決別の理由

「………………」


死体安置所


文字通り死体が置かれている場所


そこへ麗は訪れていた


かつての恩師だった橘


その死を弔いに来た訳ではない


何故なら麗の手には天泣が握られていた


そしてその鋒は橘体を貫いていたからだ


天泣には所有者の傷を癒す力を持っているが既に死んだ者には当然効果は無い


麗もその事を分かっていた


『終わった…が…いいのか?』


「何が?」


『…答えたくねぇなら答えなくていい』


「……………」


敵であれ味方であれ


今回の事件で命を落とした者は多い


ここに置かれている数がそれを物語っている


「おやおや…この様な場所で一体何を?」


「…別に,誰が死んだのかを確認してただけよ」


「ふむ?それは一体何故?」


「死体で誘き寄せる事も出来るんじゃないかと思ったけれど駄目ね,損傷が大きすぎる」


「私の部下は長年そういう事をやって来たもので,しかし下っ端はともかく橘までも口を割らないとなると情報を聞き出す事は不可能と判断していいでしょう」


「そうね,それにこんな事は…」


「ご心配なく,我々は正義の名の下に如何なる行為も許されています,当然の事ですから」


「…そっ」


いくら治安が悪くなったとは言え日本は法治国家だ


当然この様な残忍な行為は許されるべき事ではない


しかしそれすらも揉み消せるとなると上の人間の地位はそれだけ高い


情報統制の件もそうだ


僅か一週間足らず


国民は既にテロリストである彼女達を共通の敵として認識していたからだ


「今回は私一人で行動する,構わないかしら?」


「ふむ…そうですね…部下をわざわざ随伴させるのも不要だとは思いますが…あぁ良い事を思い付きました,こちらへ」


地下駐車場


かつてはこの場所には八咫烏隊員が使用していた車輌等で溢れていたが今はもぬけの殻だ


人気もなく,まるで東雲が人の目を気にしている様な様子だった


「呪符という物を使った事はありますか?」


「私が?ある訳がない,呪力を使う存在が八咫烏にいたとでも?」


「力は力,ただその種類が変わるだけで本質的なものは何も変わらない,使う使わないは個人の匙加減で私は力を行使する理由があるなら使うべきという自論がありまして」


「御託は結構,何が言いたいの?」


「こういう事ですよ」


東雲が取り出した一枚の呪符


指先に霊力を込めると徐々にそれは黒い靄となって姿を変えていく


淀んだ空気が辺り一面を覆い,心なしか呼吸をするのも重く感じさせた


そして足元からは一体…また一体と見慣れた怪異が姿を現した


「…禍人…ッ!」


「あぁ手は出さなくて結構,この禍人達には自我がありません」


「自我がない…?」


「彼等は私の傀儡,術者の命令通りに何でもこなします,可愛いものでしょう?」


「…悪趣味ね,霊力を歪めていたのもそうだけど怪異を利用するなんて…」


「議論するつもりはありません,これが私のやり方ですので,部下の随伴はさせなくても良いですが条件はこの呪符を使う事です」


「私が…?」


「今更何を戸惑う事が?」


「…別に構わないわ,所詮使い捨て…そうでしょ?」


「理解が早い,有効的に使ってあげてくださいね?」


手渡された呪符には見た事もない文字で何かが書かれていた


だが手にした瞬間に理解する


この呪符は無機物じゃない


生きていた


「…貴方人間?」


「私は人間ですよ,ただ少しばかり霊力がある事,昔は民間の対魔師として仕事をしていた時期もありましたがね」


「なるほど…それで?こんなものを作り出すなんてよほど正気を疑うのだけれど?」


「ふむ…どうやら触れてみて気がついた様ですね,確かにその呪符には過去に私が封じ込めた禍人が残留しています」


「…民間での決まりは封じた怪異は除霊する事が決まりだった筈だけれど?」


「おかしいとは思わないですか?封じ込めた禍人,それを使役する事が出来れば敵同士で潰し合わせる事が出来るのです,最もこの術は私のオリジナルですが自ら手を下すよりも遥かに効率が良い」


