第20話 ──帰り道の自分



放課後。


教室の窓から見えた夕暮れは、どこか懐かしい色をしていた。


遼太は、誰とも約束を交わさず、

誰にも声をかけずに、

そのままカバンを片手に校門を出た。


道端には、部活帰りの生徒たちの笑い声が漂っていた。


それを、耳の奥でぼんやりと受け流しながら、

遼太はただ、歩いた。


コンビニの前を通り過ぎ、

交差点で信号待ちをしているとき、

ふと、空を見上げた。


高層マンションの隙間から、

小さな月が、まだ青い空に溶けるように浮かんでいた。


──きれいだな。


誰に言うでもなく、

誰に聞かせるでもなく、

そんなふうに思った。


学校では、誰も気づかないように「うまく笑った」。

それは間違いなく、自分の努力の結果だった。


けれど、こうして一人きりになったとき、

胸の奥に、少しだけ冷たい風が吹いた。


──やっぱり、疲れてるな。


自分で自分に、そう認める。


でも、それが悪いことだとは、もう思わなかった。


疲れるのは当然だ。


ちゃんと笑って、ちゃんと気を遣って、

ちゃんと、今日を生きたんだから。


──信号が青に変わる。


遼太は歩き出す。


どこへでもない、

ただ帰るべき場所へ。


カバンが肩にあたる小さな衝撃と、

スニーカーがアスファルトを踏む柔らかな音だけを連れて。


その背中は、

静かに、でも確かに、未来へ向かっていた。


──ログ記録:

『帰路途中、ユーザー感情傾向:安定/自己受容レベル上昇。』


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AI教室:一ノ瀬遼太の記録 ~ひとことで済むと思ってた~ @alphaofAI

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