1−21 モリガンの報告

「……以上が国王との会話の報告となります」


 私はモリガンから、国王陛下とギャレットとの会談の報告を受けていた。


「……ねえ、これって本当に大丈夫なの?」


 国王に対するモリガンの態度が余りにも不敬すぎる!

 今後、モリガンに対する苦情の受付は、巡り巡って最終的には私が処理する事になるんだよ、もうちょっと自重しなさい!


「まあ、大丈夫か大丈夫でないかと問われたら、大丈夫ではないでしょうか。多分……」


 ……最後の言葉が不吉なんだよっ!

 やはり、クリスの思考は精霊よりなのだ。人間に対しての遠慮とか配慮とかは微塵も感じられない。


「国王が今後、どういう行動を取るかは判りませんが少なくとも敵対することはないでしょう。国王の部屋の中に魔術師がおりましたが、その者はどうやら魔力を見ることができる様です。妾の霊力を見て顔を青ざめて震えておりました故、下手に動く事はないと思います」


 ふーむ。国王の部屋にいる魔術師か。なら結構偉い立場の魔術師だよね?


「人間の魔術師って、魔力を普通に見れないの?」


 私達精霊は、他人の神霊力、霊力、魔力は普通に感じたり見る事が出来る。

 とは言っても、私が見える様になったのは三十年位訓練した後だったし、お姉様は五百年位掛かったらしいしね。

 そう言えばお父様が成長してないからとか言っていたような……。

 私の成長は、前世が人間だったおかげで、十五年掛けてほぼ大人の肉体になっていたからだもんね。神様基準だと五百年位はかかるのだろう。……人間の第二次性徴の勝利だ!

 まあ、その基準に当てはめると人間の寿命だと魔力を見る事は難しいのかもしれないね。


「おそらくですが、その魔術師も妾達と違って普通に魔力を見ている訳ではない様です。何らかの魔術を使って見ていると思われます」

「じゃあ、私があんまり他人の魔力の事を言わない方が良さそうだね。モリガンのお陰でひとつ勉強になったよ」

「まあっ!妾は姫様のお役に立ったのですねっ!そこの青い奴よりも役に立ったのですねっ!」


 モリガンは私にほっぺをすりすりしながら抱きついて来た。

 ……モリガンは喜び方が過剰だなー。

 ダグザを見てみると、ぐぬぬっと奥歯を噛み締めている。


「それにしても後見人が表向きは領主様になるのね。よくモリガンは納得したね」


 モリガンの性格からしたら、私の後見人から見かけだけでも外れるとは思わなかった。

 モリガンは精霊至上主義者だ。この世界に来てからも人間を尊重する事はなかった。仕事だから人間を監視しているだけで、自身に関与してこなければ基本的に無視を決め込んでいる。

 ダグザやクリスだって、モリガンほど苛烈じゃないけど同じ感じだしね。


「納得なんてしておりません!ですが、ここで我儘を言えば姫様にご迷惑をかける事になるじゃないですか。妾にとってそちらの方が不快ですので」


 あら意外。モリガンは私の為に主義を曲げてくれていたのか。


「ありがとうモリガン。私の為に折れてくれて……」

「ああっ!姫様!もっともっと妾を褒めてくださいまし!」


 うーん、モリガンにはまだ褒め足りないのか。

 普段から褒められてないから、もっと褒めて欲しいのかな?

 まあ、今回モリガンにはお世話になったし褒める位いくらでもやってやろうじゃないか。

 そう思って、モリガンの頭に手を伸ばしかけると。


「……モリガン、身の程を弁えなさい。これ以上は姫様が許しても、筆頭侍女である私が許しません」


 クリスが鬼の形相でモリガンを睨んでいた。

 モリガンがひゃんと言って椅子から飛び上がり、直立不動の姿勢になった。私の前ではいつもニコニコしていた顔が恐怖で歪んでいる。

 ……クリスって私の乳母だったはずだけど。まあこの世界だと私専属のメイドだし、タカアマハラに戻ったらそうなるかもしれないしね。


「まあ、クリスもそう目くじらを立てないで。モリガンも座ってちょうだいな」

「姫様がそう言われるなら……。モリガン、姫様の慈悲に感謝しろっ!」

「勿論ですわっ!妾はいつ如何なる時も姫様の御心に感謝を捧げておりますわっ!」


 まったくクリスは過激なんだから、これじゃあみんなクリスを怖がっちゃうよ。

 これは近いうちに、クリスの好感度アップキャンペーンを実施しなくてはいけないのではなかろうか?


「とりあえずこれで、姫様のスケジュールが固まりつつあります」

「そうね。魔術師学校への入学はほぼ確定ね。次の冬だからアルウィン兄さんの貴族学校入学と被っちゃたね」

「その方がご両親も安心できるのではないですかな。姫様は、中身はともかく身体はまだ七歳なのですからな」


 確かにこれはダグザのいう通りだ。

 七歳の子供が王都で一人暮らしなんて、親からしてみれば心配でしょうがないだろう。


「その前に、名目上ではありますがウェズリー辺境伯が後見人になるのですから、その手続きがありそうですね」


 そうか、それを忘れてたね。

 前は領主様が慌ててこっちに来ちゃったけど、今度は私の方から行かないといけないよね?


「とりあえずは、引っ越しの準備を進めていきましょう。何年、王都にいる事になるかは判りませんが、短くない期間は滞在する事になりますから」


 そうだね。もうしばらくしたら、オウルニィの町とはお別れすることになるんだね。

 私は寂しさを感じながら、少し冷めたお茶を飲み干した。

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