「……………」


禍人を使役する怪異は過去に麗自身も目撃した事があった


それが当然の事だと思っていたのだが怪異ではなく人間がそれを行う


そうなってくるとまた話は変わってくるのだ


本来禍人という存在は人間の思念や怨霊が霊力の影響を受けて実体化したもの


言い換えれば元は人間そのものだ


悪しき心が怪異に利用されて従っている


だが人間までもがそれを行うのは間違いだ


そして麗の中で何かが引っ掛かる


だがその引っ掛かっているものが何なのかが分からなかった


「ご安心を,その呪符には術者を絶対に襲わない様に細工がしてありますので」


深夜零時を過ぎる


今となっては静まり返った街には何も疑問を抱かない


闇が支配するこの時間は彼女達の時間帯


わざわざ命を捨てたがる人間はいない


「まさか私がこいつらと行動を共にするとはね…」


禍人を従えて麗は街を闊歩する


その姿は最早人間とは呼べない


怪異だと言われても言い返せないだろう


「…………」


「…………」


術者の思いのままに動く


禍人はただ麗の後をついて歩くだけで意思が感じられなかった


「この場所ね」


ビル街の一角に不自然に現れる神社


その存在を普通の人間は認識出来ない


それは低級の怪異も同様だ


この場所は八咫烏が作り出した緊急時に身を隠せる場所


セーフハウスと呼ばれる場所だった


「使用された形跡はある…けれどこの場所に留まってる訳ではないわね」


痕跡はあるが隊員の姿は見当たらない


また意図的に霊力の残りも消されている


これでは誰がこの場所にいたのかも識別が出来ない


「…………」


禍人はこの場所へは入れない


何もない空間の前でただ立っている


境界線を超えては来れないからだ


「…念の為に…ね」


御札を剥がして破り捨てる


一般人には視覚こそされないもののこれで怪異は侵入する事が出来る


とは言ったものの元々強力な怪異には気休め程度にしかならないが…


境界線を超えて禍人が侵入する


だが先ほどまでと違いただ麗の後をついてくるだけではなかった


不規則に動き,立ち止まり,また動き始める


「………?」


その動きはまるで何か意思を持っている様にも見えた


何かを探している?


それともただ何も考えもなく動いているだけなのか


しかし麗にはその行動が何も意味の無い行動に思えなかった


「…あなた達は傀儡…好き勝手に使われるよりはこうした方が…」


刀を引き抜き,振り下ろす


実体は雲散して後には何も残らない


そして残った一体


刀を振り下ろそうとしたその時だった


「……ァ………イ………」


「え………」


言葉


それは確かに聞こえた


「…オネ………タイ…………」


「何……?」


「ネエ……チャ………」


聞き間違いではない


人間の言葉だ


禍人が人間の言葉を話すなど前例がない


その事に麗は戸惑っていた


「ドコ………オネエチャン………」


「あなたは………」


その言動から子供の様な印象を受ける


まるで姉を探している弟だ


それならば先程の不規則な動きも姉を探している様に思える


…意思がある


この禍人には間違いなく意思があるのだ


「……………」


刀が振り下ろせない


今までの禍人とは違う


人間の言葉を介し


人間の様に意思を持っている


姿形が変わっても…人間だ


麗は今まで人間を殺した事が無いわけじゃない


しかしそれは悪としてだ


だが今目の前にいる禍人にはそれがない


別れてしまった姉を探し,会いたいと願っている子供


そんな禍人を殺す事が出来なかった


「ドコ……イルノ………シッテル……?」


「…会話が出来るの…?」


禍人は頷く


怪異であっても全てが悪ではない


だがこれまで人間の言葉を介する怪異は強力な怪異


それ故にカテゴリーには特が付けられ要注意対象としていた


カテゴリーC


禍人がそれに該当するなど無かった


考えた事もなかった


今まで意思を持たずに人間を襲うだけしかなかった


それなのに今こうして目の前にいる禍人は会話が出来ている


これは特に該当している特徴だ


…いや,今までもそうだったのかもしれない


もしかしたら禍人という存在は人間の言葉を介し,対話が可能な怪異であったとするのなら?


