第2話 「破られた協定」





賢王フレデリックの崩御から1ヶ月が経った。


最近周辺の国で不穏な動きが見えてきた、特に軍事大国ビスカ連邦は新たな軍備増強を行っており、また新たな戦争が起きてもおかしくない状況だった。


「お嬢様?ロゼッタ様?」バーン•ハート家の邸宅で執事服を着た麗人が主を探していた。


「お嬢様、ここにいらしたんですね」


彼女の見つめる中庭で主人であるロゼッタが朝の日課を行っていた。

彼女は物心ついた頃から剣の才覚に目覚め、よく先王と朝の稽古を行っていたのだ。


ロゼッタが静かに剣を構えると周囲の空気が静止したのを感じた、次の瞬間目にも止まらぬ速さで剣を振る、その剣閃は荒々しい水の如き力強さでありながら、流れに任せる風の様に流麗な無駄の無い動きをしていた。


「あら、ラベンザどうしたの?」私は剣を収めながら彼女に言った。

「素晴らしい剣捌きでした、また腕を上げましたね」

「お父様の教え方が上手かったおかげよ」

私は近くに置いてあったタオルで汗を拭った。


「それで?ビスカの動きはどうなの?」

「はい、密偵の報告によると近々戦争を仕掛ける様です」

「スベインは?黙って見てる国じゃないでしょ?」


私は髪を解きながらラベンザの報告を聞いた。


「それがどうやら裏で密約を交わしている様です。」


「なるほど、つまり不可侵協定を結んだ訳ね」

「流石です、お察しの通り2カ国は不可侵協定を結びました、そうなるとビスカの標的となるのが」


「アルディノのね大方お父様の居なくなったこの国を落とすつもりのようね」私は冷静に分析した。


「そこまで考えておいでとは、恐れ入ります」

ラベンザと話をしていると。


「お嬢様、お着替えを持ってきましたよ。」

もう一人の従者ラペンツァが来た。


「ありがとうラペンツァ、でも身体中汗でびっしょりだしお風呂に入ろうかしら」私がそう言うとラペンツァが言った。

「そう言うと思って、すでに入浴の準備出来ていますよ」


「本当に気が利くはね、せっかくだし二人も一緒に入らない?」私が何となく言うと。


「是非お供します!お嬢様の日頃のお疲れを労るためにも私にお背中を流させて下さい!」

ラベンザが何時もよりも積極的に言った。


「私も良いですよ!さあ行きましょうか」

私は二人を連れて浴場へと向かった。


「二人共姉妹なのに性格も服装も真逆ね」


入浴を終え二人の着替え終わるのを待って私は改めて言った。


姉のラベンザは真面目な性格で私の事務作業を手伝ったり、家臣達の連絡事や他国の諜報活動なども行っている。何時もは冷静なのだがたまに私を見る目が、熱を帯び始めているのが多少気になっていた。


妹のラペンツァは姉とは違い基本マイペースで自由奔放だが、観察力に優れており私の些細な変化にも気付き直ぐに気に掛けてくれる。そして彼女はこの国一の治癒術師でもあり彼女の手に掛かれば生きている限りどんな怪我でも治す事が出来た。


