テントの館
本庄 楠 (ほんじょう くすのき)
第1話
澄夫が入職した時は、大学二校と高等学校三校、短期大学一校を擁する学校法人に発展していた。法人名は『
澄夫は日本地理と日本史を教えていた。
彼は今日、校長の永田から呼ばれて、今月末(七月三十一日)付けで退職を宣告されたのである。
二年A組が彼が担任するクラスとなった。
澄夫は張り切っていた。「ようし!これで俺も一人前の教師だ」とクラス運営に情熱を持って取り組み、研究したり、企画を立てたりして一生懸命に頑張っていたのだった。
ところが、この二年A組には、近隣の高校にも、その名前が鳴り響いている不良の悪ガキが一人居たのである。斎藤と云う名前のその生徒は、二年生にも関わらず、この高校の番長を張っていたのである。
澄夫が勤めている山田第一高等学校では、男性の教師がペアを組んで、在校生の補導を行っていた。平日の放課後と土曜日と日曜日の日中に生徒が非行に走らない様に繁華街や飲み屋街、ゲーセンなどを巡回して、指導し、注意をしていたのだった。
夏休み前の七月の日曜日だった。博多の川端通にあるゲーセンで、斎藤が煙草を吸いながら他校の不良グループとゲームに興じていたのである。
澄夫は斎藤の腕を引っ張って屋外に連れ出し、こんこんと注意したのである。
「斎藤!タバコなんか吸っちゃ駄目だろう。お前、遊んでいる暇なんか無いだろう。夏休み前に追試験を三教科も受けんならんやろうが、帰って勉強せい!」と注意した。斎藤はガタイも大きく腕力も強かった。喧嘩では負けた事など無く、近隣の高校の不良たちも彼に睨まれたらビビったのである。しかし、何故か澄夫に対しては素直な態度で、反抗したことなど無かった。
「解りました。帰ります」と頭を搔きながら頷いたのである。
ところが、連れの他校の二人の悪ガキが黙っていなかったのである。
「斎藤さん。こんな先公の言う事なんか聞く事ないっすよ」と怒鳴って澄夫の襟首を掴んで、足で澄夫の腹を蹴り上げたのである。更に、もう一人の澄夫と同行していた岩田教師にも殴りかかってきたのだ。斎藤は「おい。
三十分後、ゲームセンタ-からの通報で警官が駆け付けて来て、一同は博多署まで連行された。
翌日、不幸にも、この事件が西日本新聞に掲載されたのだった。そして、澄夫と彼とペアを組んでいた岩田教師は、共に
板倉澄夫は、この時二十六歳だった。彼は、広島大学を卒業して、この山田第一高等学校に応募して採用されたのだった。彼は教職課程も履修していたのである。
そして、就職活動の時に一般企業と教師の二股を掛けていたのであった。結果的にはどちらにも採用されることになったのであるが、「学校もいいかな」と教師の道を選んだのだった。そして社会科の教師になったのである
やり始めてみると、教師の仕事がだんだんと面白くなってきて、今年からは担任も任されるようになった矢先に、このような結果になってしまったのである。
今日は七月二十八日。彼の教師生活も残すところ、あと三日となった。
学校は夏休みに入っていた。
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