1−14 領主の来訪 2
「ダグザ様、お初にお目に掛かります。ウェズリー領の領主、ギャレット・ウェズリーでございます」
ギャレットはダグザの前に跪き頭を下げた。
「してギャレットとやら、何用で我輩を呼び付けたのか?」
ギャレットはダグザに睨まれ何と説明したらいいのかわからず、しどろもどろになっていた。
「……ダグザ。領主様は、自分が私の後見人になるからダグザに後見人になるのを辞退してほしいそうです」
「何じゃとっ!」
ギャレットがダグザの質問に答えないから私が代わりに答えてあげたら、ダグザは激昂してしまった。
「貴様は人間でありながら精霊である我輩の決定に成り変わり、アリア嬢の後見人になると申しておるのか!」
この世界の南部にあるクン・ヤン教国の除き、精霊はこの世界においての神様的存在である。
勿論この国の民衆も精霊を崇めている。
つまり、この国ではダグザは神様に等しい存在であって、たとえ領主であっても不服を漏らす事は神に対しての冒涜行為にあたるらしい。
……本物の神様は私だけど、ちょっと位文句を言っても怒ったりしないけどね。
「もっ、申し訳ございませんっ!」
ギャレットは床に額を擦り付け、もう土下座の様に平謝りしていた。
因みにこの世界では平伏はあっても、土下座の様な謝罪は存在しない。
「精霊であるダグザ様がアリアの後見人である事は全く存じ上げていませんでした。平にっ!平にご容赦を……」
ギャレットは今にも泣き出しそうな勢いで謝罪している。
私はその光景にドン引きしていて、周りを見ても大人達は居た堪れない表情だった。
まあ、そりゃそうだろうな……。領主とはいえ、自分の上司が精霊の怒りを買ったのだ。下手すりゃこの領を消し炭に変えられてしまう。
まあこの世界の成り立ちが、お父様の怒りで壊された後の世界だから冗談では済まされないかもしれないな。
「其方は勘違いしている様だが、アリア嬢の後見人は我輩だけではない。この世界全ての精霊がアリア嬢の後見人だ。其方は我輩だけではなく全ての精霊の決定に不服を申したのだぞっ!」
ギャレットは言葉を失っていた。
まさか私が全ての精霊から後見を受けているとは思ってもいなかっただろう。
……まあ、普通はそんな事思わないよね。
「……ダグザ様。私の発言をお許しいただけないでしょうか」
父さんが領主の隣で跪いた。
そして、父さんの隣では伯父さんも跪いている。
「ギャレット様はダグザ様達がアリアの後見人である事を知っておられませんでした。数日前にダグザ様達とアリアの後見人が決まり、私はその書類を作成しておりましたが、私はこの件を我が一族の長たるの兄の承認なしで進める事はいけないと思い兄の帰還を待っておりました。なのでギャレット様に後見人の決定の書類の提出が遅れました。しかも兄と一緒にギャレット様が来られるとは思っていませんでした」
「私もギャレット様にダグザ様の事をうまく伝えられませんでした。私の言葉が足らなかったせいで、ギャレット様はアリアとダグザ様との関係を知らなかったのです」
ダグザ相手に必死に説得する父さんと伯父さん。
けど私は知っている……。
父さんは、この状況になるのを読んでいた事に……。
だって父さんがギャレットに対して、後見人になりたきゃ自分で話をつけろと煽りまくっていたからね。
父さんの事だから、今回の件を今後の交渉材料に使うつもりなんだろう。
ギャレットには悪いが、父さんが今後起こり得ると考える交渉事には私が関係しているはずだから私は父さんを止めるつもりは毛頭無い。
……私のより良い未来の為に、ギャレット辺境伯閣下は良いプロパガンダになってくださる事を期待しております。
「……其方が知らなかった事は理解した。今回は不問とするが二度目はない。しかと心得よ」
「ダグザ様の寛大な御処置に心より感謝を申し上げます……」
