パート32: 帝国の追撃と脱出

遺物『天空の鏡』を手に入れた瞬間、遺跡が崩壊を始めた。

天井から巨大な岩が落ちてくる。床が裂け、壁が崩れる。

凄まじい轟音と共に、古代遺跡がその終焉を迎えている。


「まずい! 早くここから出るぞ!」


俺はリリアーナ、ミュウ、シルヴィアの手を掴んだ。

新たな力、『天空の鏡』によって強化された空間操作の能力を使う。

崩れる岩を空間ごとずらしたり、落下速度を操作して回避したり。

通路が塞がれそうになっても、空間を歪めて無理やり道を作り出す。


「アルト様、すごいですわ! こんな状況で…!」


リリアーナが、俺の手腕を見て驚く。


「ご主人様、おうちこわれるのやだぁ!」


ミュウは泣きそうになりながら、俺に掴まっている。


「…崩壊速度、予測以上。脱出を優先」


シルヴィアは冷静に状況を分析し、俺を促す。


古代遺跡の仕掛けや罠も、崩壊と共に無作為に作動するが、俺の新たな力で簡単に無効化できる。

遺跡の入り口が見えてきた。外の冷たい空気が流れ込んでくる。


遺跡から脱出した、その瞬間。


待ち構えていたのは、レガリア帝国軍だった。

数千、いや、数万規模だろうか。

雪原を埋め尽くすほどの大軍勢が、遺跡の周囲を完全に包囲していた。

兵士たちの鎧は統一され、規律正しい。

前列には、前回遭遇したものを遥かに凌駕する、巨大で洗練されたデザインの新型魔導兵器がずらりと並んでいる。

部隊の中央には、鎧に身を包んだ、強大な気配を放つ実力者たちが複数いるのが見えた。


「発見! クライフェルトの化け物だ! 遺物を持っている! 包囲せよ!」


帝国軍の指揮官らしき人物が叫ぶ。


(うわ…本気出しすぎだろ、帝国)


俺はげんなりした。

これまでの比じゃない。レガリア帝国の、文字通りの本隊だ。

そして、その中には、宗教組織『光の神』教団の関係者らしき、白いローブを纏った一団もいるのが見えた。彼らも遺物を狙ってきていたのか。


帝国軍の指揮官が、こちらに呼びかける。


「クライフェルトのアルト! 遺物『天空の鏡』を引き渡せ! さもなくば、貴様らの命はないぞ!」


「…面倒くせえな。渡すわけないだろ」


俺は適当に答えた。

交渉する気はない。


「ならば…容赦はせん! 全員攻撃開始!」


帝国軍が一斉に攻撃を開始した。

新型魔導兵器から放たれる、空を覆い尽くすほどのエネルギー弾の嵐。

帝国兵たちが、組織的な連携で波のように押し寄せてくる。

実力者たちが、俺たち目掛けて突撃してくる。


(さあて…新しい力を試すか)


俺は、新たに得た『天空の鏡』の能力を使った。

空間操作の強化。

周囲一帯の空間を、俺の支配下に置くイメージ。


ズズズズズ…


俺たちの周囲の空間が、僅かに歪む。

帝国軍から放たれた無数のエネルギー弾が、歪んだ空間に吸い込まれるように消滅していく。

押し寄せてくる帝国兵たちも、空間の歪みに動きを阻害され、足止めされる。


「な…なんだと!? 我らの攻撃が…消えた!?」

「空間が…歪んでいる!? これが奴の新たな力か!?」


帝国兵たちが混乱する。

実力者たちが、俺の空間操作能力を突破しようと強力な攻撃を仕掛けてくる。

俺は、古代魔法でそれらを捌きつつ、『天空の鏡』の別の能力…遠距離探知と、それに付随する遠距離への干渉能力を使う。


遠く離れた場所にいる、大型魔導兵器の操作兵に狙いを定める。

そして、「魔導兵器の『動力源』という概念を、『機能停止』に書き換える」。


スッ…


帝国軍の最重要戦力である新型魔導兵器が、次々と沈黙していく。

魔力を失い、ただの鉄塊と化した。


「動力源が…! なぜだ!?」「魔導兵器が動かない!?」


帝国軍の混乱は、さらに深まった。

俺は、その混乱を突き、空間操作で突破口を開く。


「行くぞ!」


俺はヒロインたちの手を掴み、空間の歪みを駆け抜けた。

帝国軍の包囲網を突破する。

帝国軍の実力者たちが追撃してくるが、空間操作や、新たな精神干渉能力(幻覚を見せる、動きを鈍らせるなど)を使って、彼らを足止めする。


「あの化け物…! 逃がすな!」「遺物を渡せ!」

「教団の目標…遺物…排除か、確保か…!」


帝国軍の叫び声、宗教組織の関係者の声が、遠ざかっていく。


俺たちは、雪深い山脈を、南へ、クライフェルト王国へと向かって逃走した。

後ろからは、レガリア帝国軍の、大規模な追撃の気配を感じる。


遺物『天空の鏡』の入手は、レガリア帝国との本格的な武力衝突の引き金となった。

大陸の覇権を巡る争いは、もはや避けられない。

そして、その中心には、俺と、俺が手に入れた古代文明の遺物がある。


面倒なことこの上ないが、やるしかない。

俺と、三人のヒロインたちの、波乱に満ちた旅は、まだ続く。

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