30過ぎて異世界召喚されたら不耐性な聖騎士になりました。
@Yorunea
第1話 ~風呂ってのは他人に侵されない聖域のはず~
俺は会社勤めのサラリーマン30歳。
今日も仕事のストレスを抱えながら、閉店間際のスーパーで、
割引総菜とアルコールを購入して、自宅にたどり着く。
「ただいま……って」
誰もいないのにいつも言ってるな、
俺は微笑すると飲み物を冷蔵庫に、
総菜をレンジにぶち込み、衣服を脱ぐ。
「風呂にでも入りますかね」
俺は浴室の戸を開ける。
そこは清掃もあまり行き届いていない少々黒カビの目立つ所だが、
安い割に香りの強い石鹸やシャンプーなどの香りが仄かに香っている。
「よっ」
蛇口をひねり浴槽にお湯をはりながらバスチェアーに座りシャワーを浴びる。
風呂は命の洗濯とはよく言ったものだ――
俺の中に溜まったストレスが全身から染み出るように心が解れていく。
そして、そろそろ髪を洗おうとボトルに手を伸ばした所だっだ。
「照明が……」
電球切れか?鏡の上にある照明がチカチカと不規則に点滅し始めた。
『お主は選ばれた。』
「!!」
どこからともなく、年老いた老人の声が聞こえる。
しかし、辺りを見回すが自分以外の存在は見受けられない。お隣さんか?
『さっそくだがお主には魔王を倒してもらう』
声が反響しているのでこの密室にいるはずだ。
これも、誰かの悪ふざけだ――
そう、俺は思い込んでシャンプーボトルを掴むがその手は空を切る。
『冗談じゃと?なら、その目で確かめるがいい』
その瞬間、バチリと一瞬の閃光が走る。
目の前に眩い光が広がり、気が付けば現れていたのはいわゆる“異世界召喚”の儀式。
しかし、俺はそれに気づかずシャンプーボトルに手を伸ばす。
『命は大事にするんじゃぞー』
そして、俺は目の前が真っ白になった。
~???~
鼻を刺す湿気と埃の混じった空気――
そこに冷たい石の上に座って虚空に手を伸ばした状態の俺が光と共に現れた。
「冷た!」
反射的に石から立ち上がる。
「ここはどこだ……?」
天井の高い石造りの建物――
まるでゲームで見たような、教会か寺院のような場所に思えるが、よく見ると廃墟のようにも見える。
それよりも――
「俺裸やん!」
着るもの着るもの……内部を散策すると、隣の部屋の食堂らしき所に麻で出来た衣服、革靴、胸当て、皮手袋。
そして、ハルバードが綺麗に整頓されて置いてあった。ふと脇に置いてある羊皮紙が目に入る。
「なになに」
(裸で送って、すまない。それはワシからの選別じゃ
P.S ここを出てすぐの所に町があるそこで冒険者になるとよかろう)
へぇ、案外気遣い出来るのか、あの老人。
そして、俺は荷物をまとめ、その近辺にあると言う街に向かうことにした。
建物を出てすぐ、太陽に照らされ空を見上げる。
「青い月が見える、ホントにここは異世界なんだな」
視線を大地に向けると、見渡す限りの平原があり所々に農作物を育てている人や家を見かける。
そして、右手の方に少し歩くが街が見えた。
「とりあえず、行ってみるか」
そして、俺は街に向かって歩き出した。
~??街~
街は岩の外壁で囲まれており、東西に門がもうけられていた。
中に入るには、検査を受ける必要があるようだ。
数人の列が門の角にある勝手口で待機していた。
「はい、次」
俺もその列に並ぶと、順番はすぐに来た。
「えっと、お兄さん。ネフィルは初めて?
