Episode.6...Lost Generation.

 ―――夜の帳が静かに降りる帰宅途中、車窓から見えるシーナリー。残影は、グランピングでの喧騒を忘れさせるような穏やかさを保っていた。シグナルの入った達郎はその夜、失ったものの影を胸に抱えながらも、スマートフォンに由真の名前を入力し、ラインの画面に視線を落とした。

 イリアからの拒絶、その瞬間に感じた痛みがまだ彼の胸に深く刻まれている。矢沢が励ましてくれた言葉もむなしく響き、その救いの手は届かなかった。孤独と失意の重みが彼の呼吸を少し重くする。しかし、そんな彼の姿を見かねて手を差し伸べたのは、由真だった。

 スマートフォンの画面に表示されたメッセージ。「貴方は、きっと素敵な人がいる。信じていて」その言葉は、まるで遠くから聞こえる凛とした鐘の音のように、彼の胸を静かに震わせた。由真がもう達郎に見切りを付けた事実に心が折れ、彼を支える決意は全ての思いと慟哭でしかない事実を伝えたその瞬間、達郎の心の奥に小さな光が灯る。

 車窓の外には街灯がポツポツと浮かび上がり、その光がゆるやかに流れていく。彼の目には、星空がうっすらと見えていた。その星々の輝きは、由真の決意と重なるような安らぎを感じさせた。達郎はその景色の中で、自分の未来への小さな希望を見出していた。

「由真、ありがとう。君がいてくれて本当に良かった」。ラインに送るその言葉は、彼の胸の奥に残る感情を少しずつ解きほぐしていく。グランピングでの思い出が次第に遠のき、彼の心には新しい道が描かれ始めている。

 夫婦にはなれない、その裏には迷いも葛藤もあった。けれども由真が支えると決意したその瞬間、達郎の中には、共に歩む未来が確かに息づき始めた。車窓の風景は流れ続け、その中に新たな物語が静かに芽吹いていった―――。

 家で幼馴染のころ由真から貰ったHemingwayの移動祝祭日を読む。

 自分もようやくらしくなったな、とは感じた。多分、風来坊で我が道を鑑みず走る一方通行みたいな僕がようやく手にした幸せ―――。それは、僕は、趣味で多種多様な活動を通して、僕が僕らしくあるために得られたモノローグ。でも、仕事は一般企業の会社員の模した給与体系の非雇用の業務だった。僕はこれからどうやって一人で立って生きていければいいだろう。

 「形は意志を表すはず。何故、僕は社会人として形を取れないんだろう?」達郎は由真に聞いた。

 「貴方にとって最大限生きていける、姿こそが形なんじゃないかな?貴方らしく最大限生きていける姿を取れれば、それこそが本来の姿」由真は言った。

 鮮やかな愛。鮮やかな藍。

 霊験たる意思は、力になれるか、相同性の愛が、同心円に広がっていく―――。

 分厚い雲が、鳴りやまないスコール。

 あの夏の雲が、押し寄せた胎動。

 何かが僕の中で生まれる。

 多分、あのAir Cloud Spot...が知っている。

 あの夏の熱い夢を。

 世界中でただ一人だけ立っていた。

 僕と言うカタチ。

 「由真」僕は言った。

 「何?」

 「幻想って何だろうね」僕は言った。

 「それには今って必要?」由真は言った。

 「必要はない。未来への計画さえ存在していれば、今は必要ない」

 「そう、あなたって、いつも先を見ているのね。遠い残刻の向こう側を」

 「そう、遠い夕刻の最中を朝に視ている」僕は言った。

 雨宿りする。

 鳴りやまない風鈴。

 僕はそっと蛍の光に触れた。

 光はそっと手の中に揺れる。

 「鳴りやまない、夏」由真は言った。「あたしは君に出会った。多分、忘れない。一生」

 


 

 

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