ホッチキスの音(1)
文化祭準備中の教室は、ぐちゃぐちゃだった。
貼り出すポスターを持ったまま、俺はひとりで四苦八苦していた。
机の上に立って、壁にポスターを押しつける。
手が足りない。ホッチキスの針が止まらない。
「手、貸そっか?」
背後から、春香の声がした。
「助かる」
素直に言ったのに、春香はクスクス笑った。
俺の不器用さが、そんなに面白いのか。
春香は俺の隣に並び、ポスターを押さえた。
その手が、少しだけ俺の手に触れた。
「動かないでよ?」
「はいはい」
口では軽く返したけど、なんか変に意識する。
春香は、涼しい顔でホッチキスを打ち始めた。
パチン、パチン、と軽快な音が響く。
見上げると、真剣な顔をしていた。
全部打ち終わると、春香はにっこり笑った。
「はい、完璧」
得意げな顔。
俺はポスターを見上げたあと、ぽつりと言った。
「ちょっと、曲がってね?」
「……えっ」
春香が顔をしかめる。
俺はニヤニヤしながら言葉を続けた。
「まぁ、許す」
「なんかムカつくんだけど」
頬をふくらませた春香は、ホッチキスの針をひとつ取り出して、俺に向かって突きつけた。
「動いたからでしょ」
「いや、完璧って言ったのおまえだからな」
ふたりで顔を見合わせ、笑い合った。
午後の日差しが、教室に差し込んでいた。
机の上に並んだペンキ缶も、チラシも、全部が輝いて見えた。
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