「…あなたの姉の名前は…なんて言うのかしら?」


「オネエチャン…ナマエ………」


麗は手を差し伸べる


敵としてではなく理解者として


怪異との共存


それはかつて八咫烏であった麗の目指していた世界


夢だった


こうして禍人とも対話が出来るという事が確かな事であれば状況も変わる


そう思っていた


だが…


「ア…………」


「ツッ!?」


一発の銃声


放たれた弾丸は禍人の頭を吹き飛ばし,実体を失っていく


そして銃を撃ったのは…


「おや麗さん,どうやら捜索場所が被ってしまった様ですね」


「東雲……」


「少し様子がおかしい様だったので始末しましたが…何が?」


「…禍人が…言葉を話してたと言ったら?」


「ふむ…その様な事は聞き覚えがありませんね,私とて元民間対魔師,少なくとも知る限りではその様な事は絶対にあり得ない,あるとすればこの場所の霊力に影響を受けたか…問題は麗さん自身にあるかと」


「…私自身に?」


「いくらこちら側になったとは言え元を辿れば敵はかつての味方,そのストレスは計り知れないでしょう?少し休息をしてはいかがですか?」


「……そうさせてもらう」


あの言葉を介する禍人はなんだったのか


ただの幻聴だったのか


確かにここ最近の麗は心身共に疲弊しきっていた


それならば本来あり得ない現象を見る可能性もゼロではない


そう…あれはきっと幻か何かだと麗は自分に言い聞かせた


もしくはそうせざるを得なかったのかも知れない


それはもう一つの違和感を考える余裕を与えない為だったのかも知れないがそれすらも気が付けなかった


本部へと戻った麗は休息を取る


いくら鍛えたとは言え人間


それに本来は高校に通う女子高生なのだ


一度休んでからでも遅くはない


そう思い麗は眠りについた


「…………………」


何も無い空間


そこをあてもなくふわふわと漂っている


行こうと思えばどこにだって行ける


けれど行くべき場所が思い浮かばない


だからここには何も無かったのだ


ふと目を開けると遠くにいくつかの光が見えた


まずは一度その場所へと向かってみる


近付くにつれてこの何も無い空間に温かみが溢れて来た


心地良い温もり


『なぁ麗,お前いつか俺と一騎討ちしてみないか?』


『私が麻白先輩とですか…?』


『あぁ,興味ないか?』


『興味がない訳じゃないですけど私達仲間ですよ?それにそんな事して怪我なんてしたら隊長に怒られますよ』


『そりゃそうだけどバレねぇ様によ』


『駄目です,恐らく今後もそう言うことは無いと思いますよ?私はこの場所が好きですから』


『まぁそれもそうか』


「……………」


懐かしい光景だった


喫煙所で煙草を吸いながら交える何気ない会話


あの時一騎討ちを持ちかけられた時


半ば冗談だろうと笑いながら断った


あのまま…今も同じ関係だったらあの様になる事はなかった


『裏切り者が…』


「……………」


一つ


光が消えていく


後に残るのは闇と突き刺す様な寒さだけ


この場所にはいたくない


そう思い麗は次の光へと進む


『そういえばあそこのさー,新しいお店のー』


『評判が結構良いみたいで私達も行こうと思うんです,麗さんも行きます?』


『そうね,今日は特に何も用事がないから行こうかしら』


『んじゃ男気じゃんけんで勝った人の奢りー!』


『私達女なんだけど』


『別にいいじゃんー?』


「………………」


いつもと変わらない日常


人生においてある意味では最も重要な時期である学生生活


放課後ともなれば時間が許す限り友人達と一緒にいられた


この時ばかりは八咫烏である事を忘れてただの学生として楽しめていた


『ねぇ…最近麗さんって…』


『いないねー…どこ行っちゃったんだろ…』


『それに今テロリストが都内にいるし…もしかして何かあったんじゃ…』


『もしかしてそのテロリストだったり?』


『そんな訳…ないと思うけど…』


今となってはあの日々が麗には遠く感じた


あの一件があってから学園には戻れていない


それどころかいつまでこの様な状況が続くのか


終わったとして学園に戻れるのか


戻ったとして元の生活になるのか…


その保証はどこにもなかった


「……………」


つい先日の事がまるで遠い昔の様に思えてしまう


全て解決すればまたあの日常が帰ってくる


それは希望的な考えだった


しかし現実は非情だった


麗にはこの戦いの終わりがまるで見えていなかった


今自分のしている事が本当に正しいのか…間違っていたのか


間違っているから先が見えずにこの闇の中をただ歩いているのではないのか


疑心


不安


絶望


希望を抱いていてもそれが強い程…


光が強いだけ闇もまた強くなっていく


「麗さん…」


目の前に立っていたのは見慣れた姿


「アイリ…隊長…」


だが見慣れない表情をしたアイリの姿だった


