第2話 今は亡き伝説アルベラについて

勇者を殺し、勇者になりきって。ちやほやされ、何らかの口述で惜しまれながらも引退し、美女に囲まれて幸せに生きるつもりだった…。

そんな浅はかながらも、叶いそうな夢だったのに…。

「君は誰だい?勇者じゃないだろう?」

「…。俺は…シェイプシフター…。姿を真似る…魔物…モンスターだ」

「…クカカッ…そうかい…そうかい…なら殺しても大ごとにすらならなそうだな」

「はぁ…はぁ…頼む…頼みますから…辞めてください…もう戦えないです…」

するとオーナーは何処かつまらなそうな゙顔を浮かべ、しゃがみ込み、目線を合わせてきた。

「呆れた…仮に勇者の仮面つけてんだ、最後まで演技貫き通せよ…あーあ…辞めだ辞め…なーんか萎えた…」あくびをしながら壁に突き刺さったドライバーを引っこ抜く。

「奥の部屋こい、ちょっとばかりお姉さんと話そうか?あーそうそう、そこ、ちゃんと片付けてね」

手を振りながら奥の部屋へと消えていった。

「なんだよ…なんなんだよ…あれ」

今でも指から足まで、体が震えている。俺が知ってる人間とは測りきれないほどの化け物に会った…。

俺は言われるがまま割れた瓶や散らかったものを、片付けながら心を落ち着かせる。

「…ワーメラ…大丈夫か?」

ワーメラは顔が赤くなっていて大きないびきをかきながら寝転がっている。


言われた通り受付を綺麗にした後、ワーメラを抱えながら部屋へと入る。


「…」

「…」

「…」

「……」

「……あの…」

「…zzz」

オーナーは机にもたれよだれが少しこぼれそうになりながら幸せそうに眠っている。

彼女は先ほど、俺を殺そうとしてきた化け物だ。恐らく、この未防備な姿でも触れたら死ぬという理不尽を兼ね備えているに違いない。

「…」

チックタックと部屋の時計の秒針と分針が追いかけっこをしている中、状況は時のようには進んでいない…。

「…あの…」

「…zzzz」

ワーメラといびきがハモり笑いそうになるが、未だにこの弾圧的な空気は変わらない。変わるわけがないのだ。なぜなら彼女は勇者を遥かに凌駕する化け物…。化け物なのだ…。

「…zzz」

にしも…彼女の体型は…その…豊かで、お腹は引っ込んでいるが出る所は出ている。

「…」

手がピクピクと動き、どうやら俺の手は全く怖気づかない探究心と勇気、まさに勇者の腕の様だ。

机を、なぞる様に腕がオーナーへと向かっていく。

「…ふわああぃぃ…ん?…何触ってんだよ…お前、勇者じゃない…ただの変態かよ」

少し指先が触れる次の瞬間。信じられない速度で指を、掴まれる。

「あ…いや…その…」

「…どうやらもう少し痛めつけた方が色が出たかな?」

指が明後日の方向へと曲げられる。

「うがぁぁぁぁつっつッ゙!!?何しやがる!!」

「こっちの台詞だ、何してやがる」

「ひぃ…」

「…あー情けない…あーつまらん。肝も据わってない。弱い。その上、変態。勇者の顔に、どれだけの泥を塗るやら…」

「…っ…あの…貴方…一体何者で…」

「…私か…」

相変わらず目線を合わせてくれない。シガーカッターでは葉巻きの先端を切りながら指先から小さな火を出して葉巻を加える。

「…クカカッ…私の名はアルベラ・プレリュード・デ・グラネイト。表向きはここのオーナーだけど、本当はソナタを中心としたパーティーメンバーの職業。盗賊詐欺師を担ってた。アルベラだ」

「ソナタ?」

「…なんだ…未だの魔物は本物の英雄が誰かを忘れたか…」

アルベラはゆっくりと話し始める。

ソナタという英雄について…。

かつて神創人という種族は気味悪がられていた。神創人はこの頃、異像性不敬人インコンプリートラビッシュズというのが一般的な呼び方だった。見たこと無い技術や、聞いたことのない言語を使い、圧倒的な力や武器を持っていたが、そのほとんどが悪魔崇拝者と呼ばれ、差別され、とうとう、魔女狩りならぬ神創人狩りが行われた。

