スキスキスキ

橘塞人

第1話と言われたところで続きはないんだが

「ウチさ、あーたのこと、結構いいなぁって思ってる訳。ウチら、付き合わない?」

「ごめん。俺には好きな人、か、か、彼女がいるからっ!」

「!!」


 ある日の放課後、クラスのイケてる男子江住カルマを体育館裏に呼び出し、告ったウチだったが、結果は爆速爆散だった。秒の躊躇すらなかった。

 ウチは目を見開いた。まさか、このウチが、フラれるとは、夢にも思わなかったからだ。後になって思うとビミョいけど、その時は一世一代の告白を、爆速で断られるとは思わなかったのだ。

 告った相手、江住カルマはウチらの高校のヒーロー。有名なサッカーチームのユースだかソースだかに所属していて、昇格も決まっていて、もうトップチームの試合にも出てるらしい。知らないけど。

 ただ、そんな将来ビッグになる可能性が激高なメンズなら、この学校一のギャルであるウチ、赤根メルと超お似合いじゃんって思って告った訳だけど、結果は爆散。

 江住の彼女のことも知っていた。2人は学校にいる時は年中一緒にいるから。彼女の名前は剱崎アズサ、ブスとは言わないけどイケてはいない。高校生にもなってノーメイクで学校に来る、黒髪の地味子。ウチに告られたらもう、そんなイケてない彼女なんか秒で捨ててウチに乗り換えるのが常識じゃね? って信じて疑わなかったけれど、江住はウチを秒で振って、秒で立ち去っていった。






 そんなことがあった次の日。


「メルぅ? あーた、江住カルマに告って光速でフラれたってぇ? 鬼ヤバ! ちょー、ウケる♪」

「うっさい。そんなん、何処で知ったん?」

「ケイナがあーたの告ったとこ見ててさ、ビミョい告りした挙げ句、雷より速いスピードで爆散したってライン送ってきた。ちょーウケた♪」

「うっさい」


 ウチはギャル仲間の天藤キヌアの言葉を恥ずい気持ちで聞き流しつつ、ウチを振った江住に目を向けた。江住はいつも通り、教室内で剱崎とイチャコラしてた。

 あの地味子の何処が良かったん? そんな想いと共に地味子、剱崎にも目を向ける。

 剱崎は江住に対して、朗らかに微笑んでいた。穏やかな口調で話し、聞き取り易く話していた。それの比べてウチはどうか?

 ウチの笑みは、すげぇだろって言いたいが為の不敵な笑みばかり。喋る時は自分が喋りたいことを爆速で捲し立て、他人のことなんか知ったこっちゃない。


「何何? メル、まだ江住のこと見てるん? まだ狙いたいって思ってるん?」

「そんなんじゃねーし」


 まだ絡んできたキヌアの言葉にそう答えた。それは嘘じゃなかった。その時のウチは江住ではなく、むしろ剱崎の方を見ていた。

 アイツの何処がウチより良かったんだろう? ウチの何がアカンかったのだろう? そう思いながら。

 江住? ウチに靡かないメンズはイケメンであってもノーサンキュー。それより剱崎を見ていこう。休み時間に江住へ見せた笑顔、昼休みに江住へ見せた笑顔、放課後に江住へ見せた笑顔。同じよう見えて、よくよく見るとちょっと違う趣があった。ふむ、ちょっとイイかも? ただ、同じ場所見てたから、今度はもうちょっと色々な角度で見たいなぁ。

 そう思ったウチは、教室内の別の場所から剱崎をみた。逆の角度だ。うむ、此処から見る剱崎の笑顔も別のOMOMUKIがあっていい。じゃ、もうちょっと近くで見みようか。

 ウチは剱崎の顔を30cmくらいの近距離で見てみた。ふむふむ、この距離で見るのも何か良さげな……


「あの、え? せ、赤根さん?」

「おい、メル。何をやっとる?」


 剱崎は戸惑いの顔を見せた。その顔もよくよく見ればキュートかも? 寧ろ、キューティクル? 同時にキヌアの声も聞こえたような気がしなくもない今日この頃だったが、恐らく気のせいだろう。

