。私も馬車での旅は初めてですから憂鬱になるお気持ちは共感できます」
「魔術師学校に入学する時も同じ旅をしないといけないのか……。もう行きたくなくなってきたよ」
「まだ初日ですから。気をしっかりと引き締めないと二週間以上続く道程はクリアできませんよ」
「……私だけ転移で移動しちゃ駄目?」
「駄目でしょうね。けど、魔術師学校へ入学する時は大丈夫かもしれません」
「……どういう事?」
「姫様はダグザの所に転移門を使って移動している事は国王も知っていると思います。その事実を利用して、転移門からか若しくはダグザ経由でモリガンの所に転移する事を国王に交渉してみるのです」
「けど、私が魔術師学校に入学する時はアルウィン兄さんも一緒に貴族学校に入学するんだよ。私だけ転移で王都に行くって言っても許可が出ないかもしれないよ」
「アルウィン様は姫様と一緒にダグザの所まで一緒に転移した事実がございますから、アルウィン様も一緒に転移したら良いのではないですか?」
うーん、そんなに上手く事が進むかな?
「ご両親やウィリアム様も恐らく賛成されると思いますよ」
「えっ、どうして?」
「単純に旅費が大幅に節約できます。今回の王都行きの旅費だけでもクーパー家の一ヶ月分の予算に匹敵しますから」
そうか、今回のイレギュラーな旅費だけで年間予算の十二分の一が消費されるのか……。しかも今年は、私達の学校入学や毎年の社交行事も加わるのだ。それは頭が痛い問題だろう。
「私から父さん達に提案してみるか……」
「その方が良いと思いますが、今回だけの例外である事は必ずお伝えくださいませ。毎年姫様にお願いされても迷惑ですから」
「ふふ、そうだね。それが一番大事だね」
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