しかし、神創人は名ばかりではなく、力で抵抗し、やがて対立した。その後、旧神創人、今は自らを平和を望む者たち月輪枢機星団げつりんすうきせいだん。と名乗って、平和を唄い、都合の良い世界に作り変えようとする反社的な危険な組織となっているらしい。

そんな対立が起きて、神創人は危険と考えられてきた頃、とある男が現れた。

そう、この人物こそ、英雄ソナタだ。

ソナタは一年に一度、街を襲撃し、街の三分の一を破壊する龍害と呼ばれる災害への対策を編み出し、危険すぎてまともに人が歩けなかったルートの開拓。整備、そして神創人との向き合い方について語ってくれた。

このソナタという神創人がいたからこそ、溝に橋が架けられ、神創人=狂っているという考えから神創人も人であり、頼りになる存在へと昇華させることに成功した。

「お前が好かれていたのもソナタのお陰だ。奴は私と共に時代を作ったのさ」

葉巻きが短くなるほど、長い昔話を終え、ようやく本腰をいれるのか。こちらを、向いて口を開いた。

「私も現役ではない。もう既にソナタは死に。パーティーは解散している。それ以降私はゆっーたっーり、まっーたっーりしていた。そして暫くして、時計を直していたら、勇者のフリしたモンスターと亜人が来た。最初、月輪枢機の輩が来たのかと思ったが、レトルトとかいう名が出てきやがった」

「そうです…レトルトの…紹介で…」

「だから殺そうか迷ったんだ。私はあいつが心底、嫌いでね。久しぶりに連絡が来たかと思い蓋を開けたらこれだ、ただ単に厄介事を押し付けられたようだ…」

どうやらアルベラさんとレトルトさんは相当仲が悪いらしい。だとしたらあいつ、なんでこの人を…?実力は余るほど申し分ないが、仲間になってくれるわけがない。

「あいつも人が悪い…まさか迷子に詐欺師を紹介するなんてな」

「詐欺師?…あ…そういえば…盗賊詐欺師って」

どうやらあの奴隷商人は詐欺師を行く宛のない勇者に詐欺師を紹介したようだ。人が悪い。

「…で、何様だ?用件を言え、わざわざレトルトの伝言人ってわけでもあるまい」

葉巻の火を完全に消し、カスをグリグリしながらこちらを、見てくる。

「…あの…大変失礼なのですが…俺の…パーティーメンバーに入ってくれませんか?」

「…」

アルベラは少し驚いた後、黙り込み、「クカカッと笑い出す」

「レトルトから来たんだ、お前らレトルトにすら断られたんだろ?普通に私は断る」

「…っそうですか…」

「残念だけど私は芯があるやつがタイプなんだ。誰かの人生を奪い今の人生を楽しむそんなモンスターがパーティーリーダーの時点で破産している。それに…お前には信念がない。幹や根っこのない木がまともに立てないだろう?」

「…」

「…しかし…私もそんなに鬼ではない。1週間。私が常識ってのをたたき込んでやる。1週間たって見違えた存在になったかどうかのテストをするそしたらパーティーに入ってやる」

「な…!?なんで?」

「今のお前が、本物でも、偽物でもない。何にでもなれてないからだ」

「ち…違う!どうしてそこまでして俺を?」

「…?おかしなやつめ、いいか?お前がこの先、パーティーを作ったところで、なんにもしない集団の集まりを作り、次第に金が底をつき、ようやく動く。正直、お前の言ってることは正しいさ、危険な道からは離れればいい。但し…勇者になりすまし、人間になりすましてるだけのモンスターが、ずっと平和に過ごせると思うなよ?」

「…で…でも…俺はもう戦うなんてことはしない!そう決めたんだ」

「月輪枢機星団。これを潰せ」

「え?」

「それがお前の目標である」

「…俺はモンスターで…そんな勇者みたいな使命感や運命なんてないんだよっ!!」

「しるか、これはせめてもの償いだ。少なくともその、勇者はそれを目標に戦うと志していた」

「…俺と勇者は、違う。俺は俺の人生を生きる。俺の人生にこれ以上のスリルはいらないのだ」

そんなクソみたいな使命感ってやつにそうやすやすと命なんて賭けれない。

「もともと賭ける価値すらない命…じゃないのかい?まぁ良いさ、せっかくこれからの人生を他人で埋めるんだ。せいぜい後悔のないように」

「色々情報をありがとうございます。俺はこれからの人生をスローライフに費やす。パーティーという名のハーレムに」

…。

2週間程だろうか?

