第12話 意義

僕は、家庭環境が複雑で自己肯定感が低かった。

「お前はゴミだ」「お前はクズだ」とかボコボコに言われたものだった。そもそも親基準でそんな事を言われても、基準はお前じゃないし、とか思って全く心に響いていなかった。

それ以来だろうか。自分の事をどうでも良いと、思い始めたのは。自分の幸せの優先度が下がってきて、自分は後手に回る。口癖は、「良いよ。自分のことは」が多い。こんな自分でも、誰かの役に立ちたいという意思が強く芽生えて、花を咲かせる。無償の利他主義が草を生やして、増殖して古い根は枯れていく。懐かしい情景が脳内を埋め尽くす。夢であって欲しいと何度願ったことか。

「はぁっ。はぁっ」荒い息づかいと同時にガバっと布団を蹴り上げて、体を起こす。

自分にできることは何でもしたい。命は有限。その間に何ができるか。それこそが価値だと思う。

現在、所属しているテニス部でもそう。レギュラーになりたい。ペアをレギュラーにしてあげたい。自分が何とかしないとなと負担を背負いがちになってしまう。

「ごめん。俺が弱いから負けたんだ」

「そんな事ないよ。いつも感謝してる」

いつも通りの会話。強ければ勝てたはずなんだ。

あの試合、勝っていれば何か変わっていたのかもしれない。

あの日、全国大会に進出が出来るか否かの都大会があった。俺と一緒にいたペアは絶対に全国へ行きたい。全国へ行かなきゃ駄目なんだと意気込んでいた。

「俺は絶対に全国へ行かなきゃいけないんだ」

「全国へ行かなきゃ、価値が。意義が無くなってしまう」当時の自分は、そこまで強い執念があるんだと深く関心していた。その背景にある物事には全く気付かずに。試合は毎回ギリギリで通過して、5戦目。ベスト8決めの試合が始まろうとしていた。1・2ゲームは相手が先取して、3・4ゲーム目は自分達が、5ゲーム目はファイナルゲームとなり、接戦を繰り広げていた。サーブ側の相手にアドバンテージコールがされた瞬間、その時は来てしまう。ラケットの持ち手の中指にマメができて、振るたびに激痛が生じる。補強したテーピングも真っ赤に染まっていた。そんな状態で勝てるはずもなく、負けてしまった。

「マメが潰れているじゃないか。出血も激しい」

「俺達は頑張った。負けたのはしょうがない」

ペアのもう一人は泣いていたが、寂しそうに語りかけてくれた。その2日後、事態は急展開した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リタとリコ ソルト🧂 @Solt01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