ダンジョンに住む(なんで?)魔女に加護を貰った俺、TSしてなぜか配信者になる。いや、パーカーちゃんって安直じゃない?
増した力はちゃんと検証してから使用した方がいいと思います。巻き添えになってしまうかも知れないので
増した力はちゃんと検証してから使用した方がいいと思います。巻き添えになってしまうかも知れないので
肩口ほどの長さの桃色の髪と、やや童顔な顔立ち、全体的に華奢な印象を与える、可愛らしい少女である。
彼女はダンジョン配信を主とする事務所、『ゆるだん』に所属する登録者20万人越えの人気配信者だ。
配信者名は、『
持ち前の明るさと、その可愛らしいルックス、確かな実力を持った若き配信者だ。
探索者兼配信者をしているのは、単純にお金のため。
一人暮らしでかっつかつだったし、何より人を楽しませたいことが好きだった彼女からすれば、探索者系配信者というのは、渡りに船だった。
彼女がこの業界に入ってから一年弱、探索者を始めてから二年弱で、国内でも学生間では上位に入るほどの実力を身に着けていたが彼女は今、死の恐怖を身近に感じていた。
「いいぃやぁぁぁぁぁ!? 死ぬ死ぬ死ぬぅ!? 本当に死んじゃうよぉ~~~~~~!?」
というか、気を抜いたら速攻で死にそうなくらい、状況が逼迫していた。
【姫ちゃん逃げて! 超逃げてェ!】
【ってか、なんでモンスタートラップ+強制転移トラップ引いてんの!?】
【いつもはこんなことないじゃん! 今日はどうしたの!?】
【んなこと言ってる場合かッ! 姫ちゃんがピンチぞ!? 相当ヤバいぞこれ!?】
「あぁっ! 死ぬ死ぬ死んじゃうっ! って、危なっ!?」
そう叫びながらも、ドラゴンが振り下ろす前足の攻撃を何とか避け、着地狩りをしようとしていたゴブリンウォリアーの攻撃を片手剣でいなし、逃走再開。
とはいえ、逃げても逃げても魔物は追いかけて来るし、ドラゴンは遠距離攻撃もしてくるしで、距離を取るに取れない状況。
さらには、出口に向かおうと思っても、そこでスタンバイしている狡猾な魔物もいるしで、かなり絶体絶命。
そこらの探索者なら速攻で殺されていることは間違いない状況を、紙一重で避け続けている辺り、姫自身の実力の高さをうかがわせる。
「はぁっ、はぁっ! や、やばいっ、連戦に次ぐ連戦で体力がっ……!」
とはいえ、いくら実力があっても、連戦が続けば当然息も切らす。
【諦めないで姫ちゃん!】
【って、後ろからめっちゃ来てる!? 姫ちゃん逃げて! ほんとに逃げてェ!】
【だ、誰か助けは!? 助けはないのか!?】
【姫ちゃんがさっき救援要請してたけど、人が来るかわからんて! だってここ、レベルⅥのダンジョンだぞ!? バリバリの高難易度なんだし、人がいる可能性なんてそうそうない!】
【第一、《魔女の焔》とか詐欺ダンジョン言われてんじゃん! あのダンジョン、最初の方は大した敵が出てこないからって、Ⅱくらいにされてたんやぞ!? それが進めば殺意マシマシのトラップやら、魔物もの数々! だから、Ⅵに跳ね上がってるわけで!】
【なんでそんなところに行ったんだよ!?】
【中級者以上なら、浅瀬でも訓練になるらしいからな……】
【あと、普通に魔石も結構質がいいし、ドロップアイテムも悪くない】
【だからたまに姫ちゃんみたいに、腕試しで行く人もいる……が】
【あと、そこのダンジョン、たまにソロで突貫してる奴がいるらしいから、難易度が低めに見られがちらしい。Ⅵでもソロで行けるなら結構行けるんじゃね? みたいな】
【アホすぎるだろ……】
【んな呑気なことを言ってる場合か!? 誰でもいいから! 姫ちゃん助けに行かな!】
【ダメだ、行こうにも《魔女の焔》は遠いし、何よりここ最奥だ】
【くっ、力がないのが歯がゆいっ……!】
【見てるだけしかできないの……?】
「はぁっ、はぁっ……あぅ!」
攻撃を避け、弾き、逸らし、傷を最小限にしていた姫だったが、遂に蓄積されていたダメージや疲労がピークに達したのか、足がもつれて転倒してしまった。
【あぁっ! 姫ちゃんっ!】
【そこで諦めないでッ! 頼むからァッ!】
【推しが死ぬとことか絶対に見たくないんやっ! 誰でもいいから姫ちゃんをっ!】
