第3話 血と誇りの試練 (3/10)
# 血と誇りの試練
## 王国の祭り
十三年前、王国エルドリアの首都ヴァルクロス。
年に一度の「鉄華祭」が開催され、街は熱気に包まれていた。
鉄華祭は、王国の騎士団が集い、模擬戦を通じて力を競う伝統行事だ。
民衆は英雄たちの戦いに熱狂し、騎士たちは名誉と誇りを賭けて剣を振るう。
銀狼の牙は結成から二年、魔獣討伐で名を上げつつあったが、他の古参騎士団からは「新参者」「貧民街の寄せ集め」と軽んじられていた。
この祭りは、彼らが王国に実力を認めさせる絶好の機会だった。
カイルは、戦略を練りながら訓練場で剣を構える。
冷静な目で仲間を見つめ、静かに言う。
「この試合、俺たちの未来を決める。負けるわけにはいかない」
ロウエンは剣を肩に担ぎ、笑顔で叫ぶ。
「ハッ、俺たちの剣が吠えりゃ、どんな古参も黙るさ! なあ、みんな!」
銀狼の牙の団員たちが拳を上げる。
団長ガルドリックは豪快に笑う。
「よし、ぶちかませ! 銀狼の牙の誇りを見せてやれ!」
セリナが毒舌を吐く。
「ロウエン、口だけじゃなく結果出せよ?」
バルドが酒瓶を手に吼える。
「試合の後は祝勝会だ! 俺が奢るぜ!」
ミリアが緊張しながら呟く。
「怪我…しないでくださいね…」
ゼクは無言で双剣を磨き、カイルに頷く。
双頭の狼の刺繍が縫われた剣を手に、銀狼の牙は試合場へ向かった。
## 交流試合の開幕
試合場は、ヴァルクロスの中央広場に設けられた巨大な円形競技場。
石造りの観客席には数千の民衆が詰めかけ、王や貴族が見守る中、騎士団同士の模擬戦が始まった。
武器は木剣や鈍らせた刃だが、怪我は日常茶飯事。
死者が出ることも稀ではなかった。
銀狼の牙の初戦は、「蒼炎の騎士団」との対決。
蒼炎は王国最古の騎士団で、重装甲の剣士と火炎魔術師の連携で知られる。
銀狼の牙は20名、蒼炎は30名。
ルールは、相手の団員を全員倒すか、降伏を宣言するまで戦う団体戦だ。
試合開始の銅鑼が鳴り、ロウエンが先陣を切る。
「来い、蒼炎! 銀狼の牙の力を味わえ!」
木剣が唸り、蒼炎の剣士を次々と弾き飛ばす。
カイルは後方から指示を出し、セリナの弓で魔術師を牽制、バルドの槍で重装甲を崩す。
ミリアは負傷者を癒し、ゼクが奇襲を防ぐ。
銀狼の牙の連携は、魔獣戦で鍛えた動きそのものだった。
初戦は圧勝。
観客席が沸き、銀狼の牙の名が響く。
ロウエンが観客に剣を掲げ、叫ぶ。
「これが俺たちだ! 次は誰だ!」
カイルは静かに呟く。
「…調子に乗るな、ロウエン。まだ始まったばかりだ」
## 鉄騎の猛攻
二回戦の相手は、「鉄騎の雷槌」。
王国最大の騎士団で、50名の団員は騎馬戦と雷撃魔術を組み合わせた重戦車のような戦法で有名だ。
銀狼の牙の20名は、数で圧倒的に不利だった。
試合開始直後、鉄騎の騎馬隊が突進し、雷撃が競技場を焦がす。
銀狼の牙は陣形を崩され、バルドが雷撃で吹き飛ばされ、セリナの弓が折れる。
ロウエンは木剣で騎馬を跳ね返すが、馬の突進で肩を痛める。
カイルが叫ぶ。
「ロウエン、下がれ! セリナ、左翼を固めろ!」
だが、鉄騎の猛攻は止まらない。
ゼクが双剣で騎馬を翻弄するが、数に押され、ミリアは魔術の余波で倒れる。
ガルドリックが巨剣で雷撃を弾くが、団員の半数が戦闘不能に追い込まれた。
観客席から野次が飛ぶ。
「新参者が!」「貧民街のゴロツキが調子に乗るな!」
ロウエンが歯を食いしばる。
