第5話   ◯◯学園の夢〈夢の世界はあった〉  

 ――やっぱり夢の世界はあった――と言わざるを得ない夢を見た―― 


 ――姫が現れなくて落ち込んでいた時、素晴らしい夢を見た。

 〈この文を書いてから数ヶ月たった現在――サクが来てくれなくなったので、女作ってやろうと考えている今日この頃である〉


 ――夢とR界の違いはどこにあるのだろうか?――

 夢については――これもサクにご指導いただいて解ったことだが――R界とはまったく別に〈夢世界〉というものが存在しているということだ。

 だからR界とは別なので、またちがう次元に存在するということ。

 これもサクに嫌と言うほど夢を見せられて、ようやくわかったことだ。

 

 ――今回の夢の話にもどろう―― 

 ――前半部分は、例によって覚えてない。

 〈ところてん形式〉といえると思うのだが、一定の容量がたまると――前の記憶が消えてしまうらしい。

 皆もそうだろう――直前に見た内容は覚えているが、それ以前の内容はまったく思い出せないという――つまり容量がちいさすぎるので、トコロテンのように前の記憶は押し出されるということらしい。

 さらに言えば――コンピュータのメモリに似ていて、ある一定の容量が一杯になると溢れ出た情報が消える――メモリを増やせば良いと言う話だが、そういう訳にもいかないだろう。


 昔住んでいた麻生区――近くにはかなり頭の良い進学校があり、甲子園にも度々出場している野球の強い学校があった。

 ――夢の舞台はその辺りだった。


 駅と学校は双方とも高台にあり――互いに睥睨へいげいしているような恰好かっこうで、両者の谷間に川と道路が流れ走っている。


 記憶が途切れているので、途中からの記憶だが――高校へと向かうずっと手前に俺のかつて住んでいた家があった。――そこら辺で四人の会社員らしき男たちがいて何か作業をしていた。

 ――それを横目に見ながら俺は、曲がりくねった道をのんびりと歩いていった。

 夢ながらなかなか快適な散歩である。


 道は黒川と言われる地域に向かうのだが、もう少し行くと左へと入る道があり、そこから高校へと上がっていく。


 その入り口に近い辺りのちょうど右手に――ある蕎麦屋があった。

 もちろん現実にはない店だし――道路も十年以上前の実に懐かしい道だった。

 ――今では新しい直線の広い道路ができている。


 そのそば屋は大きな店で、気がつくと高校生がたくさんいた。

 しかもいつも見かけていた女子高生たちは一人もいなくて、学生服を着た男子生徒ばかりだった。


 垣根もなにもないその店の庭がまた大きく――彼らの溜まり場になっているらしく、ワイワイがやがやとかなり賑やかである。


 どうやら学校が終わり――家に帰らず――仲の良い者同士でぶらぶらと時を過ごしているようだ。


 俺は店の暖簾のれんをくぐり入っていくと、中は薄暗く古民家のような造りであった。

 やはり男子学生でいっぱいで、共学のはずなのになぜ女子がいないのか、それだけが不思議だった。


 ――実はそばが食べたいわけではなく、無謀にもトイレだけ借りるつもりで入ったのだ。


 さらに男子だらけの洋卓をぬって奥へと行くと――狭い通路があったのでここだと思ってすべり込むと――右側は調理場になっていた。

 そこで何か調理していた調理人と何気なく目があう――。


 軽くとがめるような刺す目線に気圧けおされ――どうやらここは彼らの聖域なのだと悟った。


 ――そこで咄嗟とっさに思いついたのが――右手反対側にある裏口の扉から山手へと登っていく階段だった。

 その時――不思議と脳裏に浮かんだのが――趣のある石段と覆いかぶさるような古木のフサフサした枝葉だった。


――一瞬そちらに行こうと思ったが〈今から登るのはキツイな〉と思い、店を出ることにした。


 さて――また逆順で暗い客間を通り抜け――広い土間に戻ると、すこし暗いけれど入り口あたりに法被はっぴを着た番頭らしき中年の男がいたので――、

「そこ、出口ですか?」と聞くと、『ああそうですよ』と気前よく答えて、古風な引き戸を開けてくれた。


 だが、くぐり抜けようとする瞬間――男が眉間にシワを寄せ『食わねえんなら来んじゃねえよ』のようなことを言った。

 引き戸の音でハッキリ聞こえなかったが――後で考えるとそう言ったようだった。

 少し冷や汗が出たが、さっさと逃げ出すしかなかった。


 ――また庭を出て少し曲がった道を歩いていると、道端にも男子がいた。

 俺の方を親しげな表情で見ている。


 普通の夢の中に登場する人物たちは、ゲーム内のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)のように――こちらから話しかけない限りは向こうからは接触してこない。

 だから、思わせぶりな視線を投げかけてくる事自体が不思議であった。

 〈これは夢の中の登場人物ではなく、こちらの世界に来ている霊なのだろうか〉


 両側に木立が並ぶ風情あるその道は――確かに新道ができる前の古い道に似ていた。

 このまま真っすぐ行けば自然と高校への坂道へと入るが、本道は黒川のほうへと曲がりながら緩やかな勾配を登っていくのだ。


 曲がったところに――また前に見かけた男たち四人がいて、何か調査らしきことをしていた。


 ――それらをぼんやり眺めているうちに終劇となった――





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