第2話 ~腹が減ったら肉だ、体は肉で出来てるからな~

目が覚めると、ツムギと呼ばれていた人は部屋におらず、代わりにベットに毛布が乱雑に置かれていた。


「さて、クエストでも受注しますかね」

毛布を綺麗に畳み、厠で顔を洗ったりして表側にあるギルドへ向かった。

ギルドでは早朝であったが冒険者で賑わっており、

3人の受付嬢が引っ切り無しに呼ばれている。

取り敢えず、クエストボードを確認する。


「ゴブリンの討伐」

ファンタジーぽいなぁ――しかし、要求されるランクは赤。

いくつ、ランクが上がればいいのやら。


「家出猫の捜索」

探偵か?――ランクは白。


「これを受け……「ごめんよ」取られたか」

猫耳ケットシ―の冒険者に掠め取られてしまった。


「薬草の採取……は、ないな」

と、ここで気疲れをしクエストボードから離れ、席に座る。

はて、どうしたものか――と、悩んでいると、ふわりと香ばしい薫りがする。

匂い先にあったのは、豪快に鉄板で焼かれた肉を食らう手練れと思わしき冒険者たち。

その光景を目にした俺は無性に腹が減った。


「そういえば、何も口にしていないなぁ」

そう思っていると、クエストボードから一枚の用紙が外れて俺の足元に流れ着いた。


「こ、これは……」

運命だと思った俺は、空腹を紛らわせる為に水を飲み、レイネさんの所に向かった。



~ネフィル郊外、外れの森~


俺は、森へ向かった。

クエスト内容は、【炎猪フレイムボアの毛皮の納品】。

ボアすなわち、イノシシだ。


狩り方などを忙しい時間を割いて教えてもらい、一つ重要な事を聞いた。


「炎猪って、食えるんですか?」

回答はYESだった。大きければ大きい程、脂がのっていて美味いらしい。

想像するだけで涎があふれてくる。


「気を付けないといけない事があります」

レイネさんは出発の間際にこう話していた。


「炎猪の雄叫びには気を付けて……か」

詳しい事は聞かなかったがまぁ大丈夫だろう。

俺は草の根も掻き分ける勢いで探した。


『あれか…』

この世界に来て初めてのモンスターなので少しばかり警戒していたが思っていたより前世の猪と遜色なかった。


『こっちには気付いていないな…』

自生しているキノコ類に夢中の様でこちらには気づいていないようだ。


「覚悟!」

教会に服と共にあったロングソードを構え斬りかかる。

俺はこの剣が獣の皮を容易に切り裂けると思っていた。

黒鋼の剣が日光を反射して煌めく。


「!」

こいつ、ビクともしないだと!?…渾身の振りをお見舞いしたつもりだが炎猪の毛を少し切り払っただけで刃は皮膚を切り裂いていなかった。


その衝撃で敵意に気付いた炎猪はコチラを振り返り一鳴き。


「!!!!?」

「くっ、」

この咆哮…足が竦む。


炎猪が鳴き終わると、徐々に大地が揺れ始める。


「地震……違う、」


地鳴りだ!


その響きの方を見るとさっきまで戦っていた炎猪よりも2倍以上デカい猪が群れを成してコチラへ向かってきていた。


「やっば…」

俺は明後日の方向に走り出した。

無我夢中だった。あの波に呑まれたら待っているのは棺の中の生活だ。

土地勘の無い俺だったが、ある事を思い出した。


「そうだ、川あったな!」

多分こっちだろうと、記憶を頼りに足を進める。


あった!そこはかなり川幅のある場所だった。

俺は迷わず飛び込んだ。


「?!……フゴォ!!」

群れの先頭を走る炎猪が雄叫びを上げる。

すると、川の岸に着く前に進路を曲げてどこかへ行ってしまった。


「炎猪……やはり、水は苦手な感じか」


獣の群れの足音が止んだことを確認岸辺に上がる。


「ふぅ、真冬じゃなくて良かった」

これから、どうするか……とりあえず来ている服を全て脱ぎ水分を抜き始める。


ガサガサ、近くの茂みが揺れる。

すると、見覚えのある顔が出てきた。


「……ガ!」

昨晩同じ部屋で宿泊した女性、ツムギだった。


「昨日の変態!」

「誤解だ!」

昨日の事について弁解をしようとした。


「あの時は、風呂屋に行けなかったから仕方なく……」

「じゃあ、こんな昼間から水浴びですか?仕事もせず呑気してる暇があるんですね。」

更に誤解された。


「それも、誤解だ。炎猪に追われて…」

「炎猪、あれ……アナタの性ですか?