「確かにラペンツァは私と違っていつもマイペースで、抜けてる所がありますもんね」


「そう言う姉さんだって何時も堅物の癖に、夜な夜な部屋で一人「お嬢様〜」って声を上げちゃって一体何をしてるの?」


「あなた何でそれを!?いえ違うんですお嬢様、決してやましい事などありません!」ラベンザが必死に言い訳をする。


私はそんな二人を見て思わず笑ってしまった。


「ほら、姉さんの夜の遊びを聞いてお嬢様が笑ってしまったじゃない」


「ええ!私のせいなの!?」


「大丈夫よ、二人共私の側にいてくれてありがとう」

私は二人に笑い掛けた。


ビスカ連邦の作戦室である会議が行われていた。


「それでは諸君、今回の議題だが我々はアルディノに戦争を仕掛け様と思う」作戦室のテーブルを囲み最高司令官兼国王のエドガー•マクスウェルが言った。

「閣下お言葉ですが、彼の国とは5年前の和平交渉で終戦を迎えたばかりではないですか?」若い将校が言った。


「口を慎め若造よ、閣下の決定は絶対だまさか貴様閣下の決断に不服なのか?」

その若い将校に因縁を付ける初老の将校。


「何を仰る!私は閣下に疑問を投げかけただけだ!老兵は引っ込んでもらおうか」その言葉で二人が言い争いになる直前に。


「止めんか!閣下の御前だぞ!」


歴戦の猛者の風格を醸し出す将校がその争いを一喝した。

「場が収まった事で我輩の考えを伝える、確かに最初のマイルズ将校の意見も最もだ、だが賢王フレデリックが崩御した今我が連邦の悲願であった。3国統一に大きく近付けるのだ」


その言葉を聞き一気に場の空気が変わった。


「すでにスベインのフライブルク王にも不可侵協定の書簡を送ってある、もう間もなく返事が来るだろう」


マクスウェル王が言った瞬間。


「流石はマクスウェル王、相変わらず政略に長けていますね」突然会議室の影からシスターの格好をした女性が現れた。


「貴様いつ入った!衛兵!王をお守りしろ!」将校達が王を囲む。


「心配せんで良い、お主我輩が送った書簡の返事を届けに来たのだろう?」


「そうですとも!フライブルク王の言葉をお伝えしますね、この日を持ちまして我がスベイン法国は一切の干渉を行わないと誓う。ではお伝えしたので私は帰ります」彼女はそう言うと影の中へと消えていった。


