【TSギア】 異世界転生して普通に暮らしていた一般人の俺(37)だけど、「転生者だから」という理由で謎のマシンに適合し、美少女に変身して魔法少女(犯罪者)ども と対峙する事になった。辞めたい。

へろあろるふ

第1話 始まりの歯車


 なぁ、転生した事あるか? 俺はあるぞ。高校生の時、好きな人が屋上から飛び降りようとして、それを助けようとして………ミスって、一緒に落ちたんだ。


 で、死後。割と短かった生前の記憶を片手に、現代っぽい異世界に転生した。ゲームの世界が良かった…。そんな訳で今37歳。ついさっきまで、コンビニでレジ打ってるヤニカスだった。





 この世界は、おおよそ生前と変わりない。下の名前はカタカナが主流だったり、過去に宇宙人の侵略があったりしたけど、一般人の生活には特段の影響はない。



 今日だって、普通に職場から家に帰って、安いビールでも飲もうと思っていた。


 それがまさか、犯罪グループに連れ去られる事になるとは。誘拐という言葉は馴染み深いと思うが、誘拐は「誘惑、もしくは騙して連れ去る」事を言う。


 これはどちらかと言えば略取、つまり強引で暴力的な連れ去り方だ。……全く、予想もつかない事が起きる物だ。




 現在、薄暗い車庫みたいな場所で椅子に縛られて待機中。そばには監視役だろうか、可愛い女の子が壁に寄りかかりながら、ナイフをハンカチで拭いている。


 俺が もぞもぞ動くと、「大人しくしてろ」と警告してくる。女子高生くらいの外見に反して、中身は少々怖い。



 椅子に拘束されてから何十分が過ぎただろうか。そろそろトイレ行きたいなー、とか思いながらJK(?)をチラチラ見ていると、下っ端らしき男が2人入って来る。


 そのうちの一人は、手にネックレスを持っている。少し変わったデザインで、小さな端末のような物がチェーンに付いている。それを俺の首に掛けた。勝手に掛けないでほしい。


 彼はJK(?)に目線を送り、何やら質問した。


「ギアは、もう起動しますか?」

「起動しろ。……ボクは外の警戒につく。何かあれば、お互いにブザーを鳴らす。忘れるなよ。」



 一瞬、彼女が俺を睨んだ。光のない、深淵の如き黒い瞳で。鉛筆で塗りつぶされたような瞳は、俺の恐怖心を掻き立てる。


 彼女は、濡れたコンクリートのような色の髪を、左側で束ねてハーフアップにした。見た目も声も可愛いけど、彼女には言い知れぬ恐ろしさがある。根拠も理由もない、恐ろしさが。


 彼女がパーカーのフードを被った直後、彼女の姿が消えた。全身の色が、カメレオンのように背景に溶け込んでいき、消失したのだ。


「っ…!?」


 倉庫のドアが勝手に開き、勝手に閉じる。その光景を見ても、男達に驚いた様子は無かった。


 2人組の中で細身の男が、太った男に対して言う。


「やっぱ、魔女は可愛いよなぁ。」

「な~。中身が時音寺じのんじさんじゃなければ最高だったのに。」


「言うなってww」


 ケラケラと笑いながら、男達は雑談をしている。「魔女」というのは、恐らくあの子の事だろう。


 太った男は俺を見遣ると、細身の男に声を掛けた。


「そろそろ始めるぜ。」

「おう。」


 太った男はスマホをいじり始める。何かと思った直後、唐突に気分が悪くなり始めた。吐き気と眩暈が襲い掛かり、激しい痛みが雷のように頭を刺す。


「な、にを…!?」

「失礼しますね~。ちょっと苦しいと思いますが、辛抱して下さいませ。」



 何故か敬語で励ましてくる、太った男。2人の男は、真剣な表情で俺を凝視する。細身の男が、楽しそうに呟いた。


「さてさて、どんな魔女になるのかな…♪」



 痛みと、不快感と、息苦しさ。俺の感じれる全ての苦痛が 一切合切、大津波の如く押し寄せる。


 気が付けば、俺の身体は赤く光っていた。縄が解かれていて、拘束も外れている。俺は両手を地面につき、焼けるような痛みに耐えながら全力で呼吸をする。


「おっ!」

「おおぉ…♪」



 2人の男が口々に、何やら賞賛している。すると、地獄のような苦しさが一気に消え去り、身体の発光も止んだ。


 気が付けば、俺の身体は何故か小さくなっていた。服と体の大きさが合っていないから、すぐに気付けた。そして、肌が やたらと白い。必死に呼吸をする俺の声が、妙に甲高い。