私も急に地鳴りがしたから急いで隠れたんです。炎猪の特性も知らないとは」

「特性……雄叫びの事か?」


はぁ……ツムギは教えてくれた。

「あなた、この任務を受ける前に炎猪について調査ました?」

「いや、何も……」

「でしたら、炎猪相手に直剣で闘おうと思わないでしょうね」


ツムギは再び溜め息を着く。

「いいですか?炎猪には【斬裂耐性】があるんです」

「えっ」

だからか斬り伏せても体毛しか切れなかったのは……急にめっ、目眩が、

俺はその場に崩れる。


「大丈夫ですか?」

「あぁ(腹の鳴る音)」

「本当に呆れますね」


彼女は道具袋の中を漁ると1個の堅パンをくれた。

「いいのか?」

「後で代金を請求しますから」


俺は噛み締めながらそれを食す。

「炎猪は額から脳めがけて貫けば、低レベルの冒険者でも狩れます」

「何から何まですまない」

俺は深々と頭を下げる。

しかし、彼女は1つ要求してきた。


「今度から任務に着く時はよく調べることですね。

後、その任務私も手伝っていいですか?」

「いいのか?」

彼女は首を縦に降ると、こう言ってきた。

「その代わり、任務報酬は折半して下さい」


―――――


俺たちはまた、森の中を探し回った。

だが、今回はツムギがいるおかげで獲物はすぐに見つかった。

「いました」


地面の匂いを嗅ぎ食べ物を探している小炎猪。

大樹を背にして近付く。


直剣を抜きタイミングを見計らって、眉間から脳天に向かって刺突を試みる。


先程の単独の対峙に対し、炎猪は小さな悲鳴をあげると絶命した。


「炎猪はお腹の皮は柔らかいのでソコから剥ぎます」

ツムギはハサミを取り出すと慣れた手つきで解体、

皮と肉に別れ、それを道具袋にしまう。


「よし、この調子で後2匹行きましょう」


俺たちは、黙々と狩りに勤しんだ。


―――――

~ネフィル・冒険者直轄宿屋~

俺たちは台所を借り料理を始めた。


「カイトさん、そこに入れて。そうそう上手」

「魚とか、鳥は捌いたことはあるからな」


さっと、処理をして、皮を袋に直して今日は戻ってもう遅いから明日ギルドに持って行く準備をする。


薪で温めた鉄板に炎猪のロース肉を並べて、塩・岩塩・粗挽き胡椒を振りながら焼き色をつける。

肉から油が滲み香ばしい香りを漂わせる。


「出来た!食うか…」


いただきます……、皿に盛った肉をフォークで貫き口へ運ぶ。


「……これは」

炎猪だから、ジビエになるかと思っていたらその肉質は前世の高級とんかつ屋で食える上品な脂を蓄えた豚肉と遜色なかった。


「うま!」

「炎猪って、いつでも取れるからいつも売りに出してるけど美味しいですね」


その時、ピコンっと音がした。


【ヤマナシ・カイトは【裂傷属性】を取得しました】

は?


どういう事だ…俺は【不耐性】じゃないのか?


「ステータス、オープン!」

俺は急いでステータスを確認する。




――

聖騎士 Lv.13


(省略)


スキル

【不耐性Ⅱ】

→|▶


――


【不耐性】が【不耐性Ⅱ】になっている…この下のやつはなんだ?

興味本位で触れてみる。


――

【不耐性Ⅱ】

→|【 渇望の暴食natura of baal

・食した物の持つ耐性を属性として取得する。

・属性は定められた数を任意付与出来る。

◎スロット1(…


◎保有属性

【裂傷属性】

・攻撃に裂傷を与え装甲にダメージを与える。



――

「どしたの?カイトさん?」

「いや、なんも無い」

俺はそっとスロットに【裂傷属性】を入れて、

食事を続けた。

明日、ギルドで聞けばいいや。









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30過ぎて異世界召喚されたら不耐性な聖騎士になりました。 @Yorunea

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