「どうして…私達を…仲間を裏切ったんですか…」


「私は……」


言葉に詰まる


話すべき事はたくさんあるはずだった


それなのに…言葉が出てこない


「…信じていた私が馬鹿でした…そうですよね…麗さん」


「違っ…私は…!」


「黙れ」


「………!!!」


目の前に立っていたのはアイリだけではなかった


かつて命を共にした八咫烏


そのかつての仲間の姿もあった


しかしその手には銃が握られ,銃口は全て麗へと向けられている


「嫌……こんなの……やめて……私は本当は…」


「……………」


「……………」


「……………」


返ってくる言葉はない


「アイリ隊長…お願いです…信じてください……」


「……………」


瞳はこちらを見つめていた


冷静に…冷酷なまでに


敵へと向けられて


「撃て」


「ツッ!!!!!」


痛みが全身を襲う


貫かれた部分からは血が噴き出す


死の瞬間は周りがスローモーションに見えるらしい


現に麗もそれを体感していた


限りなくゆっくりと動く時間の中で苦痛は続く


撃たれた痛みだけではない


かつて仲間だった


かつて信じていた仲間


その仲間に裏切られた


裏切られた側のその心が


苦しい程に自分に重なる


一発一発の弾丸の痛みよりも


地面に倒れるまで瞳に写り続ける仲間だった者達の姿の方が苦痛だった


心を砕くのには十分過ぎるほどに


「はぁっ…!はぁっ……はぁっ…………」


麗は目を覚ます


そこは仮眠室だった


疲れを癒す為に眠りについた麗だったがそれを阻んだのは悪夢だった


まるで逃げ場所はない,既に手遅れだと嫌でも突きつけられていた


「……………………」


追い詰められている


いくら自分の行いが正しいと信じても


心のどこかで後悔がある


…もしもあの時


松葉と共にアイリと合流していたらと


「橘…教官……」


あの時


橘が戦闘顧問である事を伝えたのは他でもない麗自身だった


その為立場が上である事を知った東雲は情報を吐かせる為に拷問にかけ…殺した


麗が殺したと言っても無理はない


その事が重く麗にのし掛かる


「おや…もう休息はいいのですか?」


「…動いていた方が気楽よ」


「そうですか…それでどちらへ?」


「…探すのよ,八咫烏を…」


「ふむ…麗さんが言っていた言葉を介する禍人…と言うのもこちらが気がかりですので呪符は調整中です,部下を随伴させましょうか?」


「いいわ…一人の方が…」


「…良いでしょう」


麗は単独で捜索する


今はただ一人でいたかった


何も考えず


ただ一人に…


そうすれば少しは気持ちの整理もなるだろうと思っての事だった


「……私です,そろそろ頃合いかと思いまして…では手筈通りに…」



















































































































雨の降り注ぐ都内


長く続くこの雨は今の麗にとっては自分の心の内の様だと感じる


晴れる事のないこの心の枷は今の麗には重過ぎる


「…………」


雨の雫が冷たく体に突き刺さる


肌を落ちる雫はまるで涙の様だった


いっそ今の麗にとって涙が流せればどれだけ良かったか


死を悲しむだけで消化してはならない


悲しむという行為だけで消化出来るほど人の死というのは軽くはない


悲しむのは一瞬だ


その死を背負い


死んだ者の心を継いで生きていく


それが残された者の使命であり,宿命


例えそれが自分が殺した相手であっても


「私……何をして………」


行く場所などなかった


それだと言うのに気が付けば辿り着いてしまった


「……………」


この場所は麗にとって思い出深い場所だった


それはかつての自分


まだ八咫烏ではなく…黒雨会の者として怪異と戦っていた時


誰とも手を組まずに自分一人の力で怪異を殺してきた


あの頃の麗はただ復讐の為に刀を振るっていた


人々が怪異の脅威から助かっていたのはその結果に過ぎなかった


それでも尚人々を守る為だと虚勢を張っていただけた


本当はただ自分の母を殺した怪異を探す為


そして自らの手で殺す為にしていただけに過ぎない


『私達は歪み合うのではなく共に力を合わせるべきです,私達と貴女の力,そうすれば今よりも守れる命が増えるはずです…!』


あの時


復讐の為だけに力を使ってきた麗を変えたのはアイリのあの言葉だった


そう…


この場所は麗が変わった場所


八咫烏となった場所だった


「今更…私は……」


どうしてここに来たのか


いや…分かっていた


誰よりも…麗自身が…


いくら正しいと言い聞かせても


いくら敵だと思い込んでも


いくら…かつての仲間に刃を向けようとも


「…麗さん」


「え………」


夢ではない


幻覚でもない