身分証は?」
転生前に色々な作品を見たが、西洋鎧を身にまとい、長剣を帯刀した同年代くらいの人が話しかけてきた。
当然そんなものはないと伝えると、すぐに慣れた調子でため息をつかれた。
「どこの、田舎から来たんだ……ほら」
と門番は鉄の腕輪をくれた。
「仮登録をしておくから、まずは冒険者ギルドに行け、身元証明と生活支援をしてくれる」
と、テンプレート的な事を言って門を通してくれた。
街はよく賑わっていた。
時刻的に昼時だろうか?様々な店で食事を行う一般民、出店では食品から装飾品、動物まで販売をしていてどの店もそこそこ人がいた。
「ここか」
双剣と盾が象徴の看板の建物中へ入る。
扉を開けると、中は酒場のような雰囲気で、鎧を着た連中が卓を囲み、酒を飲み談笑しているのもいるし、張り紙のビッシリ掛かったクエストボードの様なものと穴が開きそうなくらい見つめるグループがいる等がいた。
中を見渡しながらカウンターの方へ向かうと、
すれ違いざまに、肩を叩く人が
「おっ?新人か?」
頑張れよ――青い鎧を着た人声援をくれるとが店から出ていった。
多分、クエストを受注したのだろう、するとカウンターから声がかかった。
「そこのハルバートの人~」
「あっ、はい」
呼ぶ声のする方の窓口へ向かう。
受付には妙に明るいお姉さんがいて、手の平サイズの鉄の板を持ち……何か見たことある。
「それって」
俺はその板を指さして問い尋ねる。
「タブレっていう、多情報管理する魔道具です」
新人さんは魔道具を見るのは初めてですか?――
初めてというか、形状と用途的が現代の物を思い出す。
実はこの世界はただファンタジーだけでは無いのでは?
「もしかして、ネットとかありますか?」
「ネット?
あなた、どんな田舎から来たんですか――
受付嬢が疑り深い顔で見つめ始めた。
この話はやめよう。
「とりあえず、新人さん。この端末に腕輪を付けた手で触れてください」
俺はそっと、右手を端末に置く。
すると、青白い光と共に彼女の持つタブレに情報が送られる。
「名前はヤマナシ・カイトさん。ご年齢は30歳ですね。ご職業は……
(ガタッ!!――何か後ろの方で物音がしたが気の所為だろう。と言うか、俺……聖騎士なのか。
「レベル5……まだ、駆け出しですね(汗)」
受付嬢の顔からは、何とも言えない緊張感が滲み出ていた。いや、むしろ警戒に近いような――。
「ちょ、ちょっと確認しますねっ!」
彼女はそう言うと、すぐさま背後のカーテンの奥に消えていった。カウンターの中からバタバタと何かを探すような音が聞こえる。俺はただその場に突っ立ったまま、居心地の悪さを感じていた。
「俺、なんかまずいことしたか……?」
自問した瞬間だった。
「……君がヤマナシくんかね?」
低く響く、落ち着いた声。 振り向くと、長身で威圧感のある中年の男が立っていた。黒に金の縁取りがされた軍服のような服装をしており、背には巨大な剣。白髪交じりの口髭に、鋭い眼光。見るからに只者ではない。
「え、あ……はい。そうですけど……」
「私は、ここのマスターのアルファードと言う」
よろしく頼む――握手を求めてきたのでそれに応じる。
「話がある。ここでは話せないので2階の来客用の部屋に行こう」
3人で部屋に向かい、ソファに腰掛ける。
「話と言うのはキミの職業についてだ」
やばい、何かやらかしたか?
