スキル狩り・喪失者(ロスト)との邂逅

「レイ・アルスター。スキル《反射》──排除対象、確認」


闇の中から姿を現したのは、白い仮面をつけた細身の男だった。

その足元には、魔法によって焼き焦げた地面が広がっている。


「名乗れよ。“処刑人”さんよ」


レイが睨むと、男はゆっくりと仮面に手を当てた。


「〈スキル狩り〉第四位、“喪失者(ロスト)”。

私のスキルは《消去》。

スキルの起源を見つけ、存在そのものを塵に還す」


「……スキルを“消す”?」


「正確には、“発動を可能にしている世界定義そのもの”を削除する。

結果として、スキルは“存在しなかった”ことになる」


エリスが表情を強張らせた。


「最悪の相性よ、レイ。

“反射”は因果を跳ね返すスキルだけど、

《消去》は因果そのものを生まれる前に断ち切る」


「つまり……“反射する余地すらない”ってことか」


レイは、喉を鳴らした。

この男は、“先に動いた方が負ける”。


「……なら、後出し勝負でいくしかないな」


ロストが、指を鳴らした。


「封鎖領域・起動。世界設定、構築変更──

ここより五百メートル内、“スキル発動定義”を凍結する」


レイの視界が歪む。

大気が軋み、空間が異質な圧力を持ち始める。


「“設定の書き換え”……だと?」


「我々〈スキル狩り〉は、スキルの存在を“文章”として捉える。

その“定義文”を塗り潰せば、君のような存在も、ただの無能力者だ」


レイの膝が、わずかに崩れた。

“反射”が、起動しない。

スキルの回路が、閉じている。


(くそ……これが、封印の実態か!)


その時、エリスが叫んだ。


「レイ、思い出して! あなたのスキルは、《反射》の名を持っていても、

ただのスキルじゃない……“世界の再定義”そのもの!」


ロストが、静かに手をかざす。


「“再定義”も“反射”も、この空間では起きない。

君の力はもう、使えない」


──瞬間、レイの脳裏に、言葉が浮かぶ。


《反射》:観測された事象すべてに対し、対等な“否定”を返す概念。


(俺の力は、観測されたものに対する“NO”だ……なら……)


レイが、ゆっくりと立ち上がる。


「おい、ロスト」


「……何か?」


「お前の“設定”を、こっちが観測したらどうなる?」


「……なに?」


「つまり……《反射》は、発動じゃない。“観測”された瞬間、

すでにお前の定義は、俺の否定を受け取ってるってことだ」


ゴオォッ!!


空間が爆ぜる。

凍結していたはずのスキル領域が一瞬で逆流し、

ロストの背後に設置されていた“定義文”が、まるごと破壊される。


「ッ……ありえない……!」


「悪いな。俺のスキル、見たものすべてを“拒絶”するんだよ」


レイの瞳が、銀色に輝いた。


「それが《反射》の“第一段階”、

──《対観測干渉》だ」


ロストの姿が、爆音と共に霧散した。


残ったのは、彼の仮面だけ。


「“スキル狩り”って言ったな……いいぜ、相手になってやる。

お前らがスキルを“定義”してるなら、

俺は、その“定義そのもの”を反射して破壊する」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る