「あ、あー……これは、ダメ、かなぁ……」
よろよろと起き上がり、後ろから迫る魔物たちを見た結果、姫の胸中には諦めのみが浮かんで来る。
Ⅰ~Ⅳのダンジョンならともかく、Ⅴのダンジョン以降から救援要請に来てくれる人の数はガクンと減る。
それもそうだ。
高難易度に分類されるダンジョンに入っている関係上、見ず知らずの人を助けようと言う者は少ないし、何より危険だ。
下手に行けば自分たちも死にかねないのだ。
それを理解していたからこそ、姫は諦めの言葉をぽつりと零し、小さく諦念が籠った笑みを浮かべる。
そうして、目の前に大きなドラゴンの足が振り上げられ、それがドラゴンから見たらちっぽけな姿にしか見えない姫に向かって振り下ろされる。
【あぁっ! もうだめだっ!】
【み、見てられねぇっ、見てられねぇよっ……!】
【いやぁぁぁぁあっ!】
【くそっ! もう無理なのかッ……!】
と、姫の視聴者たちは、目の前に迫る死を見て、姫と同様にあきらめの境地に入ってしまい、中には死ぬ光景なんか見たくないと、配信から抜ける者も出始める。
そして、ドラゴンの足が振り下ろされて、姫が圧死しそうな瞬間だった。
「――ぶっとべやっ!」
と、やたら可愛らしい声に似つかわしくないセリフが聞こえて来たと思ったら、ドガァァァァンッッ! と、何かがドラゴンの頭に衝突し、ぐらり、と地響きと共に横に倒れた。
「へ……?」
【な、なんだ!? 何が起こったん!?】
【なんか知らんけど、ドラゴンが横に倒れたぞ!?】
【ってか、今の轟音は何!?】
【こんな絶望的な状況で、更にバケモンでも来るってのかよ!?】
【いや、聞き間違いかもしれんが、なんか随分と可愛い声が聞こえたような……?】
「え、な、何? 何が起こったの……? え? わたし、生きてる……?」
突然の状況に、視聴者も混乱するが、それ以上に姫の方が混乱していた。
死ぬかと思っていたら、突然ドラゴンに何かが衝突した挙句、そのドラゴンが横に倒れたのだ。
しかも、倒れた先には他の魔物たちもいて、半数近くの魔物がそれで潰された。
というか、その肝心のドラゴンも気が付けば塵になって消え、その場には紅色の大きな魔石が落ち、翼と爪、牙らしきものが落ちていた。
「うわ、マジかよ、本当に威力上がってるし……いつも通りにやったはずなんだが、これは……うーん、調整がいるな」
【え、人? マジで!?】
【救援要請で来てくれた奴がいるの!? このダンジョンに!?】
【マジかよ!?】
【ってか、声的に女……? いや、それどころか、結構若くね?】
【クッソ可愛い声だな……多分、小学生くらいかも】
【なんでわかるんだよw】
「っと、君が救援要請出した人? 怪我はないか? って、うわ、結構ボロボロじゃん……あー、ちょっと待ってなー」
とてとてとこちらに歩いて来たのは、パーカーで顔は隠れて見えないが、間違いなく女性……どころか、かなり年若いであろうことが予想されるほどの小柄な体躯に、思わず聞き惚れてしまいそうなくらいに可愛らしい声の人物だった。
フードの奥からは、蒼と紅の瞳が見えており、よく見ると、髪の毛が淡く光っているようにも見えた。
体は小柄ながらも女性らしいラインがはっきりしており、よく見れば胸もそれなりにあるようだ。
一体誰なのか、それを聞こうとした姫だったが、その人物の行動に、驚愕することとなる。
「えーっと……お、あったあった! ほい、ポーション。とりあえず、中級の回復ポーションと、マジックポーションな」
「え、あ、え!?」
【は?】
【おい待て、メッチャ可愛い声しとるとか、チラッと見える太腿が眩しいとかいろいろ言いたいことはあるが……そのポーションどっから出した!?】
【変態がおって草】
【え、収納袋とか出したような素振りなかったよな!? え!? どゆこと!?】
【なんなんだこのパーカーの人物!?】
【アイテムボックス的な魔法なんてないはずじゃなかったか!? どゆこと!? 本当に、どうゆうこと!?】
【わ、わからねぇ……何が起こってるんだってばよ……】
「んじゃ、さくっと片付けて来るんで、そこで待っててな!」