ギャレットは深々と頭を下げた。
ダグザはギャレットに席に戻る許可を出し、私の今後についての話し合いに参加すると宣言した。
ギャレットは席に戻る前に、父さん達に感謝を述べ頭を下げていた。
ギャレットにしてみれば、この領を消し炭にされる寸前の所を助けてもらった様なものだから父さん達を恩人と思っていても仕方がないかもしれないが、父さんは心の中で上手く事が進んだとニヤリと笑っている事だろう。
「では、アリアの今後の流れについておさらいしていこうと思います」
私が魔術師学校に入学する事は既に決定事項になっている。
何故なら、一定以上の魔力がある者は魔術師学校に入学しなくてはいけないと国の法律に明記されているからだ。しかも、その法律に違反したら国王への反逆行為にあたり私は勿論の事、一族全員に連座が適用されて全員死刑になってしまうのだ。
「魔術師学校って私の様な子供でも入学できるのですか?殆どの人の魔力が発現するのは成人近い年齢って聞きました。私が入学しても、周り全員が大人だらけではないでしょうか」
この国の法律では、十五歳で成人とされている。私が魔術師学校に入学したら、周りの人は全員自分よりも倍以上歳の離れた大人達に囲まれて生活する事になるのだ。
「過去に十二歳で入学した記録があるらしい。そこは陛下と魔術省に確認を取らなくてはわからないな」
ギャレットがダグザの方に向き直して、こう切り出した。
「アリアの事を国王陛下に報告しなければなりませんが、その際ダグザ様や後見人の事も報告してもよろしいでしょうか」
「許可する。だが相手が今回の話を信用するとは限るまい。なのでこの笛を持って行きなさい」
ダグザは懐から筒状の金属で出来たホイッスルをギャレットに差し出した。
「国王との報告の時にこれを鳴らしなさい。そうすればあの地を管理しているモリガンに行ってもらうように我輩から頼んでおこう」
……えっ!モリガンを国王陛下に面会させるのっ、それって大丈夫?
でも、ダグザやルーを派遣するとモリガン激おこだろうしなー。
仕方ないとはいえ、不安でいっぱいだよ。
その後、私が魔術師学校に入学する際の費用に関しては領主が負担する事になり、父さんは私の生活に関する負担だけで済む事になった。
我が家は準男爵家だし父さんの商売も上手くいっているので裕福なのだが、通常魔樹脂学校に入学する生徒は平民であって、その中には王都までの旅費すら出せない様な者も多いらしい。その為、魔術師学校の入学や生活費の一切は出身領地の領主が負担する事が通例となっているらしい。
領主にしてみても、自分の領の出身者が優れた魔術師になったら社交界で自慢出来るのでこぞって出資するそうだ。
父さんからもお小遣いは貰えるだろうし、領主からの援助もあるのか。こりゃ、魔術師学校に行ったら贅沢し放題だね。……そんな度胸ないけどね。
「領主よ、其方に頼みがあるのだが」
「……何でございましょうか?」
ギャレットは訝しげな表情でダグザに尋ねた。
「アリア嬢に魔術師が使う魔術を見せてやって欲しいのだ。すでにアリア嬢にはいくつか我輩が魔術を伝授したが、我輩は人間が使う魔術を知らぬのでな。あまりにも差異があると都合が悪かろうと思ってな……」
これは事前に、ダグザにお願いしてもらう様に私が頼んだ。
私が使う神霊術やダグザが使う霊術は、人間が使う魔術の何倍もの威力がある。
私がうっかり神霊術を使って学校が吹き飛んだ、なんて事を避ける為にも魔術の威力や精度を確認する必要がある。
……大は小を兼ねるなんて事は存在しないのだ。
「畏まりました。アリアの事を報告する際に、陛下に奏上しておきます」
こうして、長かった領主との話し合いは幕を閉じた。
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