俺は何が問題だったか、考えたが思いつくことは無かった。
「聖騎士と言うのは上級職であるのは知っているだろう……キミもそれなりの試練を積んで会得したと我々も思っているがそれに関して何も問題ない」
試練って、現世の生活か?――
苦しくはあったがまだ、やりかけてた人生。
後悔はある。
「問題というのはスキルなんだ。これを……」
と受付嬢さんはタブレを見せるとそこには、
一言。
……不耐性。
と書かれていた。
アルファードがそれをタップすると詳細が現れる。
「通常、聖騎士は闇属性魔法に抵抗力がある光属性の上位、聖魔法に適して、
また、鍛えられた身体で近接戦闘も行う……これが定石な
まぁ、聖属性が使える者はこんな辺境な街に一人いればよいがな――
と窓の外を見る。
その視線の先には教会が見えた。
「しかし、回復魔法が扱える戦士となるとその存在は稀有で冒険者としては引く手数多だろうそれでも……」
それでも……冒険者として活動してくれるか?
アルファードは深淵のふちを覗くように俺の黒い瞳に目を合わせる。
「……やります。その為に来たんだ」
と、現世でやり残した事を闘志に変えて燃え滾らせる。
そうか、ありがとう――アルファードは立ち上がり一礼すると部屋を後にした。
「では、冒険者ギルドの説明をしますね。挨拶が遅れました、私レイネといいます」
では――と、説明会が始まった。
~数分後~
彼女からギルドの説明を受けた。
この腕輪はギルド証になっており、これに色々な情報が備わっており、この世界では腕輪が貴重品として扱われるそうだ。
因みに俺の鉄と思っていた腕輪は今は白色をしている。
後は、最低でも3か月に一度はクエストを受ける事。
上位のクエストには同色の階級を持つ冒険者複数人で受注出来る事。
魔物等の素材は、裏手の広場で買い取りを行う事。
後、現代の銀行的な役割を担っていること、等を教わった。
「以上です」
説明会が終わり、受付に戻ってきた俺たち。
「あのさっそくで、悪いんですけど」
「はい、カイトさん。なんでしょう」
「宿を貸して頂けませんか?」
取り敢えず、俺は休みたかった。
~ギルド直営の宿屋~
部屋は寝泊りする最低限な事を想定されているんだろう、
角にはホコリやクモの巣が張っており、木製のベットは、
現世の自宅にあった煎餅敷布団並に硬かった。
「明日から、冒険者か……」
魔法で天井から射す光を腕で遮ると袖から腕輪が出てきた。
確かにあの世界で生きていた時は何かに追われていて息つく暇も余裕もなかったからだろう、少々肩が軽い気がする。
「頑張るか」
と、寝ようとした時、俺は思い出した。
飯と風呂がまだじゃねぇかと――
宿屋の主人にその話をすると食事は提供するが、風呂屋は今、工事で休業しているからと、
麻のタオルと、桶一杯のお湯、少々の酒をくれた。
部屋に戻ると、鍵を閉め、桶に酒を入れてタオルをくぐらせる。
それをきつく絞り体を拭く。
「風呂屋にまともに行けるように稼がないとな……」
等と今後の目標を定めると、背にしていた扉が開いた。
「……が!」
「!」
そこには、女性の冒険者がいてゆっくりと視線を扉の上に向けながら扉を閉めると、
廊下で鉢合った女主人に声を掛ける。
「あの、部屋に変態が」
「あぁ、新しい同居人さね」
女性は聞いていない、別の部屋を貸してくれと頼む。
俺はその間に、体を拭き終え、桶の中のお湯を厠に捨てに行こうとする。
「ツムギさん。なら、借金して一人部屋にするかい?相部屋の料金しか出せないアンタの事だから、無理だろうけど」
「借金は」
したくない――と、廊下で再会した俺にこう言った。
「私に手を出したら、痛い目に合わせるから!」
「いや、鍵してましたけど?」
すると、女主人がこう言った。
「この宿は、基本鍵壊れているからねw」
ノックをしないアンタが悪いよ――、
俺の持っていた桶とパンとミルクの入った籠を取り違えると、
笑いながら降りて行った。
どうして、俺は身を綺麗にしようとするとハプニングが起きるんだ、そう思いながら険悪なムードのまま部屋に戻り、今夜の食事を済ませた。
あぁ~、レンジに入れてた総菜が食いてえ。
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