「くそ…まだだ…!」
カイルは冷静に状況を分析するが、鉄騎の騎馬隊が再び突進し、銀狼の牙は防戦一方。
ガルドリックが膝をつき、バルドが意識を失う。
ロウエンの木剣が折れ、カイルの防御も限界を迎えた。
## 敗亡の淵
銀狼の牙は競技場の端に追い詰められ、残るはカイル、ロウエン、セリナ、ゼクの4名のみ。
鉄騎の雷槌は40名以上が健在で、雷撃の嵐が迫る。
観客席は「降伏しろ!」と叫び、王の目も冷たくなる。
カイルは木剣を地面に突き、静かに呟く。
「俺たちが弱かった。それだけだ」
その言葉に、ロウエンの目が燃える。
「それだけだ? それだけなんかじゃねえ!」
ロウエンが折れた木剣を投げ捨て、近くの鉄騎の団員から奪った槍を握る。
「お前はいつもそれだ、カイル! 冷静ぶって、諦めて! 俺たちの誇りは、仲間は、こんなとこで終わるもんじゃねえ!」
カイルが一瞬、目を丸くする。
ロウエンの言葉が、胸の奥の炎を揺さぶった。
「ロウエン…」
ロウエンが吼える。
「銀狼の牙は負けねえ! 俺たちの剣は、どんな闇も切り開く! 立て、カイル! セリナ、ゼク! まだやれるだろ!」
セリナが弓の残骸を手に笑う。
「…ったく、熱すぎるんだよ、ロウエン」
ゼクが無言で双剣を構え、カイルが木剣を握り直す。
「…そうだな。それだけなんかじゃねえ」
## 奇跡の大逆転
ロウエンの叫びが、銀狼の牙の魂を呼び覚ました。
観客席の野次が止まり、競技場に静寂が訪れる。
カイルが低く言う。
「ロウエン、俺が道を作る。お前が仕留めろ」
カイルが鉄騎の騎馬隊に突進し、雷撃の隙を縫って馬の脚を狙う。
騎馬が混乱し、鉄騎の陣形が揺らぐ。
セリナが折れた弓で魔術師の目を潰し、ゼクが双剣で騎馬の側面を切り裂く。
ロウエンが槍を振り回し、鉄騎の団員を次々と弾き飛ばす。
「これが銀狼の牙だ! 俺たちの誇りだ!」
カイルとロウエンの連携が復活し、双頭の狼の刺繍が陽光に輝く。
カイルの正確な突きが鉄騎の団長の木剣を弾き、ロウエンの槍が団長の胸を突く。
団長が膝をつき、鉄騎の雷槌が降伏を宣言した。
競技場が割れんばかりの歓声に包まれる。
「銀狼の牙! 銀狼の牙!」
王が立ち上がり、拍手を送る。
ガルドリックが目を潤ませ、バルドが意識を取り戻して吼える。
「それでこそ、俺たちの仲間だ!」
## 試練の果て
試合後、銀狼の牙は王から「王国の新星」と称され、騎士団としての地位を確立した。
ロウエンは傷だらけの笑顔でカイルに言う。
「な、俺の言う通りだろ? それだけなんかじゃねえんだよ」
カイルが珍しく笑う。
「…お前のせいで、いつも計画が狂う」
セリナが肩をすくめる。
「ま、結果オーライってやつね」
ミリアが涙を拭き、ゼクが小さく頷く。
その夜、訓練場でカイルとロウエンは剣を手に語り合った。
「カイル、俺たちが一緒にいりゃ、どんな敵も倒せる。な?」
ロウエンが剣の刺繍を撫でる。
カイルが静かに答える。
「ああ。双頭の狼は、決して折れない」
だが、カイルの胸には微かな不安が芽生えていた。
鉄騎の雷槌の団長が試合後、囁いた言葉が耳に残る。
「魔獣の動きが活発だ。黒棘の森に何かある。気をつけろ、新星」
二人の剣が月光に輝く中、遠くの空が赤く染まり始めた。
それは、後の黒棘の森の戦い、ゼルガドンの復活の前触れだった。
(続く)
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