チート能力者の異世界転生録

@gurirutorster

第一話 死と再生とチート能力

 夕焼けの街に、いつもの風が吹いていた。


 天城悠真はスマホをポケットにしまいながら、ぼんやりと空を見上げていた。


「今日も、何もなかったな……」


 大学帰りの坂道。近くの公園からは子どもたちの笑い声。コンビニのレジ前では、疲れたスーツ姿の男が缶ビールを買っている。


 それは、どこまでも「普通」の光景だった。


 だが、日常とはあまりに脆い。


 突然、背後から叫び声が上がった。


「危ないっ――!」


 振り返ると、目の前に刃があった。


 鮮血が舞った。心臓が掴まれたような激痛が走り、視界が赤く染まる。


「……っ……は……」


 倒れゆく意識の中で、悠真は自分の命が終わったのだと、直感した。


(死ぬって、こんな唐突なんだな……)


 


 ◇ ◇ ◇


 


 気づけば、真っ白な空間に立っていた。


 色も、音も、匂いもない。ただ無限の「無」が広がっている。


「ようこそ。天城悠真」


 声が響く。重厚で、全方向から染み込むような声だった。


 悠真が顔を上げると、空間にひとつの"像"が現れた。人の形をしてはいるが、人ではない。存在そのものが不安定で、視界の端で揺らめいている。


「俺……死んだんですよね?」


「そう。そして選ばれた。異世界に転生し、そこで"力"を使う役目を与える」


 淡々と語られる異世界転生の案内に、悠真は微かに眉をひそめた。


「……ゲームみたいですね。人一人の人生が、こんな風に扱われるのか」


「その認識は間違ってはいない。ただし、この選択は君自身の意志に委ねられる」


「なら、選ばせてもらいます」


 即答だった。自分の死に何の意味もなかったのなら、せめて「次」では何かを残したい。


「"スキル・イーター"って能力が欲しい。相手のスキルを奪い、自分の力として進化できるもの。代償があるなら、それも受け入れます」


「代償か。……ふふ、そうなるだろうな。いずれ」


 謎の含みを残した言葉とともに、光が悠真を包む。


「行け。新たな世界へ。今度こそ、お前の生きる意味を見つけろ」


 


 ◇ ◇ ◇


 


 大地の匂い。重力の感覚。


 気づけば、悠真は深い森の中にいた。遠くで鳥が鳴いている。木漏れ日が肌を撫でた。


「……ほんとに来たのか、異世界に」


 呟いた直後――


 ズズズン、と地面が震えた。


 現れたのは、巨体の魔獣。黒い鱗に覆われ、口からは赤い炎が漏れ出ている。目は六つ。牙はまるで岩を砕く斧。


(うわ、チートもらったって言っても、これ無理ゲーじゃ――)


 しかし、体は逃げずに動いた。


 掌に力が集まる感覚。目の前の魔獣が本能的に危険を察知して身を引く。


「――悪いな。俺、まだビビってるけど……」


 悠真は手を振り上げた。


「"諦める"って選択肢は、最初から持ってないんだよッ!」


 放たれた光の槍が、雷鳴と共に空を裂いた。


 爆音と共に魔獣が地に伏す。


 


 そして、静寂が戻った森の中――


「……っ!」


 倒れていた女性の呻き声が、木陰から聞こえた。


 銀髪の甲冑姿。血まみれの腕で、懸命にこちらに手を伸ばしている。


「お願い……助けて……」


 悠真はその手を、迷わず掴んだ。


 だがその瞬間――


 森の奥から、もう一体。先程の魔獣よりも、遥かに巨大な"何か"が現れた。


 八つの眼。鋼鉄のような体躯。森全体を揺るがす咆哮。


 絶望に沈みかけたその時、悠真の目が鋭く光った。


「お前ら、本気でやっていいって言ったな……神様よ」


 彼の手のひらから、再び力があふれ出す。


「見せてやるよ。これが――スキル・イーターの開幕戦だ!」


 数秒後、あたりにはただ一人の男が立っていた。


 その足元に、地に伏した魔獣。そして救われた女騎士。


「大丈夫だ。もう誰も、お前を傷つけさせない。俺が――守る」


 その言葉に、彼女の目が見開かれた。


 やがて訪れる運命など、彼はまだ知らない。


 だが、この瞬間だけは、確かに彼が「英雄」のように見えた――

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