「ブラッディ•パーティー」

二階堂暁

第1話 「女王の誕生」

時はスレイン歴1940年6月ある一つの国の王が崩御した。この世界は3大国により支配されていた。一つ目の国世界最大派閥の宗教であるキリシタリア教の総本山である「スベイン法国」、2つ目は世界一の技術力を誇る発明の国「アルディノ」、そして世界最大の軍事力を誇る富国強兵の国「ビスカ連邦」。


この三国は100年に及ぶ覇権争いを繰り広げており、後の世ではその長きに渡る戦乱を統一戦争と呼んだ。


その戦争も20年前の三国間の和平合意により100年に及ぶ戦争に終わりを告げた。その三国間の間を取り持ち交渉締結に多大な貢献をしたのが現アルディノ国、国王であるフレデリック•バーン•ハートであった。


彼はその功績から賢王と呼ばれ、自国民や2カ国から絶大な信頼を受けていた。だが戦争が終結して18年である1938年フレデリック王は病に伏し、そして現在に至るまで療養生活を余儀なくされていた。


「フレデリック様お気を確かに持ってください!」


アルディノ国、バーン•ハート一族の邸宅の寝室で王が死の間際に居た。


その姿はかつての勇ましい姿とは違い、衰弱し骨張っており自らの力だけではベットから起き上がる事すら出来ずにいた。


「そなた達よ長年私に仕えてくれて感謝する、どうやら私の命も間もなくの様だ」王は寝たきりの状態から臣下達に言った。


「滅相もございません!私達は貴方様の勇姿に惹かれてここまで御使いして参りました!なので縁起でも無い事を仰らないで下さい!」


長年、王の側近として仕えた大臣が言った。


「最後に我が子と話たいことがある、誰か呼んできてくれ」王がか細い声で近くの臣下に言った。


「お父様、私はロゼッタは此処にいます」


その言葉と共に寝室の入り口から二人の従者を連れた美しい少女が歩いて来た。


「ロゼッタよ、我が愛しの娘よ顔を見せておくれ」


王の願いを聞き少女は父が眠るベットの脇に来た。


「本当にお前は死んだ母さんに似て美しくなったな」王はロゼッタの頬を優しく撫でながら言った。


「お父様、弱気にならないで下さい必ず良くなりますから」ロゼッタは骨と皮だけになった父の手を強く握り嘘を付いた。


もうすでに王の身体は限界を迎えており、医師や治癒術師の手に負えない所にまで来ていた。


「我が娘は優しく強い子に育ってくれた、これで私も思い残す事は無くなった。だからこそ私は今からお前達に遺言を伝える」王は静かにロゼッタから手を離し、臣下とロゼッタに向けて言った。


「今日を持って、私は王の座を降りその王位を私の娘であるロゼッタ•バーン•ハートに譲る。」


王の最後の言葉を聞きロゼッタは内心驚いたが、臣下も領内から集まった貴族達も全員が王の最後の願いを支持していた。


「ロゼッタ、お前にはこれから先苦労を掛けるかも知れんが、この国の民の命、そしてこの世界の行く末を頼んだぞ。」


王は父としてではなく、賢王として次の世代であるロゼッタに託した。


「はい、お父様の築き上げた平和なこの国をそして大切な民を守ってみせます」ロゼッタは力強く頷く。


「そしてラベンザとラペンツァ」


「はい!」


ロゼッタの従者である双子の姉妹が返事をする。


「ロゼッタを支えてやってくれ、これは王としてではなく一人の父親として頼む」


「この身に代えましても、必ずお嬢様をお守りいたします」姉のラベンザが答え妹のラペンツァも頷く。


「君達二人が居れば安心だな、最後にロゼッタよ」


「はい、お父様」


「私の娘として産まれてくれてありがとう、私はお前を心から愛している、幸せになるんだぞ」


「はい、私も愛しております、後はお任せ下さいお父様」


ロゼッタが伝えると王は満足気な顔で静かに目を閉じ、そのまま起きる事は無かった。


賢王フレデリック•バーン•ハートの崩御は世界中に伝わった。


その訃報を聞き葬儀には人々が列を成し、賢王に最後の別れを告げた。


2カ国からも使者が送られ追悼の意を贈った。


ロゼッタは賢王の葬儀の最中も涙一つ流さず、次の王の威厳を見せていた。


「お父様、私はこの国を纏める事が出来るのでしょうか」


葬儀が終わった夜、私はお父様の書斎へと来ていた、よくお父様はここで本を読んでおり、その度に今は亡きお母様と訪れお父様と3人家族の団欒を過ごしていた。


私はお父様がよく座っていた腰掛けに座りこれから先の事や両親との思い出に浸っていた。


すると、書斎の扉がノックされ私は入る様に言った。


「失礼します、お嬢様探しましたよきっとここに居られると思い来ました。」その言葉と共に執事服を着こなした流麗な女性、私の従者であるラベンザが来た。


「お嬢様、私もいますよ」


今度ほメイド服を着崩したもう一人の従者ラペンツァが来た。


「二人共心配を掛けたはね、ちょっと本でも読みたくて」


「灯りも付けずにですか?」ラベンザが私の心中を察したかのように言った。


「ごめんなさい、本当は心の整理をしたくて一人になりたかったの」


「お嬢様、お気持ちは察しますが」


「分かっているは!私はこれから先我が国の民や周辺国との関係、王としてやらなくてはいけない事が山積みよ!だけど、私は寂しいのたった一人の家族だったお父様も居なくなって私は、、どうしたらいいの?」


私はラベンザに今まで我慢していた感情の全てをぶつけた、だが彼女は優しく言った。


「お嬢様は確かに明日から王としての責務を全うしなくてはなりません、ですが今この瞬間は14歳の一人の少女として泣いても良いんですよ」ラベンザのその言葉の後に妹のラペンツァが続ける。


「それにお嬢様は一人じゃないですよ!私と姉さんが居るじゃないですか、そちらこそ寂しい事言わないでくださいよ」彼女達の言葉を聞き私の目から大粒の涙が流れた、そして私は両親との思い出の場所である書斎で人目を憚らず泣いた、そんな私を二人の従者は優しく抱き締め一緒に泣いてくれた。


こうして私は14歳の少女から、


アルディノ国女王ロゼッタ•バーン•ハートと成った。


第一話 完


第2話に続く







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