フードの奥で笑ったのを感じると、パーカーの少女は氷の刀を持っている左手とは反対の右手に、煌々と燃える炎の刀を出現させると、魔物の群れに向かって駆け出した。
「あっ! ひ、一人じゃ危ないよっ!」
一人で突貫して行ったパーカー少女に後ろから危ないと声をかける。
【なんだあの刀!? え、あれ魔法!? それとも魔道具!?】
【ま、マジで誰なんだよ、あのパーカー少女(推定)!?】
【やべー、マジでヤベー!】
【ってか、あの数の魔物の群れに一人で突貫はいかれてんだろ!? 絶対死ぬぞ!? 蛮勇か!?】
【いい所見せようとしてー、って風にも見えないが……】
「と、とにかくっ、わ、わたしも、た、戦わないとっ……!」
片手剣を地面に突き立てながら、よろよろと疲れとダメージで震える体に鞭打って、なんとか立ち上がり、パーカー少女を追いかけようとしたら……。
「へぁ……?」
目の前に広がる少女に対する蹂躙劇……ではなく、パーカー少女が魔物たちを蹂躙する光景が繰り広げられ、姫は何とも場違いなほどに気の抜けた声を漏らした。
炎の刀で魔物を斬りつければ、そこから炎が上がり、それに触れた魔物も燃え出す。
氷の刀で魔物を斬りつければ、そこから凍り、氷像と化す。
棍棒を上から振り下ろされれば、それをオーバーヘッドキックの要領で横にはじき返し、その勢いで周囲を炎と氷の刀で斬る。
四方八方から攻撃が降り注ぎそうになると、その場で大きく跳躍。
それを見た魔物たちは、着地の瞬間を狙う者と、空中なら逃げられないと言わんばかりに、攻撃を加えようとする者で分かれる。
だが、パーカー少女は両手に持った刀を横薙ぎにぶん投げると、空中攻撃を仕掛けようとした魔物たちを屠る。
獲物を失い好機だと思った着地狩りを狙う魔物たちは、どこかにやけた様な顔を浮かべたが……。
「はっ、甘いんだよっ!」
パーカー少女があざけるようにそう言うと、今度は雷の槍を出現させ、それを地面に向かって投擲。
雷の槍が地面に刺さると同時に、地面がひっくり返ってしまうほどの爆発を発生させ、同時に周囲に無差別に雷をまき散らし、辺りの魔物たちをまとめて焼き殺していく。
次々に燃え、凍り、焼けていく魔物たちという光景に、姫は茫然とその光景を見ていた。
「な、なにあれ、しゅごい……」
【えぇぇ……】
【えぇぇぇ……?】
【すまん、え、あれ、何……?】
【ぶわーって燃えて、かきーんって凍って、バチバチィって感じで雷が……なに、この、なに?】
【つ、強すぎない?】
【一応ここ、レベルⅥのダンジョンの最奥、だよね? そこらの雑魚モンスターも、レベルⅠ~Ⅲのボスくらいはあるくらい、強いんだよね……? え、何あれ……】
【というか、動きがきしょすぎる】
【横薙ぎの攻撃を地面に背中が付くくらいのイナ○ウアーで避けたと思ったら、立ちブリッジからのハンドスプリングの要領で飛び跳ねて蹴り入れまくってるんだけど……】
【ってか、柔軟性がヤバくない? あれ】
【いやいやいやいや!? それよりも、あの刀とか槍は何!? 何あれ!? 強すぎじゃね!? 人権か? 人権なのか!?】
【トレンド入りしてたから来たら、なんかえらい光景が映ってるんですが?】
【なぁにあれぇ……?】
【モンスタートラップとか、転移トラップとか、姫ちゃんの名前がトレンド入りしてた上に、パーカーちゃんとかいう謎ワードがトレンド入りしてたから何事かと思って来てみれば、これ、どういう状況……?】
などなど、姫も含めた視聴者たちはそれはもう困惑していた。
目の前のパーカー少女の規格外っぷりに。
たった一人で魔物の群れを斬り殺していく様は、謎の爽快感さえあった。
視聴者たちは目の前のパーカー少女を見て騒ぎ、その光景を間近で見ている姫は……。
「か、カッコいい……!」
と、頬を赤らめ、ぽーっとした表情で見つめていた。
どう見ても恋する乙女、みたいな顔である。
そうして、数分ほど戦闘は続いたが、魔物の数がみるみるうちに減って行き、最後の一匹が今、倒された。
「ふぅ……終了っと。あ、宝箱。んー、別に欲しい物はないしな……いいや、放置で。っと、君大丈夫だったか?」
「え、あ、ひゃい! だ、大丈夫れす!?」
【噛み噛みやんけw】
