エリート獄卒の異世界冒険譚
タナカタロウ
第1話 エリート獄卒、転生打診される
───奈落、
「今日は18人の新しい罪人が来ます。まずは、いつもより気合いを入れて温度をあげるように。
また、2人の罪人が寿命を終え
黒の
見た目こそ十八・九に見えるが、その細身から放たれるオーラは歴戦の猛者のように暴力的で冷たい。
「
「このあと監査まわりらしいぜ。」
「さすがに手抜けねぇな、次の罪人は俺たちかもよ、なんてな……ハハ……笑えねぇ。」
ガタイのいい鬼たちがそのキツい目付きに怯えながらヒソヒソと話す。
「そこ!」
「ヒイッ」
「私の話の間に私語とは。死にたいんですか?」
……地獄ジョークである。
ただし、恐怖で誰も笑っていない。
「ここは
以上、解散。」
羅刹の合図とともに、鬼たちは自身の持ち場に散らばる。
いつもより駆け足なのは、責任感からか。羅刹が怖いのか。
「
2人を呼ぶと牛の頭と馬の頭を持った獄卒がどこからともなく現れ、羅刹の後ろに控える。
「「羅刹さま、ここに。」」
「私はこれから
そのまま
「「承知しました。」」
羅刹はくるりと踵を返すと、自らの身長より大きく、自らの腕よりも太い槍をひょいと持ち上げて大叫喚地獄へと向かった。
◇◆◇
「
監査回りを終え、呼び出されていた閻魔の前に参上する。
「
「なんの御用でしょうか。いつも閻魔様から頼まれる仕事はもう終わらせているはずですが。」
羅刹を見てパアァと顔を明るくさせる閻魔と対象的に、つい心底面倒くさそうな顔をしてしまう。
またなにか雑用を押しつけられるに違いない。
「そんな顔をするでないぃ……
羅刹よ、今日はおぬしに転生をしないか、聞きたくてな!」
「転生、ですか?」
まったく予想もしない言葉に眉根をキュっと寄せる。
「そうじゃ、羅刹。おぬしは今までの862兆年あまり、よく頑張ってくれた。おかげでワシも大助かりだったわけだが……」
その通りだろう。私は自他共に認めるエリート。
光の速さで
誰も真似できないような仕事ぶりのはずだ。
「なぜ、いきなり?」
「いやぁ……すこし前から考えておってな。
おぬし、仕事ぶりがよすぎるだろう?」
「ええ。」
当たり前だ、という顔をする私。
「それでな、後輩が育たんのだ。」
ふむ……なるほど。
たしかに、そこを考えたことはなかった。
「そこで私が邪魔になる、という訳ですね。」
あわあわと両手を振って否定する閻魔。
いいオジサンがそんな素振りをしたって、可愛くもなんともないのだが。
「邪魔という訳ではないんじゃぁ……ただ、おぬしも疲れてきた頃かと思ってな。
転生して地獄と縁のない生活もどうかと。どうじゃ?」
……正直、悪くない。
規律に厳しく、罪人を捌くだけの日々とは別世界の人生というわけか。
「まぁ、休暇とでも思ってくれればよい!生を
おぬしの席は空けておくしの!ココに!」
そう言うと、閻魔は大きな椅子に空いた自分の隣の空白をポスポスとたたく。
「はぁ……閻魔様の雑用係の席は遠慮しておきますが……」
しゅんと
「転生は、いいですね。そろそろ休暇も欲しかった頃です。
ぜひ、平穏で
「もちろんじゃ!」
顔を上げ満足気な閻魔。
「じゃあ、さっそく転生の準備にうつるとしよう!」
そうして閻魔と連れ立って転生門の前に立つ。
「ええと……転生のしかた……転生のしかた……と」
ぺらぺらと書物をめくる閻魔。
「閻魔様、あなた。転生方法を覚えてないんですか?」
「ヒッ……ご、ごめんってぇ……前回の転生なんて、間違えて地獄に来た人間の62万年前なんだもん……。」
目を赤くして汗をかきながら書物を必死にめくる閻魔を横目に、“新しい人生”を考える。
願わくば、発展した都市の平凡な家庭でぬくぬくと生活してみたい。
罪人の叫び声も、鬼の怒号もない平穏な日々。
なるほど、悪くない。
「あ、あった……!!!おまたせぇ、羅刹くん。」
ドバドバと脂汗を
涙目のオジサン。正直、気持ち悪い。
「……きもちわるい。」
「羅刹くぅん……きびしいよぉ……」
「すみません、声に出てしまったようです。
ありがとうございます、閻魔様。」
閻魔は転生門に呪陣を刻んでいく。
「平穏なところね。生きやすく、障壁のない日々。
……できれば羅刹くんの性格も明るくて優しい人になるといいなぁ。」
呪陣を一通り書き終えると、転生門はギギギギィィィ……と重々しい音を立ててひらいていく。
「では、閻魔様。お世話になりました。
また数十年後でしょうか、数百年後でしょうか。その頃にお会いしましょう。」
「ら、羅刹くぅん……僕の元に戻ってきてくれる気はあるんだね……!」
うるうると涙をためる閻魔を横目に、門の先の光に向かって足を踏み出す。
「羅刹くーーーん!!元気でねーーー!!!」
「今とは違って優しい子になるんだよーーーー!!!」
失礼なオジサンだ。
「羅刹くーーーん!!幸せになってねーーーーえ!!!!」
……根はいいオジサンだ。
そうして私は光の道を歩き続け───
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