俺とワーメラは街から少しいや大分離れた「ラディッシュ村」へ、と引っ越した。ここは国の領土だが、人口や土地の割合もあってか、税が少ない。それに豊かで平和な村だ。

「ワーメラ、喉の調子はどうだ?」

「バッチリです!今度こそはあの狂人女に勝てる気しかないです!」

「そうか…もう会うこともないと思うが…」

「ワーメラも会いたくないです」

樽に漬野菜たちをとりだす。

「…にしても…妙に静かだな…ちょっと外の様子を見に行ってくるよ」

「ワーメラも同伴します!」

野菜を一口かじって、ドアを開ける。

「…は?」

ドアを開けた向こうにあった光景は目に焼きついた。恐らくこれから一生見ないだろう。

俺を…優しく迎い入れてくれた村人たちが死んでいるのだ。

「…おい、おい!しっかりしろよ!」

「…主…。…こいつらノイズキャセラーっていう音を無くす魔法にかけられていたみたいです…」

異様な静けさの要因が分かったところで、この人たちをどうにかすることはできない。

「…ッ誰がこんな…ッ…?」

何も聞こえなすぎる…、自分の声すら聞こえない!?

何も聞こえない静寂の中、不意に後ろから抱きしめられる。

「私がやりやぁしたぁ〜。会いたかったですよぉん…ゆ・う・しゃ・さ・ま♡」

首を舐められた途端に寒気と激痛が体を走る。

「…あ…嗚呼っ…!!?」腹部に刃が突き刺さっている。

「…うーん?あれあれ?あれ?勇者様ヨワヨワ〜。引退したって聞いたけど…おめぇ、本当に勇者か?おい、勇者様か?って聞いてるんだよ。って喋れないよねぇ〜!!吐息や心臓の音すら聞こえないんだもん。私のノイキャンにぐぅの音も上げれないなんてだっさ〜」

挑発的な口調の女性。誰だ?誰だ…こいつ!?なんでいきなり刺して…。

「ワーメラの主にぃ…!!!」

体が再び大きくなり、成人した女性の姿へと変わっていく。

「ちょちょっ!アホ亜人が!止まれよ。これ見てわかんない?あんたの主、これ以上近づいたら死ぬよ?」

俺の足元には円状の線がいつの間にかできていた…。

「…ね?勇者様…?」

「…ッお前、何が目的だ?」

するとこの女は、少し嫌な顔をした後。笑いながら答えた。

「あはっ…復讐に決まってんだろ」

声のトーンが急にがくっと下がり、頭に血管が浮かび上がっている。明らかに怒っている…。

「!?」

「なんで知らねぇ見てぇーな顔してんだよムカつくなぁ…あんたらは、私たちの村を、破壊した事をお忘れですか?」ナイフが深々と刺さっていく。

「なぁ…何か言えよ…なぁ!」ナイフをもう一本取り出したところでワーメラは耐えられなかった。

「…ちょーウケる…ねぇ?ねぇ?バカなの?死ぬの?死ぬよね…?」恐ろしく早いスピードで何かが投擲される。

「あ…嗚呼…」喉をナイフが突き刺さり血が出てくる。

「ワーメラ!」

必死に叫ぶもその声は虚空へと消えていく。

「アヒャヒャ…お前の声はもう誰にも届かない!お前は一人だぁっ!」

「うゔぅ゙ん!!」尻尾が生えてきてムチのようにしなりながら正確的に後ろのナイフの女を叩き飛ばす。

「ひやぁっ!!?…うぅ…ざっけんなよ!なんで効いて…」

ワーメラは吐血し、その場に座り込んでしまう。

「…あはっ…そうそう…そういうので良いのよそういうので…無駄に暴れてんじゃね〜ぞ」

「…ファイヤーボール!」

手から炎が出るも、上手く球体にならず崩れてしまい、自分の手に炎が引火してしまう。

「う…うわぁぁぁ!!」

「…ざっっっっっこ…なんでその程度の魔法失敗しちゃってるのぉ〜?焦ってるのぉ〜?そりゃぁそうだろうよぉう…だってお前、パーティーメンバーに恵まれていただけでしょ?あの時は聖剣の力に見事敗北したけどぉ〜今はそーんな剣もなければつよつよなパーティーメンバーも、もういないからねぇ!!アヒャヒャ!ちょーウケる」

