第4話 恐怖のシュミレーション

 ───帝国都心。ハンター管理局。


「……でっっっか……。」


 テレビ放送でしかみたことのない帝国のハンター管理局の下に、今、俺はいる。


 帝国中心部で結界を張っているだけあって、その大きさは生唾を呑むほどだった。


「さ、行きましょう。」


 行き慣れたかのう先生は当たり前のような顔をして入口へと歩いていく。

 その後ろから俺は少し小走りで追いかけていき、ハンター管理局の入口をくぐったのだった。


「叶です。精密検査とジョブ検査を。」


「ジョブ検査…ですか?」


「ええ、律くんの魔力量からしてジョブが覚醒しているケースも考えられます。」


「でも、ほとんどはレベル上げしないとジョブってつかないんじゃ……」


 困惑する俺をよそに叶先生は自分のIDパスをかざしながら、サクサクと受付で検査予約をする。


「まあ、ジョブが既についているかどうかもこれからの検査で分かります。

 念の為です。そんなにかたくならないで。」


 安心させるように優しい声色でたしなめられたが……

 いや、するだろ、緊張。


 普通ならハンターとして覚醒した後にレベル上げをして、やっとジョブが得られる。

 その過程かていを飛ばして、はじめからジョブがつくハンターなんてトップハンターといわれる人ばかりだ。


 まさか俺がそんなわけ。


「検査室の準備ができたみたいです。

 律くん、行きましょう。」


 ───ピーンポーン

『5階です』


 慣れた様子の叶先生に連れられて、エレベーターで5階まであがる。


「おお…ラボみたい…」


「ふふ、律くんはハンター管理局に来るのは初めてですか?」


「俺は…初めて、です。」


 叶先生の問に、高2の社会科見学がハンター管理局だったことをふと思い出して気まずくなる。


「では、検査がおわったら少し見学していきますか?」


「えっ!いいんですか!」


 昼寝したかった気持ちはどこへやら。

 最先端のハンター管理局への興味に釣られた俺は、目を輝かせて検査の後の見学に心を踊らせた。


「この部屋です。」


 エレベーターから歩いていく道に、ガラス張りや白い扉はあったものの、叶先生の示した扉は鉄格子てつごうしのある2重扉だった。


「えっ…この扉ですか…?」


「すこし仰々しいですよね。魔力暴走に耐えられるように2重になっているだけなので怖くはないですよ。

 ではカプセルの中に横になってください。」


 どうぞ、と誘われるままに部屋に入り示されたカプセルにはいる。


「本当はシュミレーションでハンター活動をしてもらうカプセルですが…

 律くんは最初の検査なので、数値を確認するだけです。」


 叶先生はカプセルのふたを閉めながら説明する。


「フィールドに入ったら、何もせず終わるまで待っていてくれれば大丈夫です。」


 なんだ、それだけでいいのか!


 拍子抜けした俺は安心しきってカプセルに横になった。


 ──────

 ───

 ウィーーン

 ───

『初級フィールドを展開します』

 ───

 ──────


「おおー!」


 広く開けた草原。


 誰もいない、緑と森の広がるフィールド。


「すげぇ…広いな…」


 終わるまで待ってろって言われたっけな。


「そうは言われても何もしないって暇だなあ。」


 探索くらいはしてもいいのか?


「森…気になるな…」


 初心者フィールドと言っていたし、仮想空間だし、魔物は出ないのかもしれない。

 少し探検するくらいなら“何もしない”に入るよな…?


 好奇心に負けた俺は森の奥へと歩を進めた。


 ───ガサッ


「??」


 なにか物音がした気がしてあたりをキョロキョロと見回すが、何も見当たらない。


「気のせいかぁ。」


 ───ガサガサッ


「気のせいか…?」


 ───カサッ

 ───ガサガサ


「気のせいじゃないなッ───!」


 得体の知れない物音に身構みがまえた次の瞬間、赤い目を光らせ、鹿の角をもった犬のようなモノが3匹、俺の前に姿を現した。


「何だコイツらーーー!!」


 囲まれそうになった俺は急いで振り返り、今来た道を走り出す。


「速く!もっと速く!!」


 後ろをチラチラと気にしながら、とにかく全速力で手と足を動かす。


「もっと速く走れ、俺ーーー!!」


 周りの景色がビュンビュンと後ろに通り過ぎる。


 ───あれ、俺引きこもりで体力もないはずなのに。結構走れるな?


 自分の足に自信が出てきた頃、振り切れなかった1匹が俺の背中を目掛けて飛びかかってきた。


「いってぇ!!」


 ヤツの角で頬が切れ、グンッと後ろに体重が傾く。


 仰向あおむけに倒れ込んだ俺に、犬鹿もどきがのしかかってくる。


「やべぇ…」


 え、これ死なないよな??


 てか仮想空間なのに、こんなに痛いのかよ……


 死ぬ?これ、死ぬのか?


「無理無理無理」


 犬鹿もどきが角を大きく振りかぶる。


「死にたくない!やめろ!

 どけぇぇぇえええ!!」


 がむしゃらに動かした手から何か閃光せんこうが走り、あまりの衝撃に俺は意識を手放した。

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