パート20: 国境線の攻防(戦争序曲)

国境付近の軍事都市ティルガルドに駐屯して数週間。

隣国、レガリア帝国との小競り合いは、日に日に増えていった。

帝国の兵士が国境線を越えて村を襲撃したり、偵察部隊が大規模な数を送ってきたりと、挑発行為がエスカレートしている。


「また、帝国が…!」


王国兵士たちの間に、疲弊と怒りが渦巻いている。

彼らは必死に応戦しているが、帝国の組織的な戦術や、強力な魔導兵器を前に、苦戦を強いられていた。

毎日のように死傷者が出る。街には不安な空気が漂っていた。


俺は、ヒロインたちと共に駐屯地の司令部で、指揮官からの報告を聞いていた。


「…以上が現状であります。このままでは、本格的な侵攻は時間の問題かと。我が軍では…」


指揮官は、悔しそうに言葉を詰まらせた。

彼の顔には、無力感がありありと浮かんでいる。


(まあ、知ってたけどさ。王国の戦力じゃ、帝国には勝てないよな)


そんな中、王都から正式な命令が届いた。

国王陛下から、俺に迎撃部隊の指揮を執れ、という命令だ。


(うわああ、マジかよ! 部隊の指揮!? 一番面倒なやつじゃん!)


俺は頭を抱えたくなった。

兵士たちに指示を出したり、作戦を立てたり? そんな柄じゃないし、やりたくもない。


「あー、指揮とか無理なんですけど。誰か他の人に…」


「な、何を仰いますか! 公爵様以外に、この状況を打破できる御方はおりません!」


指揮官が必死に訴える。

確かに、俺以外にこのレガリア帝国の猛攻を止められる奴はいないだろう。

面倒だが、やらないと王国がヤバい。


「…分かったよ。指揮は形式上だけな。実際には、俺が全部片付けるから。お前らは俺についてきて、俺の邪魔をしないようにしてろ」


俺は条件付きで指揮を引き受けた。

指揮官は俺の滅茶苦茶な指示に困惑しつつも、承諾してくれた。


迎撃部隊が編成された。

と言っても、疲れ切った王国兵が数百人。

その先頭に立つのは、俺と、俺にぴったりとついてくる三人のヒロインたちだ。

王国兵たちは、俺たちを見て、期待と不安が入り混じった複雑な表情をしていた。

「英雄アルト公爵が、俺たちと共に戦ってくださる…!」「でも、本当に大丈夫なのか…?」


国境線へと出撃した俺たちを待ち構えていたのは、レガリア帝国軍の一部部隊だった。

数千規模だろうか。規律正しく整列しており、王国軍とは練度が違うのが一目で分かる。

彼らの前列には、噂の魔導兵器がずらりと並んでいた。

そして、部隊の中央には、鎧に身を包んだ指揮官らしき人物がいる。


帝国軍の指揮官が、こちらに気づき、声を張り上げる。


「クライフェルト王国軍か! 我々レガリア帝国の前進を止めようなどと、無駄な抵抗だ! 速やかに降伏せよ!」


その声には、圧倒的な自信が満ちている。

王国兵士たちの間に、僅かな動揺が広がる。


「アルト様…」

「ご主人様…」

「…敵性部隊。排除しますか?」


リリアーナ、ミュウ、シルヴィアが、俺の顔を見る。


(あー、もう、めんどくせえな)


俺はため息をついた。

言葉でのやり取りは苦手だし、時間も無駄だ。


「…邪魔だ。消えろ」


俺は帝国軍に向けて、右手をかざした。

詠唱もなし。ただ、力を込める。

イメージは…「空間ごと断裂」。


瞬間。


帝国軍が布陣していた空間に、歪みが走った。

それはあっという間に広がり、帝国軍の兵士たち、魔導兵器、指揮官…全てを呑み込んでいく。


歪みが消えた後。

そこには何も残っていなかった。

帝国軍がいた場所は、まるで最初から何も存在しなかったかのようだ。

地面に僅かに、不自然な切り傷のような痕跡が残っているだけだ。


静寂が訪れた。

王国兵士たちは、目の前で起こった、理解不能な光景に、ただただ立ち尽くしている。

帝国の指揮官も、何をされたのか理解できぬまま、消滅しただろう。


レガリア帝国軍の一部部隊は、俺の古代魔法によって、文字通り一方的に殲滅された。


遠く離れた場所に布陣していた、帝国軍の別部隊の指揮官が、この異常事態に気づき、偵察部隊を派遣する。

そして、前線が消滅した痕跡と、信じがたい報告を聞き…。


「ば…馬鹿な…! 全員が…一瞬で消滅だと…!? 何が起こったのだ…!? あれが、クライフェルトの英雄…アルト…!? 人間ではない…化物か…!?」


恐怖に顔色を失い、至急、本国に報告せねば、と震えながら命令を下す。


一方的に戦闘は終わった。

戦場に残されたのは、呆然とする王国兵士たちと、俺と三人のヒロインたちだ。


(よし、片付いた。面倒な戦争にならなくて済むか?)


俺はそう思ったが、それは甘かった。

レガリア帝国は、この一方的な敗北と、俺という規格外の存在を、脅威として認識しただろう。

そして、彼らは、俺という「化け物」をどう対処すべきか、真剣に検討し始めるはずだ。


国境線での「戦争序曲」は、俺の無双によって、一瞬で幕を閉じた。

しかし、これは本格的な国家間戦争の始まりに過ぎない。

次に帝国がどのような戦力、どのような戦略で来るのか。

そして、王国は俺に何を求めるのか。


面倒な日々は、まだまだ続きそうだ。

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