「あれがスベイン法国が誇る精鋭部隊クラージマン•ナイツか、恐れ入るな」


「これでスベイン法国の介入は無くなった、ではアルディノに暗殺者を送る、そして現国王の小娘を亡きものにした後に軍を送る、現場の指揮官はアトラス将軍貴殿に任せたい」


「分かりました、この雷槍のアトラスの名に置いて必ず王に彼の国を捧げます」


こうして、ビスカはロゼッタの予感通り動きだす。


同日夜、私は書斎で執務作業をしていた。


「誰かは知らないけど、大方ビスカの手の者でしょ?出てきなさい」私は執務の手を止めて言った。


「これは、これは唯の小娘かと思いきや気付いていたか」その言葉と共に襲撃者が姿を現す。


「保護色の魔法ね気配までは消せていないけど」 


「こいつは末恐ろしいね、でも残念だったな可憐なお嬢さん、助けは来ないぜ?屋敷は既に俺の部下が制圧してる頃だ」壮年の男が自慢気に言った。


「あらそう、でもその台詞そっくり返すは」私はそう言った後一足で襲撃者に近付き、相手の襟を掴んで石の床に叩き付けた。


「クソッタレ!話が違うじゃねえか!おい!こっちだ助けに来い!」男は私に取り押さえられた状態で叫んだが。


「残念、貴方の部下は皆私が始末しました。」


その言葉と共に6個の生首が石畳に跳ねた。


「俺の部下を全員殺ったのか!?」


「貴方はまだ殺しません、話てもらいたい事があるので」


「俺は何も話さんぞ!」


「そう、私の従者に拷問が得意な子がいるの今から紹介するはね」私とラベンザは男を縛り上げ地下の拷問室に行った。


暗い地下室の中央の椅子に男を縛り付けた。

「俺は何も喋らんからな!殺せ!覚悟は出来ている」

「威勢だけは一級品ですね、お嬢様どうします?」

ラベンザが私に指示を仰ぐ。


「ラペンツァを呼んできてこう言った事はあの子の専門だから」


「もう、準備出来ていますよお嬢様」

暗がりの中からメイド服姿のラペンツァが現れた。


「では始めましょうか、ラベンザナイフを貸して」

私はラベンザから果物ナイフを受け取った。


「そんなおもちゃでどうするんだ?斬り刻んでも無駄だぞ?」


「こうするのよ」私はナイフで自分の手を刺した。

私の手から鮮血が滴る、その光景を目の当たりにして男が焦る。


「何やってんだ?使う相手間違ってんじゃなえか?」

男は私を馬鹿にした顔で煽る。


「大丈夫よ、それに私の血は特殊でね」私はそう言うと手の平から溢れる血を男に飲ませた。


「オェ!気色悪いお嬢ちゃんだ何かのプレイか?」

男が軽口を叩いた瞬間私は合図を送る。

すると、男の腹が突き破られ赤い刃が現れる。


「グハ!ガハ!」男が血を吐きながら、のたうち回り絶命しそうになった瞬間「癒しを与えよ」ラペンツァがすんでの瞬間蘇生を行った。


「何だ今のは、俺は生きているのか?」

男は困惑して自分の身体を見るが、傷は後方もなく塞がっていた。


「私は自分の血液を自在に操る事が出来るの」

そう言われ、ロゼッタの手を見ると既に傷が塞がっていた。


「貴方は今確かに死の寸前だったは、だけど私の従者のおかげで蘇生出来たの」

その説明を聞き男の顔が青ざめて行く。


「二人共賭けをしない?この男が一体何回で音を上げるか、私は5回に賭けるは」ロゼッタが口角を上げながら二人の従者に持ち掛ける。


「それでは、私は7回で」


「私は、大穴の10回で!」

二人も嬉々として答える。


「お前等、何の話をしてるんだよ!?何だ賭けって」男が必死に訴える。


「今から貴方にはさっきの死の体験を繰り返し行うは、因みに最高記録は3回よ大抵皆壊れるか喋っちゃうの、貴方は中々肝が座っている様だし楽しみね」


ロゼッタは残酷な笑みを浮かべるとゲームをスタートさせた、その間地下室には男の悲鳴と断末魔が響いていた。


「4回か私が一番近い数字だから賭けは私の勝ちね」


「でもお嬢様、記録更新ですよ!」


「大穴狙いは、やっぱり駄目か」


私達三人は虚ろな目をした男をそっち除けで、楽しく談笑していた。


男は4回目で全てを吐いた、男の所属はビスカ連邦の暗殺部隊である事今回の任務と連邦の目的等、事細かに話してくれた。


「所でこのゴミはどうしますか?」

ラペンツァが下を向いて何やら呟く壊れた玩具を見て言った。


「そうね、彼にはメッセンジャーになってもらいましょ」私は男にある術を仕込んで解放した。


「それじゃあ、私は行く所が出来たけど、二人共来てくれる?」


「何処へなりとも、お嬢様」

二人は同時に答え、私達は地下室を後にした。


「アトラス将軍、暗殺部隊の生き残りが帰って来ました!」アルディノ領から約30キロ離れた地点にアトラス将軍率いるビスカ軍の駐留地に暗殺部隊の男が戻っていた。


「直接聞こう、通せ」将軍の言葉を聞き男がテントに入って来る。


「まずは結果を聞かせろ、ターゲットは始末できたのか?」将軍が男に聞いたが男は俯き何かを呟く。


「将軍の御前だぞ!面を上げよ!」将軍の側近の武官が男に言った瞬間男が顔を上げた。


「何だ!その顔は!」武官は男の顔を見て叫んだ。

男の顔は目を釘で打ち付けられており、男はひとしきり「殺してくれ、、、」と懇願していた。


「お前達!この男をつまみ出せ!」武官が憲兵に指示した瞬間。男の身体が爆散しテントの中が血の海に染められた。


「なるほど、これが向こう方のメッセージか」将軍は静かに笑いながら言った。


「全軍に伝えよ!明日の朝にアルディノ国への侵攻を開始する、我が王の為に手柄をたてようぞ!」


将軍の言葉に側近達が歓喜する、そして将軍は自分の長年の相棒である槍を見ながら言った。


「明日はお前を思う存分振るえるぞ、我が愛槍よ」


将軍はそう言うと直ちに明日の侵攻の作戦会議を行った。


第2話 完結


次回最終話

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「ブラッディ•パーティー」 二階堂暁 @zanza0828

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