 それより触った感じはどうかな? ウチは剱崎の頬に触れてみた。Oh、月見大福よりスベスベしているし、月見大福より柔らかい。って、月見大福はアイスだから柔らかくはねぇか。まあ、いい。

 じゃあ、次はπО2こと大胸筋の感覚はどうか。ウチは剱崎に声を掛けた。


「ねぇ、剱崎。ちょっとおっぱい触ってみていい? いいよね?」

「え?」

「いい訳あるかぁっ! こんの、ボケナスがぁっ!」


 キヌアのツッコミという名のスマッシュがウチの後頭部に炸裂した。おい、脳細胞が死んだらどうしてくれる? ただでさえ他人より少ない貴重品だぞ?

 そんな心配をしながら後頭部さすさすとケアしつつジト目をキヌアへ向けたウチだったが、キヌアは真面目な委員長のような口振りで言ってきた。


「いいか、メル? 親しき仲にも礼儀あり寄りのありとか言うだろ? ましてや、お前と剱崎は親しくもねぇんだから、失礼のないようにしろや」


 いや、言うなら言い切れや。却って意味不だし?

 ウチは剱崎の肩に手を回しながら、彼女に向かって問い掛けた。


「アイツは何をそんなに怒ってるんだろーね? 嫉妬か? 剱崎ではなく、自分のおっぱいを揉めと?」

「ど、どうかな?」

「ああ、済まないなキヌア。ウチには絶壁を揉めるようなスキルはねーんだわ」

「そうか、殺す!」


 キヌアの拳が突然飛んできて、ウチはそれを躱した。ひらり。ふわり。はらり。ひゃっふーーーー♪

 またまたキヌアの拳が飛んできたので、ウチはそれを躱した。ひらり。ふわり。はらり。ひゃっふーーーー♪

 キヌアは大きな声を出して叫んだ。


「だ・れ・が、ボルダリングの垂壁だ! スットーン・ヘンジだ! ゼロ、お乳の乞い人だっ!」


 さらにまたまたまたキヌアの拳が飛んできたので、ウチはそれを躱した。ひらり。ふわり。はらり。ひゃっふーーーー♪

 って、ちょっと待とうか。


「ウチ、そこまで言ってなくない?」

「ん? そうか? ああ、そうだな」

「キヌアのいいとこなんか、ウチ知ってっかんな?」

「お、おう。サンキュ?」


 おう、知ってるかんな? ギャルの装いだけど、実はオカン寄りの性格とか、その他諸々な。まあ、いい。

 ウチとキヌアは肩を組み、手を合わせてハートマークを作ってから近くを通り掛かったケイナを呼び止め、パシャリと撮影した。仲良し、LOVE。イエーーーー♪


「な、仲いいんだね」


 ウチとキヌアでポーズを変えつついくつか写真を撮り、剱崎を(無理矢理)巻き込んで3人で写真を撮ったりした。剱崎にギャルピーさせたのはエモかった。エモいの意味、知らんけど。

 と、思ったところで江住が突如そう言ったので、ウチは驚いて目を見開いた。そして、言った。


「あ、江住。いたんだ」

「!!」

「……草」


 江住は驚いて目を見開き、キヌアはプッとちょいウケしてたが、ウチはちょっと首を傾げた。だって、江住の奴会話に入ってなくて存在感なかったんだから、仕方なくね?