高笑いをしながらゆっくり歩み寄ってくる。

親しい人も殺された。魔法も失敗した。

俺の夢見た勇者ってのは…こんなにも…理不尽で…地獄の様な日々だったのか?

「なぁ!なぁ!お前さ…いつまで被害者面で居るつもりなんだよ」

「…何いってんだ…どう考えても被害者だろ…」

「…お前らは私たちの盗賊団を潰したんだよ?どう考えても加害者じゃ〜ん」

「…そうかお前…名前は?」

「…あ?名前すら記憶にないただのモブって言いたいの?ウケるんですけど…。私はデルタ盗賊団副長、ディストピア・ハートチャッカー。厄介な子を残したね…勇者様」

「…デルタ盗賊団…お前…神創人じゃないのか?」

「あ?妄言か?てめぇ…本当になめてんのか?私をあんたらみたいなカスと一緒にすんなし。私は可憐な人間で…今は復讐に、燃えているのよねぇぇ!キャーロマンチスト」ハートチャッカーはヘラヘラ笑いながら顎を蹴り上げる。

「…ハートチャッカー…頼むから…あの亜人の娘だけは見逃してくれ…俺の…奴隷だ。だが…不思議だ。今は少し愛着が湧いた。あいつは優しいからこそ、レトルトを信じ…俺を信じ続けている…俺が腰抜け勇者だとしても…あいつは俺を信じているから…」

「んー。…ん〜???それってぇ、それっぽいこと並べてますけどぉ…彼女のお前に対するヒーロー像を崩して欲しくないって言ってるのと同じよねぇ…あはっ…ちょーウケる。お前、最後まで自分勝手だな」

「…っ…」

「ね?ね?ね?どんな殺され方が良いかしら?一応私も悪魔じゃないから願いは叶えて上げよっかなって思ってるよ。私の想像を下回りすぎた勇者様に憐れみを感じたのよアヒャヒャ…。でもお前は許さねぇよ?ンフゥン…こんな殺し方とかどぉーかな?ん?」ナイフを口に入れられ、鉄の味が口内に広がる。舌が切れて血が流れ出てくる。

「焼死なんてどうでしょ?私の長も叔父も全員焼けうちにされたんですぅよ、貴方に…。あの忌々しい魔法使いに…燃やされて…デルタ盗賊団の洞穴はそれりゃあ地獄になってましたよ、酒樽に入れられ、いつ出れるか分からない苦しみと、仲間の悲鳴と周りの熱…静かになった時には涙が止まりゃせんでしたよぉ〜」

「…そんな事に…すまない…」

「…なんだてめぇ…。おい、なんなんだよっ…なんなんだよ!!…あんな非道な事をしたやつが勇者だの謳われて…私の家族とも呼べる者たちを、殺しても…勇者だのなんだの…お前らは命をなんだと思ってるんだ?どうせ、お前の中ではただの盗賊団を潰し、沢山の人を、助けたつもりなんだろう?お前らは!正義を語ったたらなんでもして良いのか!?何しても良いのかよ?勇者だから大義があるからで…私の…みんなを…何人も殺したさ…何万と宝を盗んださ…それが…私たちのだったから」

勇者は行動一つ一つに、命を賭けないといけない。常にだ。だから俺に、殺されたんだ。

俺の…ヒーロー像って…なんだ?