【ナチュラルに話しかけてるぅ……】
【というか、姫ちゃんの様子がおかしい】
【どうした?】
【惚れた? まさか惚れちゃったのか!?】
【いやぁぁあ! 姫ちゃんはみんなの姫ちゃんなんだ! そういうのはやめてぇぇぇ!】
【こういう時でもユニコーンはいるのか……】
【めんどくせぇw】
【相手は(推定)女なんだよなぁ……w】
「ポーションは飲んでるな。あー、帰れる?」
「ひゃいっ! にゃんとか帰れましゅ!?」
「ならいいけど。いやでも心配だな……じゃ、これ使ってよ」
そう言うと、パーカー少女はまたどこからともなく淡い光を放つ白い石を姫に放り投げた。
慌ててそれをキャッチした姫は、投げられたものを見てぎょっとした。
「え!? こ、こここっ、これ!? て、転移玉!?」
【ファ!?】
【転移玉!?】
【なんちゅー高価なもん投げてんのこのパーカー!?】
【こっわ!? いきなり一個十万円以上する石をぶん投げて来るとかこわ!?】
【金銭感覚大丈夫か!?】
【やっぱ、トップ層か?】
【上の奴らは何かおかしいって聞くし……】
「おう。どうせ使わんし、疲れてるでしょ? 俺もちょっとやることあってさー。ま、それで安全に帰ってよ。じゃ、俺はこの辺で! 気を付けてな!」
「あっ、ま、待ってっ!」
と、パーカー少女は姫の静止を振り切って、そのまま去って行ってしまった。
あとに残ったのは、手を伸ばしたまま固まっている姫と、パーカー少女が屠りまくった魔物からドロップしたアイテムと大量の魔石の数々に、ドラゴンの巨大な魔石とドロップアイテムである。
さっきまで嫌というほどうるさかったはずの大広間は、どうしようもないくらいに静まり返っていた。
「……と、とりあえず、帰ればいい、よね?」
【あ、うん、そうだね】
【まるで嵐のようだった……】
【強すぎるだろ、あのパーカーちゃん……】
【動きもヤバかったしな】
【ってか、転移玉をぽんって人に上げられるくらい稼いでるんかな……?】
【うーむ、わからん】
【ってか、気が付けば同接が50万越えてるやんww】
【まあ、あれはなぁ……】
【見入っちゃうくらいにカッコよかったからね、仕方ないね】
【やーば】
「じゃ、じゃあ、ありがたく使わせてもらって、か、帰りますっ! あ、そう言えば魔石とかドロップアイテム、どうしよう……? と、とりあえず回収して、協会に預かってもらおう」
色々と迷っていた姫だったが、ポーションで回復したとはいえ、色々と限界だったのもあって、転移玉で帰還を図り、帰る前に事務所から借り受けている収納袋の中にドロップアイテムと魔石を全部入れてから、地上へと帰還して行った。
◇
さて、色々と話題になったパーカーちゃんこと、苑間柚希はと言えば。
「おいイル。なんか、俺の知ってる魔法の出力じゃなかったんだけど」
「だから言ったじゃろう? 儂の加護はすごいって」
「いやすごかったけど! だが、あれはおかしくね!? なんでⅥのボスワンパンKOなんだよ!?」
普通にイルにツッコミを入れていた。
なるべく心配をかけまいと、取り乱した様子を見せていなかった柚希だったが、単純に威力がおかしかったために、イルに詰め寄っていた。
「危うくあの人巻き込むところだったんだが!?」
「そこは、柚希の腕が悪いからじゃろう?」
「いやいやいやいや!? あそこまで威力が上がるとか想定しとらんわっ!」
「ハハ!」
「ハハ! じゃねえよ!? まったく、今回は何とかなったからいいが……仕方ない。ちょっとここで魔法の検証してくから手伝え」
「もちろんじゃよ。任せたまえ!」
魔法検証と聞いて、それはもう嬉々として協力を承諾したイルを見ながら、柚希は苦笑しながら魔法の検証に励むのだった。
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知らない間に全世界に自身の戦う姿が公開されてしまった柚希ちゃんです。
当然のように大盛り上がりになっており、掲示板でもそれはもうすごいことに。
次回は掲示板回です!
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