第5話 初めての名前呼び
ある日のバイトでの事。俺が好美先輩と話していた時の事。視線に気づき振り向くと末永が頬を膨らませていた。
「どうした末永」
「⋯⋯何でもない」
「何でもないわけないだろ。話してくれ」
「何でもない!」
そう言って末永は掃除に行ってしまった。俺はどうしたものかと悩んでいると好美先輩が末永の隣まで向かっていった。
「どうしたの愛ちゃん」
「好美先輩だけズルいです。名前で呼ばれて」
「男の子はそういうのに鈍いから直接言わないとわかってくれないよ」
会話は聞き取れないが好美先輩は末永の髪を撫でていた。
× × × ×
バイトが終わり末永と一緒に帰る。今日の事を謝ろうにも原因がわからないのでは意味がない。そう思っていると末永の方から話かけてくれた。
「此崎君今日はごめんね。私嫌な所見せちゃった」
「気にしてない。俺に言いたい事はちゃんと言って欲しい」
俺は素直に末永にそう伝えると末永は真っ直ぐこちらを見つめた。
「此崎君は好美先輩には下の名前で呼んでてそれが私の中でモヤモヤっとしちゃって⋯⋯でもそれを言うのは我儘なんじゃないかって⋯⋯」
俺はそっと末永の髪を撫でた。そこまで思い詰めてたなんて知る由もなかった。
「ごめんな。これからは愛って呼ぶよ」
「でも此崎君には此崎君の呼びやすいように―」
「道長でいい。」
俺はそっと愛の肩を抱き寄せた。愛は俺の胸で泣いていた。
× × × ×
「落ち着いたか?」
「うんありがとう道長君」
「名前で呼ばれるのって良いな。愛」
「本当だね道長君」
俺は愛の柔らかい手を握り手を引く。これからもきっと愛と俺の間にこういうすれ違いみたいなのはきっとやってくる。その度に2人で乗り越えて行けば良いんだ。
「あと道長君1つ良い?」
「何だ愛」
「道長君はずっと私だけ見てて欲しい」
「そんなのあたり前だろ」
そう言うと愛の目から光が消えた。まずい! これは本気の時の目だ!
「道長君⋯⋯ずっと好美先輩のおっぱい見てたよね」
「そ、そんな事⋯⋯」
実は何度か盗み見ていた。それがバレていた事に俺は冷や汗が止まらない。
「男の子がおっぱい好きなのはわかるしたまに私の見てるのも知ってるけど他の女の人のはダメ。良い?」
「⋯⋯はい」
× × × ×
「それじゃあ此崎君。次呼んで下さい」
「えーと⋯⋯」
「もう道長君。ちゃんと授業聞かないとダメだよここからだよ」
「ありがとうな愛」
俺が読もうとすると幸家先生は鼻血を吹き出し黒板にめり込んだ。大丈夫かこの先生⋯⋯
「もう末永さんと此崎君ラブラブだね」
「うん私道長君の事大好き!」
「いいなぁここまでラブラブだといっそ清々しくて逆に見てられるよ」
愛がクラスの女子達と楽しんで話している姿は微笑ましい。中学までの愛からは想像できない進歩だ。
「すっかりオシドリ夫婦だな」
「まだまだ長いよ。所で原田は彼女作らないのか?」
「この前までフラれまくってた男がなーに言ってんだか」
原田からデコピンを貰い額を擦る。幸せな痛みだ。これからも愛と2人で進んで行こう。
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