間違いなく現実だ


麗の目の前にいたのは神山アイリだった


「たい…ちょう……」


「…お久しぶりです麗さん,麻白さんから話は聞きました」


「……………」


麻白から話を聞いた


それが意味する事は単純だ


麗が八咫烏を裏切って…敵になった事


…その筈だった


「本当は…私達の為だったんですね」


「けど私は……」


「迷っていた…その気持ちは分かります…そして何が起こったのかも…」


「でも私は…何も出来なかった……」


「…いいえ,麗さんのおかげで私達には時間が出来て準備を整えられました,麗さんが捜索の指揮を取ってくれたからこそです,私には伝わっていましたよ,捜索範囲を限定し集中させる事によって不自然に発生する怪異,時間帯,それらを考えれば私達は安全に動く事が出来ました」


「…こんな方法しか私には出来ませんから…」


「自分を責めないでください,もう大丈夫です,また一緒に…」


「そこまでです神山アイリ,ご協力感謝します麗さん」


「なっ……!?何故この場所が…!?」


「飼い犬には首輪を付けておく,常識ですよ霧雨 麗」


「……!!そうか…だから留置所の時も安置所の時も…禍人を殺した時だって…!」


「くふふ…気がつくのが遅いんだよなぁ…これだからガキってのは使いやすい,駒として便利だったよバケモノがよ」


「こいつ…ッ!!」


「囲まれた…!?」


居場所はバレていた


既に複数の部隊に囲まれている


「…………」


麗は刀を引き抜く


その目にはかつての決意を秘めて


「麗さん…」


「逃げてください隊長,後の事は任せましたよ」


「一人では無茶です麗さん!ここは一度退いてから…」


「大丈夫です,私には雨があります,それに…」


「それに…?」


「今ここで隊長が死んだら今までの全てが無駄になります,隊長だけは生き延びてください」


「麗さん…」


「…また会いましょう,アイリ隊長」


「…ごめんなさい,必ずまた会いましょう…!」


「逃すな,撃て」


銃撃が始まる


狙いは正確にアイリと麗へと向けられて銃弾が放たれた


「雨の雫よ,私に従えッ!!」


放たれた弾丸は数百発


だがそれよりも降り注ぐ雨の雫の方が遥かに多い


銃弾はほんの少しの衝撃でも大きく軌道を逸れる


速ければ速いほど軌道を逸らすのは容易い


「ちっ…この数から逃げられると…」


「思うわね,悪いけれど少し付き合ってもらうわよ」


「これだからガキは嫌いなんだよなぁ…霧雨 麗ぃ…ッッ!!!」


「化けの皮が剥がれたわね東雲」


「バケモノ如きが俺の名前を気安く呼ぶなぁぁぁあっ!!!」


「バケモノ?違うわ…私は八咫烏よッ!!!!」


数刻が経った時


長く降り注いだ雨は止み,雲の隙間からは月明かりが照らされる


再び夜は静寂を取り戻す


あれだけ激しかった戦闘も終わりを告げる


何も残らず


戦いの跡すらも見当たらない程にいつも通りに戻っていた


「そんな…どうして……」


アイリは思わず声をあげた


麗があの時アイリの事を庇い逃がしてくれたからこそ


アイリは再び仲間達と合流を果たす事が出来た


レジスタンスとして八咫烏である彼女達は準備を整えていた


逆転の一手を


警察無線からも敵の行動を把握し,より行動を確実とする為に動いていた


しかし













































































































その傍受された無線から聞こえてきた情報は


















































































































































最悪のものだった



































































































































































霧雨 麗








































































































































































































死亡

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