「…ゆ…勇者様?」

小さな男の子が家から出てきて。こちらを向いて言葉を失っているようだ。

「駄目だッ…来るな゙!!」

「ノイズキャセラー…。待っといてね勇者様。良いこと思いついたの」

必死に叫んだが音が消え、男の子にまでは声が届かなかった様だ。

嗚呼…なんで、なんでだろう。弱いだろお前。

モンスターだろお前。助ける義務すらねぇ、助ける理由すらない。俺はただ本格的な勇者ごっこをして勇者という男の人生に感化されただけだったのだ…。

とても幼稚だ。

誰を身を削って助けるなんて、わかりやすい自己犠牲が。俺の最初の正義感だ。

「…ッッッ!!」

ボロボロになった体で男の子の前に出て手を大きく開く。

「あ?邪魔ですよ〜勇者様」

頭を蹴り上げる。

「ん゙ん゙!!」

それでも体を大きく開き、男の子を守る。

「ちょっと〜。ちょーウケるんですけどー。ヨワヨワなくせにそういう所はカッコつけるんだぁ〜だっさぁー。さっさとどけよ」

何度も殴られ蹴られ、意識が朦朧とする中、バリアーもできない体に気づく。さっきのファイヤーボールといい…俺は…。

「…ッこれ以上関係ない人々を傷つけるのは辞めろっ…」

「…えぇ…嫌です。だって演者…つまり協力者みたいじゃァないですか。ここの人達って、私の復讐劇の演者みたいで、私がお前の心をへし折るためにはぁ…彼らもまた、必要なんですよ…だからわざと何人か残してるんです。ほらだって…お前…自分より他人が傷つけられる方が効きそうですので」ナイフの持ち手には穴があり、その穴に指を入れて楽しそうに回す。

「あら、あら、あら、まぁ、まぁ、あら、まぁ、あら…随分と苦渋の表情を見せてくれますねぇ。そうですそうです…!そういうお顔が見たかったのよぉ〜燃えるわー」

「…」睨みながらも男の子を守ろうと前を向く。

「…あ?なんなんでしょう?その表情にその態度。最後の最後に勇者見せてんじゃねぇぞ。ふふーん…見てみてぇ!これ」ハートチャッカーは紐とオイルライターを取り出し、オイルライターに火をつける。

「…なんだよ…それ…」

「ど・う・か・せ・ん♡と、これは知らなくても珍しくはないかも知れませんね…これはオイルライター。まだ魔法がそれほど発展してない頃、神創人の一人が開発したものらしいです。あの頃は魔王だのなんだの色々いた時代らしいですし…そんな遺物をどうして私が持っているのでしょうかね…なーんて…私がレトロやアンティークものが好きなだけですぅ…。さて…これはこれは…導火線に火がついたらそれはそれは大変な事になりますねぇ…!村には沢山のプラトニックリバームをセットさせてもらいました」

「…プラトニックリバーム」

俺が勇者を殺した時の…。結局…勇者と同じ末路を辿るのか…皮肉なものだな、こんな俺でも勇者と同じ死因か…もはや名誉すらあるな…。

いやただのモンスターにそれはおこがましいな…。

「男の子は〜私がキュートにしてあげるから、楽しみに!ま、その時にあんたが生きてるかどうか…」男の子にナイフを向け、男の子は言われるがまま、ハートチャッカーについていく。

「…ッ」

どうせ爆発されるなら!!

俺はその一心でワーメラに覆い被さった。

万が一、この子だけでも助かるなら俺の勝ちだ。俺は、勇者も殺したんだモンスターとしてよくやった。これは十分だった。



しかしこの考えは俺の考えではない。モンスターとしての目的より、俺は、俺の目標、夢が叶えられて居ないからだ。モンスターの道、人道ならぬ化物道としての正しさであって、僕としての正しさではない。合理的な考えしかしなかったんだ。今日くらい感情で動いても大丈夫さ。

こんな俺でも、身近な人への思いがあったようだ。

「アヒャヒャアヒャヒャ…無様無様…さて、ではご機嫌よう勇者様」

火が導火線につけられ、紐の道を小さな火が忙しなく走り抜けていく。

歯を、食いしばり、目を閉じて、どれくらいの時間が経ったのだろうか?爆発音もやみ、何も音が聞こえない。

暫くすると凄まじい物音が耳に入り込んでくる。

「ッッックハッ!!!はぁ…ふぅ…はぁ…ふぅ…はぁ…ふぅ…」急に息が上がり、体中に酸素が回っているようだ、冷えた体が徐々に熱くなってきて、血管が体中を回っているようだ。

どうやら息をしていなかったらしい。

「…うっ…ひっぐ…やったぁぁ!!蘇ったよぉぉ!!勇者様〜」

知らない女の子が泣きながら抱きしめてくる。シスター…動きやすい修道女の格好からしてヒーラー…っといったところだろうか?

