②
ふんわりした赤い一人がけのソファが四つあり、その真ん中にテーブル、後ろには暖炉が置かれている、自分の家にはない豪華な応接室らしきところに案内された。
「紅茶は大丈夫かな」
この部屋にいるのは、私と推定王子様、クラーラさん、お茶とお菓子を用意してくれたメイドさんだ。
そのメイドさんも、用意が終わると、部屋を出ていってしまう。
「今、父である王は王都を出ていてね。私が代理を務めさせてもらう」
推定王子様が王子様だということが確定した。
「私はハンス・モーニング。この国、モーニング国の王子だ」
「私は、クラーラ・ナイトレイと申します」
「私は昼神ひまわり。あ、ひまわり・昼神です」
自己紹介する二人にならい、私も自己紹介をしながら、頭を下げる。
「大丈夫だ。苗字が先で名前が後の文化は知っている」
この国に日本のような文化が知られていることに少し安心した。
「さて、ひまわり嬢。あなたは、異世界から来たのではないか?」
私が先ほどまで考えていたどんぴしゃなことを言われて、驚く。
「いや、この世界でたまに話を聞くんだ。異世界から来訪者が来ることが。大昔に来た来訪者が伝えた文化が今も栄えていることがあるからね」
「そうなのですか」
ちょっと珍しい異世界転生・転移が世に知られている世界だったのか。
「私が見つけたこともあるから、しばらくは王宮で過ごしてくれて構わない。落ち着いたら、どこかの貴族の養子にしてもらえるように手配するよ」
至れり尽くせり。
一般人の私にここまでしてもらっていいのだろうか。
「異世界から来た人はこのような好待遇を受けるものなのですか?」
「いや、私が君を気に入ったからだ」
なんてことないようにハンス殿下は言う。
隣にいるクラーラ様は表情を崩さず、クールなままだ。
この人、この場にいるから、てっきり婚約者かなんかだと思ったけど、違うのかな。
「君はこの国の聖女になると思ってね」
「は?」
クラーラ様の凄んだ声にびくっとなる。
初めて、この人の素を見た気がする。
「殿下、お戯れはよしてください。この国の聖女は私ですよ」
この人を見て、目が笑っていないってこういうことをいうんだなとよく分かる。
「しかし、クラーラはもうすぐ20歳になるだろう。後継者が必要だろう」
聖女、年齢制限あるのか。
「あの、聖女って何ですか?」
「ああ、説明しないとだね。聖女は、この世界で起きる災いに対し、祈りをこめて、災いを消すもののことだ」
この世界は、一瞬で都市が壊滅するほどの災いがたまに起こり、どんな騎士も敵わない。
聖女の祈りだけが災いを消すことができるという。
「もうすぐクラーラが聖女を卒業するタイミングでひまわり嬢が来た。このことは意味があると思うんだ」
「しかし、私なんか…」
「そうですわ!」
クラーラ様が声を上げる。
「私は今まで何度も災いに対峙してきました。幼い頃からそのための特訓もしてきましたわ。この国のことをろくに知らないこの方にできるとは思えません」
「しかし、君はそろそろ卒業…」
「そんなのどうとでもなりますわ」
自信満々な王子様っぷりが、クラーラ様に押され気味だ。
「まあ、しばらくはゆっくり過ごしてもらって、おいおい考えてもらえれば…」
「分かりました…」
私もハンス殿下もクラーラ様の勢いに引き気味になりながら、会話を終えた。
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