明日、晴れるといいね

tanahiro2010@猫

第1話

 朝のチャイムが鳴る直前、教室の扉をそっと開ける。誰も僕には気づかない。気づかれないようにしてるわけじゃない。ただ、そういう存在になってしまっただけだ。


 席につくと、前の席の女子があからさまに椅子をずらした。視界の端で、何人かがこっちを見て笑っている。僕の顔には何も浮かばない。ただ下を向いて、筆箱を開く。


 「てかさ、昨日のインスタ見た? あれ、ヤバくない?」


 クラスの中心にいる連中は、今日も机を囲んで盛り上がっている。誰かの失敗、誰かの変な写真。笑いのネタにされるのはいつも、いない人たち。今日はいない。明日は自分かもしれない。そう思っても、誰もそれを止めない。


 僕はそれを、ただ聞いていた。笑い声は刃物みたいに響くのに、誰も傷ついたふりすらしない。


 「なあ、お前、体育のとき何やってんの? ボールすら取れてなかったじゃん」


 昼休み、廊下で声をかけられる。振り返ると、例の男子――佐伯だった。背が高くて、運動神経もいい。女子の半分は彼に憧れてて、男子からも一目置かれてる。教師の前では礼儀正しく、誰にでも優しい。それでも、僕には最初から何かが違って見えた。


 「…別に、気にしてないよ」


 そう返すと、彼は笑った。見下すでもなく、楽しむでもなく、ただ退屈を噛み殺すような顔で。


 「つまんねーな。そういうとこ、マジでつまんねぇわ。何考えてんのか、わかんねーし」


 その言葉が、なぜか心に刺さった。怒りも、悲しみも湧かなかった。ただ、胸の奥が冷たくなった。


 午後の授業中、僕の机の中には折られたプリントが突っ込まれていた。開くと、雑に描かれた似顔絵と「死ねば?」という文字。誰が描いたのか、探す気にもなれなかった。誰でもあり得たし、誰でもなかった。


 放課後、佐伯に呼び止められた。


 「屋上、来いよ。ちょっと話あるだけ」


 拒否したところで、どうせ無駄だ。僕は鞄を持って黙ってついていった。


 屋上の扉を開けると、冷たい風が頬をなでた。夕焼けの光が世界を赤く染めていた。なのに、その美しさはどこか嘘くさくて、全てが舞台装置のように見えた。


 「お前さ、マジで浮いてるって自覚ねーの? 誰もお前と話したくないし。見てて痛いんだよ、正直」


 彼の声は穏やかだった。怒鳴り声なんかじゃない。それが逆に恐ろしかった。優しさの皮をかぶった残酷。飽きた玩具を壊すような、そんな無関心の圧。


 「なんで…そんなこと、言うの…」


 自分の声がかすれていた。喉の奥から出てくるのは、情けない吐息だけだった。


 「だってさ、何もしてないくせに、被害者ヅラしてるからじゃん。クラスの雰囲気壊すやつ、いらねーのよ。あ、違うか。いたところで誰も気にしねーから、どっちでもいいってことか」


 彼は笑っていた。本当に楽しそうに。心の底から、僕が滑稽に見えているのだろう。


 「お前がいなくなっても、明日には誰も覚えてねーよ。そういう立ち位置、わかってる?」


 フェンスの方へと歩かされる。背中には誰もいない風景が広がっていた。逃げようと思えば逃げられたのかもしれない。でも、足が動かなかった。恐怖よりも、疲労の方が強かった。


 「じゃあ、さよなら。事故ってことで、よろしくな」


 次の瞬間、背中に力が加わった。


 風が、全てをさらっていった。


 視界がぐるぐると回る中、ふと、こんなことを思った。


 これで、明日が来ないなら、それでいい。


 それだけだった。


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 僕が好きな終わり方、ジャンルの小説を書いてみました

 僕の小説を読んでるそこのクラスメートよ、精々こういう小説でも読んで鬱にでもなるんだな


 鬱小説っていいよね

 あと学校のザマァもの化と見せかけて主人公に救いのない系小説大好き

 現実そこまでうまくいかんよってまざまざと見せつけてくれる小説をこれからも書いていきたい

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