「勇者様〜」

「…どなたか存知あげませんが…助かりました…ありがとうございます」

「へ?何言ってるんですか?勇者様…私ですよ私。マギドナ・マナ・マリーゴールド。マギですよ!マギ!」

「マギ…?」

目を覚ますとマギという女の子が膝枕をしてくれいている。ありがたい。しかし、彼女の肩を掴み、すぐさま起き上がってワーメラの安否を確認した。

「ワーメラ!うぁ…」刺された傷が神経を辿って脳に動くなと命令する。

「彼女も大丈夫です。私が来た時には彼女。勇者様を、守るように座り込んでました。それに…この村…勇者様…一体何があったんですか?」

「あ…嗚呼…。よかった…ワーメラ…」

ホッとしたように寝ているワーメラを抱きしめた。ワーメラは幼い童女の姿に戻っていた

「え?え?勇者様?その子とやっぱり知り合いなんですか?その子は…その…勇者様の…ガールフレンドとかじゃないですよね?付き合ってるとか…ないですよね?」目をぐるぐるさせながら慌てて聞いてくる。俺は、薄々勘づいた。

「…ヒーラー、マギドナ。…俺のパーティーメンバー…だよな?」

「はい!マギドナです!勇者様。色々話したいことは山々ですが…私も色々と事情があります。とりあえず…ネムラも待ってるし…休める場所に向かいましょう?」

ワーメラを背負って、マギドナについていき、燃えて何も残っていない村は風に煽られただただ浮かぶのは明るかった村の形と足元にある灰である。

街へ入ると、マギドナの服や顔が灰で汚れている。俺も、俺でボロボロな見た目だ。これじゃあまるで、壮絶な戦いをしてきたと思われてしまう。真実では一方的な蹂躙だ。

「…あの…勇者様?ゴーテルさんは…?どうしましたか?あの…私たちが抜けた後、あの洞窟では、何が起こっていたのですか?」

「ゴーテル…?すまんが…誰だ…?」

「…ねぇ…勇者様…ひょっとして…」

マズイ…バレたか!?…やはり俺みたいな敵コピー系は真の仲間の友情に儚く負けるか…っ!?