 銀色の長い髪が、膝をついた足元まで垂れている。それは紛れもなく俺の髪だった。


「な…何が、起きた………は?」



 俺の声が、完全に幼女のそれだ。まるで俺の声じゃない。無邪気な幼女に似合いそうな、愛らしい声。


「おいおぃ…っ、何がどうなって…。」

「佐藤 悠治さん。」



 唐突に、細身の男に名前を呼ばれる。2人組は片膝をつき、俺に頭を下げている。


「貴方は、TSギアと魔女の力に適合されました。おめでとうございます!」

「は、はぁ…?」


「どうぞ、鏡です。」


 鏡を差し出され、自分の顔を見てみる。



 乱れた銀色の長髪、整った黒いまつ毛、アメジストのような紫色の瞳。自分を美少女と呼ばざるを得ない程に可愛らしい目鼻立ち。


「き、キモいっ…!!」



 俺みたいなヤニカスが、良い歳して美少女に変身。字面がキモすぎて鳥肌が立ちそうだ。いくら何でもこれは酷過ぎる。


「いやいや、可愛いですよ!」

「うんうん、美しいです!」


「そうだけどッ、……これは違うだろ!? 元に戻してくれ!」

「時間経過で勝手に戻りますよ。」


「そ、そうか…。」



 俺が安堵の息を漏らした時、建物の外から連続した銃声が聞こえた。太った男の懐中からブザー音が鳴り、2人組の表情が険しくなる。


「…佐藤さんを逃がすぞ。時音寺さんは一人でも大丈夫だ。予備の合流ポイントに…。」



 細身の男が言い終える前に、倉庫の扉が乱暴に開け放たれた。黒い重装備の警察官が数人押し入って来る。


「警察だ! 大人しく投降しろッ。」

「急げッ、裏口も封鎖しろ!」


 太った男は舌打ちすると、拳銃で警官に発砲する。だが、防弾盾を構えた警官には傷一つ付けられない。


「クソが!」


「警告だッ、武器を捨てろ!」



 警察の優勢に安心した俺だが、2人組は頭を使ったようだ。細身の男は太った男に近寄り、背後から仲間に銃を向けた。


「お前ら、動くな。動いたら山田を……こいつを撃つ。」


「「「……ッ!!!」」」


 警官達が、一瞬動きを止める。その時、警官のトランシーバーから女の声がした。


『緊急!! こちらS1、魔女が倉庫に入ったッ! 繰り返す、魔女が』



 魔女が倉庫に入った。通信がそう告げ終わるまでの数秒で、透明なが7人の警官を全員 斬りつけた。的確に急所を刺されたのか、重装備の警官は倒れたまま立ち上がらない。


 灰髪の少女の声がする。


「川村、そいつを連れてさっさと逃げろ。」

「は、はいっ。……佐藤さん、行きますよ。」


「……お前ら、犯罪者だろ。お前らに手を貸すつもりはないぞ。」


 俺が細身の男を睨みつけると、男も俺を睨み返した。拳銃を俺に向け、引き金に指をかける。


「…俺達の仲間にならないなら、殺してやる。」



 俺が死の覚悟を決めるよりも早く、容赦なき銃声が鳴り響いた。血飛沫が床に飛び散る。男が片膝をつき、右腕を抑えて悶絶し始めた。


 撃たれたのは俺ではなく、男の方だった。


「とりあえず手前てめえ、殺人未遂の現行犯な。」



 冷え切った、少女の声がした。灰髪の子とは別だ。声のした方を見れば、警察の制服を着た少女がドアの前に立っていた。


 紺色の髪をツインテールで束ね、金色の瞳には正義の光を宿した少女。その右手には、ネオンに似た青い光が、ピストルの形をして握られていた。


「…アレンナ、居るんだろ?」


 警察の少女は、誰もいない空間に向かって声をかけた。すると、虚空から灰髪の少女の声が応える。


「…居るよ。」

「大人しく投降しろ。…手加減するつもりはないぞ。」


「……投降はしない。」


 返答を聞いた警察の少女は、虚空に向かって光の銃を構える。



 倉庫の 頭上4mほどの照明が、突然音を立てて破壊された。地面に照明器が落下し、耳障りな音と共に倉庫が闇に包まれる。


 闇の中で見えるのは、少女が握った光る銃だけだ。その青い光が、掲げられるのが見えた。同時に銃声が鳴り、青い光線が周囲に広がる。花火のように光が飛び散り、空中に光の粒が停滞した。


 俺と少女は倉庫の中を見回したが、灰髪の少女は見当たらないし、光が不自然に屈折しているような所もない。








 それから20分は経ったと思う。トランシーバーから通信を受けると、警察の制服を着た少女は溜め息をついた。俺の方を見遣ると、話しかけてくる。


「…ひとまず、周囲の安全は確認されました。救助が遅くなって申し訳ありません。」

「…あぁ、うん。大丈夫。それより、助けてくれてありがとう。」


「そんな…。」


 不甲斐なさそうに少女は相槌を打つ。俺は細身の男を見下ろした後、黙って目を背けた。命に別状は無さそうだ。けっこう呻いてるけど。


「佐藤 悠治さん、で合ってますか?」

「あぁ、はい。」



 彼女は俺の名前を確認した後、手元の銃を煙のように消してしまった。まだ俺は美少女の姿のままだが、どうやらこの子は事情を知っているようだ。


「お時間をお取りして申し訳ございませんが、警察署まで同行して頂きます。何卒、ご協力をお願いします。」

「分かりました。」


 相手は警察だ。当然ながら、「断る」なんて選択肢は俺の中に存在しない。即答で要求に応じた。


 そして後に、俺は知る事になる。かつてエイリアンが侵略に使っていた戦闘技術、「TS」について。そして、「魔女」を名乗る犯罪組織について。



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2025年12月16日 22:00 毎週 火曜日 22:00

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