 ……分からんな。






 そんなエモく(意味不明)も分からんことがあった次の日以降も、ウチは機会があれば剱崎のことを教室見ていた。知ろうとしていた。

 友達と何らかの話をしている剱崎アズサ。

 江住に何らかの注意をしている剱崎アズサ。

 一人で授業の予習復習をしている剱崎アズサ。


「メル、またお前は剱崎のことを見てるのか?」

「おう、剱崎がどういう奴なのか知ろうと思ってな」

「で、メルの目から見てどんな感じなん?」

「そうさなぁ……」


 一見ぽやっとしているように見えはするものの、剱崎は意外としっかりしている。どうやら家が道場のようだから、その影響があるのかもしれない。

 それと比べると、江住は意外とポンコツだった。さっきも宿題を忘れて剱崎から注意されていた。アズサの写させてぇ、ちゃんと自分でやんないとダメ、涙目で宿題をやっている(今ココ)。草、それどころか超えて森。

 ウチはキヌアにそんな感じで話した。そんなウチの話を聞いて、キヌアは感心したような声を漏らした。


「何だ。意外と人のこと見てるんじゃねーか」

「剱崎アズサ、意外とママ味のある女。ああ、実はウチのママだったりする? ワンチャン、ママだったりする?」

「……は?」


 そうか、ママか。ママと言えばおっぱい。おっぱいと言えばママ。ミリキーはママの味。

 ウチは剱崎に向かって大きく手を振った。


「剱崎ぃ、やっぱちょいおっぱいくれる? いいよね?」

「は? はぁあっ?」

「お前はまた、何を言うとるんだっ!」


 ウチが剱崎に寄ると、キヌアのツッコミという名のスマッシュが再度ウチの後頭部に炸裂した。おい、脳細胞が死んだらどうして…(以下略)

 剱崎もウチの顔を見て、困ったような顔をしていた。どう答えればいいのか分からないのだろう。

 ふむ、ウチもちょっと図々しかったか。さすがに全部は求められまい。


「あ、全乳が難しければ半乳でも、いや先っぽだけでもいいぞ? 具体的に言えば乳首な」

「な、に、を、言っているか、このセクハラ仮面がっ! トチ狂ったか!?」


 さらにキヌアの追撃がやって来て、ウチはそれを躱した。そうそう食らうものではないのだよ。ひらり。ふわり。はらり。ひゃっふーーーー♪

 さらにもういっちょ、ひらり。ふわり。はらり。ひゃっふーーーー♪ と、そんなことをやっていたら、ウチ等の周囲から人がいなくなっていた。剱崎や江住も含めて。

 まあ、いい。それよりウチは江住のことより剱崎のことを考えるようになっていた。そのことに気付いていた。

 飯を食っている時、剱崎はどのような飯を食っているのか考え。

 風呂入っている時、剱崎はどのようなソープを使ってるのか考え。

 糞捻り出してる時、剱崎はどのような糞を捻り出してるのか考えていた。


「そうか。そうか。そうだったのか」


 自室でつまらない映画をサブスクで見ながら、ポテチを食い、空いた方の手で尻を掻きながらウチは新しい真実に辿り着いた。コレだと。






 次の日の放課後、人気のない廊下を歩いていた剱崎を呼び止め、ウチは伝えるべきことがあると言った。ゴー・アヘッドな気持ちで。


「ウチさ、あーたのこと、結構いいなぁって思ってる訳。ウチら、付き合わない?」

「えぇええええええええええっ!!!?」


 剱崎の驚愕に満ちた声が響き渡った。驚いたか? だが、ウチは理由のない自信に満ち溢れていた。将来最強のママになりうる剱崎アズサ、この学校一のギャルであるウチ、赤根メルと超お似合いじゃんと。

 ウチに告られたらもう、ポンコツ彼氏の江住なんか秒で捨ててウチに乗り換えるのが常識じゃね? って信じて疑わなかったけれど、剱崎はウチを秒で振って、秒で立ち去っていった。


「ごめん。私には好きな人、か、か、彼氏がいるからっ!」

「!!」


 いつぞや、何処かで聞いたようなセリフを残して。

 ……あれ?

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