「記憶喪失?」

「…?」

「やっぱり…そうすると今までの謎合点し腑に落ちます、ネムラさんに会って、相談しましょう」

なんとなくだが、都合の良い解釈をされたような気がする。

彼女は少し強引に腕を引っ張り、待ち合わせとやらとのところへ案内してくれた。

「え…待ち合わせ場所って…ここ?」

「えぇ…ここです。ここで今日は寝泊まりですね」

連れてこられた場所は、何処か見覚えがあるというより、最近来た。

アルベラの店だ…。

「……嗚呼…あんたかい」

カウンターであいも変わらず、いらっしゃいとも言わないオーナー、アルベラはこちらの顔を見るとニヤニヤと笑い始める。

「クカカッ…滑稽だ」

アルベラはワインを拭きながら名簿をマギドナに渡す。

「…!!勇者様を滑稽って…アルベラさん!失礼です!ふんっ、だ。あっ、勇者様、二階です」

マギドナについていき、階段へ向かう。段を上る途中に後ろから「クカカッ」とあの特徴的な笑い声が聞こえるも、今はどうだっていい…。

俺のこれからの弁論によって、本物の勇者のパーティーに受け入れられるかが決まるのだから。

マギドナは部屋をゆっくりとノックする。

「入ってこい…」

の一言を確認した後、ゆっくりと。戸を開ける。

「…あちき…キレてるからね…」部屋の奥には魔導書を構え、殺気と魔力を体に纏った狂気的な魔法使いが部屋で待ち構えていた。

「おいおい…こんな歓迎会あるかよ…」

「そうですよ!ネムラさん!勇者様の生存が確認できたんですし、嬉しい再会じゃないですか」

「…ったく…心配させやがって…ん?その女の子は…?」

「…まずその前に…今起こってる現状について…報告させていただきますね…」

そうするとマギドナは自身の憶測を交えながら、今の現状を、話してくれた。どうやらマギドナは勇者を心から信用しているようだ。

「私たちがネムラさんが魔力切れした後、ゴーテルさんと勇者様は洞窟新たなのルートの開拓をしていたのですが…。私とネムラさんが戻った時には勇者様の姿は無いどころか、奥で爆発があったようで、道が瓦礫によって塞がれてました。その時、崩落の恐れもあった為、私とネムラさんはただただ勇者様とゴーテルさんの安否を祈るばかりでした。しかし、その後、勇者様とゴーテルさんは消息を絶ち。ネムラさんが爆発魔法で瓦礫を破壊しようと暴れたので止めるのが大変でした…」

「おい!そこは言わない約束だろ!!」

「しかし、」「おい」「やはり」「おい」「勇者様の…」「おい」マギドナの説明を折りながら入ってこようとするが…。

「『っせぇんだよ!!耳元でぴーちくぱーちく騒ぎやがってよぉ!!!!!』

とその時もこんなふうに言ったんですよね」

「あっ…はい…続きを…どうぞ」

ネムラと俺は、萎縮したまま正座する。どうやらこの中で一番怒らせてはならないのはマギドナの様だ。

「えっと…何処まで話しましたっけ…あ…そうそう。その後、集団捜索が王子の命によって動き。なぜか人里から離れた田舎の方へと移住しているって情報が入って、私は慌てて村へネムラさんは街の人や王子への対応に追われてました」

「王様…?」

「…本当に何も覚えていないのか…。私達は国から直々に認められる数少ない勇者パーティーの一つで、『王位の足下』に入っている。お前は特に信用されてたから消えただけでかなり騒がれた」

「ネムラさんが勇者様が消えて一番落ち着きがなかったですけどね」

「うるしゃい…大体なんだよ…記憶喪失って…あちきたちのあの楽しかった冒険を…忘れたのかよッ!!忘れただけで許せねぇよ!!」

「…すまない…」

「まぁ…まぁ…気持ちは分かりますから…ネムラさん、落ち着いて。良いですか?明日、私達は城へ向かい。王様たちにご挨拶とお騒がせしたお詫びをお渡しにいきます。…。ところで勇者様…その子は…」

「…ワーメラ。俺がいた村にいた子だ。短い間だが、互いに互いを信用しきっているパーティーメンバーだ」

「その子もパーティーメンバーなんですか…にしても…よく眠りますね…」

「ワーメラ…荒削りでかなりマナや魔力を失っているってところか今は、魔力、マナアネミー状態になっているようだが…急激な魔力やマナの消費に体が追いつけていないだけだ。暫く寝たら回復して元にもどるよ」

「貴方がよくなりますからねマナアネミー」

「そういえば…勇者様、何故村があんな目に…」

「…ハートチャッカー。デルタ盗賊団の残党が復讐に来たんだ」

「!!ハートチャッカー…!?って…誰でしょう…」

「?ほらあれだよ、副長の…」

「あちき達奴らの組織図とか知らずに焼き討ちしたからな…知ってたの総長ぐらいだし…」

「成程、これも明日報告ですね」

色々会ったが、ようやく物事が落ちついた気がする。さて、明日も早いらしいし、寝るとしよう…。

コンコンコンッとリズミカルに木製のドアが叩かれた。誰かが訪ねてきたようだ。

「はーい…あ、オーナーさん」

「…あいよ、ちょっといいかい?」

「…はい…どうなされましたか?」

「いや何、あいつに用があってね」

アルベラはゆっくりとこちらを見つめた後小さく手招きした。

「アルベラ…」

「少し話そうぜぇい…勇者様」

「…すまない。マギドナ、ネムラ、少し席を外す」

「…待て、あちきも混ぜてくれ」

外へ出ようとする勇者の腕を掴んでアルベラを睨みつける。

「ネムラさん?」

「…あんたも来るのかよ、木偶の坊」

「チッ…」

ネムラの舌打ちと同時に扉が閉まり。ワーメラとマギドナは取り残されてしまう。

「あ!ちょっと!私も!あはっ…無理か…」

腕の袖を寝ているワーメラに掴まれる。

「…ふへへっ」


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