第三話 国王陛下との謁見

3−1 国王陛下の召喚状

 季節が真夏に突入し日に日に陽射しが厳しくなってきたある日の事、我が家で緊急の家族会議が開催された。

 今回の会議にはアルウィン兄さんも出席していて、いつもとは違う両親達の様子に戸惑っているようだった。


「今回皆に集まって貰ったのは、この件について緊急に話し合っておかなくてはいけないからだ」


 伯父さんは侍従長から手紙を受け取り、家族達が見えるように机の上に広げた。

 あれ?この手紙に押されている印章のデザインって確かダナーン王家の紋章じゃなかったっけ?って事はこれって国王陛下からの手紙って事なんじゃ。


「……国王陛下がアリアを王宮に登城させるようにと書かれている。アリアにカフカースの爆発事件について聞きたいそうだ」

「アリアはカフカースの件について何か知っているのかい?」


 父さんは心配そうに尋ねてきた。

 まあ、父さんの心配もよく分かる。

 カフカースの爆発事件は前代未聞の大事件としてオウルニィの町にも伝わってきた。あの爆発事件は、カフカースの宮殿の真下に突然出来た未知の火山が噴火したとか、国王が率いる魔術師団の秘術を行使して悪徳領主を成敗したとか、王都はおろかケルト王国中で根も葉もない噂話が飛び交っている。

 そこで、国王はこの事件の事を精霊ならば真相を知っているのではないかと考え、その弟子である私から精霊に質問をして欲しいと実質的な命令書である召喚状を送付してきたのだった。


「……ダグザからちょっとだけ聞いただけですから、あまり詳しくは知りません」


 私はしれっと嘘をついた。

 そりゃあそうだろう。両親に向かってあなた方の娘が爆発事件の犯人の一人ですって言えるわけないよ!

 しかも、私は被害者の一人なのだ。犯人は黄色眷属のイタカって奴なんだから、私は無実だと主張したい!

 まあ、イタカを拉致監禁しているという時点でギルティなんですけどね……。


「ダグザ様からどんな事を聞いたんだい?」

「……そうですね、カフカースの領主が精霊達の敵?と繋がっていて、何か悪さをしようとしていたから懲らしめた……みたいな事を言ってました」


 嘘がバレない秘訣は、嘘の内容に本当の事を混ぜるみたいな事を何処かの推理ドラマで聞いた記憶がある。というか、ほとんど本当の事なんだけどね!

 精霊達の敵ではなくて、私を誘拐しようとしたから私の敵みたいなものだし、悪さとは私の誘拐だし、しかも懲らしめたのは私だし!いや、相手が勝手に自爆しただけだし!

 そんな真実とも嘘とも取れる内容を話したわけだが、どうも両親達の表情は優れないようだ。


「……それは、どこも掴んでいない情報だね。……そうか、精霊様が今回の件に絡んでいたのか」


 どうやら私の話した内容は衝撃的だったみたいだ。王宮内の貴族達や騎士団ではニヴルヘイムの侵攻説が有力で、ニヴルヘイムが密かにカフカースに魔術師を派遣したと仮定して国境警備を強化しようとしていたみたいだ。

 ……ニヴルヘイムは事実無根なのに、いい迷惑だよね。


「……これは陛下の召喚状に応じないといけないみたいだな」


 元々、国王の紋章がついていた召喚状に応じないという選択肢はない。

 そんな事したら、オウルニィの町は反逆者の町として火の海に沈むことになる。

 まあ、早めの王都見学だと思えばいいか。




「……まったく!あの黄色眷属のせいで私の予定が狂いまくりだよ」


 家族会議が終了し、自室に戻った私はソファーに座りながら愚痴をこぼした。

 まったく、私の異世界スローライフ計画を返してほしい。そんな計画は今思いついたのだが、文句の一つくらい別にいいよね。


「まあ、姫様が会議で仰った様に、イタカ達は全ての精霊の敵と言っても過言ではありませんし、姫様はイタカに実害を被っていますから文句を言っても良いと思いますよ」


 クリスは私のためにお茶を用意しながらそう呟いた。


「へぇ、あの眷属って何か良からぬ事でも企んでいたの?」

「イタカ達、原初の精霊の眷属が牛耳っているトゥルー教の真の目的は原初の精霊達の復活みたいですから」


 トゥルー教は一般的には精霊信仰の宗派の一つとして考えられている。

 しかし殆どの信徒達には隠されているが、彼等の信仰対象は原初の精霊のみであり、この世界にいる精霊達はトゥルー教にとっては神敵なのだという。

 そしてトゥルー教はクン・ヤン教国の国教であるので、原初の精霊の復活はクン・ヤン教国の国家事業と言っても過言ではない。


「ふーん、そうなんだ」

「あまり驚かれないのですね。フーシ様に反逆しようとしているのに」

「まあ、宗教の自由は尊重してあげようよ。実際クン・ヤン教国は周りの国に対して援助を積極的に行っているし、トゥルー教の一般的な解釈は広く受け入れられているしね」


 この世界で一番信者数が多いのはトゥルー教だ。二番目以降は土着の精霊信仰になるので、実質的にこの世界の宗教はトゥルー教のみとも言える。

 宗教なんて、みんな幸せに暮らせればそれでOKなのに、難しく考えすぎなのだ。

 ……あくまで個人的な感想です。


「では姫様は原初の精霊の復活を目論んでいるトゥルー教及び原初の眷属を罰しないと言う事ですか?」

「うーん、お父様もお姉様も別に全ての過激な思想を禁止しないと思うけど。原初の精霊を復活させたいと、復活させたは全く別の事だからね。推理小説家は頭の中で殺人事件を考えてはいるけれど、推理小説家は殺人犯では無いって事だよ」

「つまり、実際に犯罪が行われるまでは放置しておくとお考えですか?」

「まあ事と場合にもよるよね。世の中には先制攻撃論とか予防攻撃論とか色々な考え方があるから。その時々で最良の選択をしていくしかないよ」


 クリスは納得をしていないけど、無理やり納得したような複雑な表情を浮かべている。……クリスは過激な所があるから、反逆する人には容赦がないだろうしね。


「では姫様は、実際に原初の精霊を復活できると思いますか?」

「復活っていうのがどういう状態なのかはわからないから、なんとも言えないかなぁ」

「……そうですね。では、フーシ様が施された封印を破るなんてどうでしょう?」


 お父様の封印を破るか……。結構、難問だな。


「お母様やお姉様ではまず無理だろうね。神霊力がお父様よりも弱いから、封印に弾かれるだけだと思うよ」

「では、姫様ならできますか?」

「うーん、私なら封印を破るより別の方法をとるかな」


 私なら弾かれはしないだろうが、そんなに面倒な方法をとるよりも、もっと簡単な方法で解決する。


「別の方法ですか……?」

「私なら、封印よりもその土台である星ごと破壊するね。原初の精霊は死を超越しているし星を砕いても大丈夫でしょう。周りの被害を考えると、ちょっぴり迷惑な方法だけどね」

「……フーシ様がお作りになられた星を破壊するのですか。姫様ならではの大胆かつ大雑把な方法ですね……」

「そう?そんなに褒められると照れちゃうなぁ……」

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