パート19: 隣国との緊張と国境任務

王都での生活は、見た目には平穏だったが、水面下では不穏な空気が流れ始めていた。

隣国、レガリア帝国との関係が悪化している、という噂が、王都中で囁かれ始めているのだ。

兵士募集の貼り紙が増え、街には軍服姿の人間が多くなった。

王宮でも、連日、会議が開かれているらしい。


(あー、ついに戦争かよ。面倒くせえ)


俺は内心でげんなりした。

前世でも、戦争は最も苦手なイベントの一つだった。面倒な策略とか、指揮とか、人の死とか…。


そんな中、王宮から再び呼び出しがあった。

謁見の間に足を踏み入れると、国王陛下と宰相、そして数名の貴族が深刻な顔で控えていた。


「アルトよ…他でもない。隣国、レガリア帝国との間で、事態が緊迫しておる」


国王陛下が重々しく口を開いた。


「国境付近の街への小規模な攻撃、斥候部隊の越境…すでに数件の被害が出ておる。我が国の国境警備隊や駐屯軍では、彼らの挑発行為を止めるのが精一杯で…」


宰相が状況を説明する。

レガリア帝国は、クライフェルト王国よりも国力が強く、軍事力も優れている、という噂を聞いたことがある。


「このままでは、本格的な戦争へと発展しかねん。だが、我が国の戦力では、帝国との正面衝突は避けたい。そこでだ…アルトよ。お前の力で、国境の事態を収拾してほしいのだ」


国王陛下が、俺に国境任務を依頼してきた。

王国の危機を救ってくれ、と。


(うわー…マジで戦争に巻き込まれるじゃん)


俺は頭を抱えたくなった。

面倒だ。非常に面倒だ。

王宮の仕事も面倒だが、国家間の紛争なんて、もっと面倒に決まっている。


「…面倒なんで、他の奴に行かせたらどうですか?」


俺は正直に答えた。


「それが、他では無理なのだ! 帝国の兵士は熟練しており、彼らが使用する魔導兵器も強力…我が国の兵士では、太刀打ちできぬ。それに…帝国側の実力者も動き始めているという情報も…」


国王は必死に訴えかける。


(魔導兵器? ゲームにあったな。まあ、俺の古代魔法の前では無意味だろうけど)


しかし、無視できる状況ではないらしい。

このまま放っておけば、王国は戦争になり、王都も危険になる。

そうなれば、公爵邸も、そしてリリアーナやミュウ、シルヴィアも無事では済まないだろう。


(…仕方ない)


俺は諦めた。

面倒だが、やるしかない。

巻き込まれるくらいなら、自分から乗り込んで、さっさと片付けた方が早い。


「…分かりました。国境に行きますよ」


俺が言うと、国王陛下と宰相は心底ホッとした顔をした。


「ですが、いつもの通り、俺の好きにやらせてもらいます」


「もちろん! お前の判断に任せよう!」


謁見の間を出て、公爵邸に戻ると、リリアーナ、ミュウ、シルヴィアが心配そうな顔で待っていた。


「アルト様…国境へ行かれるのですか…?」


リリアーナが尋ねる。


「ご主人様、どこいくの?」


ミュウが不安げに見上げる。


「…同行いたします」


シルヴィアが静かに言う。


「ああ、国境に行って、ちょっと問題解決してくる。お前らも来るか? まあ、危険だけど、俺が一緒なら安全だし」


俺がそう言うと、三人は迷わず頷いた。

「当然でございますわ!」「行く行くー!」「命令を」


こうして、俺と三人のヒロインたちは、国王陛下の期待と王都の人々の不安に見送られながら、隣国との国境へと旅立った。


***


数日後。

俺たちは国境付近の、軍事都市ティルガルドに到着した。

辺境の村とも、王都とも違う雰囲気だ。

街には兵士が多く、人々はどこか張り詰めた表情をしている。

街の壁には、過去の戦闘の痕跡らしきものが見える。


駐屯地の指揮官に挨拶し、状況を聞く。

指揮官は疲弊した顔で、隣国レガリア帝国の度重なる挑発行為や、小規模な攻撃について語った。

兵士たちの士気も低下しているらしい。


(まあ、こんな状況じゃ、士気も上がらねえか)


俺は、簡単な状況確認を終え、ヒロインたちと共に国境線を偵察することにした。

シルヴィアが、周囲を最大限に警戒している。


国境線付近は、緊張感が張り詰めていた。

遠くには、レガリア帝国の駐屯地らしきものが見える。

彼らの兵士が、定期的にパトロールしているようだ。


(あれがレガリア帝国の兵士か…服装とか、王国の兵士とは違うな)


俺は双眼鏡(古代魔法で作った簡易的なもの)で、彼らの様子を観察した。

騎士のような重装歩兵、弓兵、そして…馬車のようなものに、奇妙な装置が乗っている。


(あれが魔導兵器か?)


ゲームの知識がフラッシュバックする。

帝国は、魔法よりも魔導技術が発達している、という設定だったはずだ。


偵察を続けていると、帝国の斥候部隊らしき一団と遭遇した。

五人組。こちらに気づくと、すぐに臨戦態勢に入る。

彼らの手には、王国では見かけない形状の銃器や、杖のようなものから光線を放つ装置などが見える。


(お、早速か。まあ、手合わせ程度ならいいか)


俺は前に出た。

リリアーナが「アルト様、お気を付けて!」と声をかける。

ミュウは俺の後ろに隠れた。

シルヴィアは、いつでも斬りかかれる体勢で、俺の斜め後ろに控えている。


「貴様ら、クライフェルトの兵か! ここから先はレガリア帝国の領地だ! 速やかに立ち去れ!」


帝国兵の一人が、剣を構えて叫んだ。

その声には、自信が満ちている。


「悪いな、通りたいんだ」


俺は適当に答えた。


「ならば…死ね!」


帝国兵が襲いかかってくる。

銃器から光線が放たれる。杖から炎の塊が飛んでくる。


(ふむ。王国とは確かに違うな。だが…)


俺は、それらの攻撃を、軽く手を振って消滅させた。

帝国の兵士たちは、自分たちの攻撃がまるで意味をなさなかったことに、驚愕している。


「な…なんだと!? 我らの魔導銃が…!?」


俺は彼らに向かって、古代魔法を発動させた。

今回は、相手を傷つけない程度に、「動きを封じる」イメージ。


スッ…


帝国兵たちの動きが、ピタリと止まった。

固まったまま、恐怖に顔を歪めている。


「あー、面倒くせえな。早く帰ってくれよ」


俺はそう言い放つと、拘束を解いた。

彼らは、解放された途端、一目散に逃げ出した。


「ご主人様、やっつけたね!」


ミュウが嬉しそうに言う。


「アルト様…なんてお力…帝国兵も、アルト様の前では…」


リリアーナが感嘆する。


「…確認。帝国の戦力、危険度:低。ただし、使用技術は王国と異なる。報告を」


シルヴィアが冷静に分析し、俺に報告を促す。


(まあ、こんな雑魚ばかりじゃないだろうな)


今回の小競り合いで、隣国レガリア帝国の戦力の一端に触れた。

彼らは確かに、王国とは違う力…魔導技術を持っている。

そして、その組織力も侮れないだろう。


この国境付近の街に駐屯し、俺は来るべき衝突に備えることになった。

本格的な戦争が、避けられないことを悟りながら。

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