パート33: 大陸の思惑と第三勢力(宗教国家との接触)

レガリア帝国軍の追撃は、凄まじかった。

新型魔導兵器、帝国の実力者たち。彼らは本気で俺を捕らえ、『天空の鏡』を奪おうとしていた。

だが、俺も負けていない。『天空の鏡』で得た新たな力、強化された空間操作と、遠距離干渉能力を駆使して、追撃を振り切った。

空間を歪ませて攻撃を逸らし、遠くから魔導兵器の機能を停止させ、実力者の思考を僅かに乱す。

それでも、帝国の組織力と物量には辟易した。


数日後、俺たちは帝国領から脱出し、クライフェルト王国の国境に近い、比較的安全な街まで撤退することができた。

リリアーナ、ミュウ、シルヴィアも、疲労困憊ではあったが、無事だ。


「はぁ…疲れた…」


俺は安堵のため息をついた。

シルヴィアが、脱出中に集めた情報を分析し、報告してくれた。


「…帝国軍追撃部隊、規模、約五万。指揮官、帝国三将軍の一人。魔導兵器、新型多数投入」

「…実力者、多数確認。特筆すべきは『魔導騎士』と呼ばれる者たち。魔導鎧と魔法を併用」

「…追撃部隊の中に、教団関係者、確認。高位聖職者と、神殿騎士団精鋭。遺物確保が目的と推測」


(五万規模の追撃に、将軍クラス、魔導騎士…そして教団まで絡んでたのかよ)


俺は改めて、面倒事の規模を認識した。

『天空の鏡』は、想像以上に価値があるものらしい。


安全な場所で疲労を回復した後、俺は王都のエリック老人に連絡した。

『天空の鏡』を手に入れたこと、力が変化したこと、帝国軍との衝突、そして教団の関与を報告する。


「おお! 『天空の鏡』を入手なされたか! そして力が…! なんという共鳴! 我が探求は、着実に進んでおる!」


エリック老人は、俺の報告を聞いて興奮している。


「あの遺物は、『神々への扉』…異世界への鍵とも言われておる。教団が狙うのも無理はない」


エリック老人は、遺物と宗教組織、そして異世界との関連性を匂わせた。


「教団は、『光の神』への到達、あるいは『異世界』への探求を目的としておる。あの遺物は、彼らにとって不可欠なものなのじゃ」


(異世界か…ゲームにもあったな、魔界とか天界とか)


エリック老人の話を聞いていると、ゲームのシナリオと、現実の世界が、どんどんシンクロしていくのを感じる。


エリック老人との通信を終えた後。

俺たちの滞在している街に、一団が現れた。

白いローブを纏い、厳かな雰囲気を纏った集団。

彼らの先頭には、以前王都で会った枢機卿よりも、さらに高位らしい、威厳のある老聖職者と、全身白銀の鎧に身を包んだ、強大な気配を持つ神殿騎士団長がいた。


彼らは、俺たちの前に来ると、恭しく頭を下げた。


「救国の英雄アルト公爵様。お目にかかれて光栄にございます。我が『光の神』教団より参りました」


老聖職者が、穏やかな声で言った。

しかし、その目は、俺と、俺が持つであろう『天空の鏡』に向けられているのが分かった。


「単刀直入に申し上げます。公爵様が手に入れられたという、古代文明の遺物『天空の鏡』を、我が教団にお譲りいただきたいのです」


遺物引き渡しの要求だ。

やはり来たか。


「なぜ、俺がそんなことしなきゃならないんだ?」


俺は面倒くさそうに答えた。


「あの遺物は、神聖なる力。異端の手に渡ってはなりません。我々教団こそが、正しく管理し、神の御心に沿う形で使用すべきなのです」


神殿騎士団長が、厳しい口調で言った。

その背後には、精鋭と思われる神殿騎士団の面々が控えている。


(神聖なる力? 異端? 神? 異世界? 面倒くせえな、こいつら)


俺は彼らの要求を、きっぱりと拒否した。


「悪いな、渡すわけにいかないんだ。俺にも、この遺物を手に入れた理由があるんで」


俺の言葉に、老聖職者の顔から穏やかな表情が消えた。

神殿騎士団長の目が、鋭くなる。


「…残念です。公爵様。貴方様の力は、確かに素晴らしい。神の御加護かと思いましたが…我々の要求を拒否されるということは…やはり異端か」


老聖職者は、アルトの力を「異端」と断定した。


「異端であるならば、排除するのみ」


神殿騎士団長が、腰の聖剣に手をかけた。


(あーあ、やっぱり面倒な方になったか)


これで、レガリア帝国に加えて、『光の神』教団とも対立することになった。

クライフェルト王国、レガリア帝国、そして『光の神』教団。

この大陸の主要な三大勢力全てが、俺という存在と、俺が持つ古代文明の遺物を巡って動き出した。


俺は、この大陸レベルの覇権争いの、文字通りの中心に立たされたのだ。

面倒なことこの上ないが、やるしかない。


俺と、俺の三人のヒロインたちの、大陸を揺るがす戦いが、今、本格的に始まろうとしていた。

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