第4話 初めてのバイト

 この前初めて末永とデートして思った事がある。楽しむにはめちゃくちゃ金がかかる! デートで親からの小遣いとかいうのもダサいしこれはバイトせねばならん! 俺はバイト先をスマホの求人で探していた。コンビニやスーパーもあるがこういう所は急に仕事出てくれと言われるイメージがある。そんな事は言ってられないのだが出来るだけ末永と一緒にいたい。俺の我儘が叶いそうな所はないだろうか。そう思いながらスクロールしていると1つの求人が目に止まる。末永と言ったカフェだ。【喫茶ヒトトキ】。お洒落な雰囲気で何より時給がいい。高校生から募集していたので俺はすぐに電話をした。


 × × × ×


「末永。俺バイトしようと思うんだ」

「バイトするの?」

 末永の表情は曇っていた。何を不安に思うのか気になった俺は聞いて見ることに。すると末永はうつむきながら答える。

「此崎君との時間減っちゃうなと思って⋯⋯」

「そういうとこ可愛いな」

「ふぁ⋯⋯!?」

 俺は末永の頭を撫でると末永は顔を赤くしながら気の抜けた声を出す。

「もうバイトは決まってて明日からなんだ」

「ちょっと待って! もう決まってたの!? どこどこ? 教えて!」

「駄目だ。教えると末永毎日通っちゃうだろ。デートの為に働くのに末永にお金使わせられないよ」

 俺の言葉に末永は頬を膨らませていた。そんな所も可愛い。俺は指でその膨らんだ頬をつついてこの話は終わらせた。


 × × × ×


「此崎君。今日からよろしくね」

 店のマスターの長谷川邦康はせがわくにやすさんは優しい笑顔で迎えてくれた。白髪頭を丁寧に散髪してあり眼鏡をかけた長身のスラッとした見た目は紳士を想起させる。

「さっそくだけど制服だよ」

 渡された制服はスーツの様なお洒落な黒い服でこの店の雰囲気ともマッチしている。

好美このみ、色々と教えて上げなさい」

「はーい。ってこの前店来てたよね君。私は長谷川好美はせがわこのみ。オーナーの孫娘で大学1年生。よろしくね」

 初デートの時接客してくれた女性はオーナーの孫だった。黒い長い髪に長いまつ毛。整った顔立ちが看板娘である事がわかる。

「よろしくお願いします!」

「そう硬くならなくていいから。長谷川だと2人ともになっちゃうから好美先輩でいいからね」

「はい好美先輩! よろしくお願いします!」

「まだ緊張してるみたいだね」

 好美先輩はぽんと肩を叩き緊張を解そうとしてくれた。


 × × × ×


 仕事の内容は注文を取ってマスターに伝える。そして出来上がった物をテーブルに運ぶ。それ以外は掃除や豆挽きなどの雑務のようだ。

「此崎君さっそく注文取って見ようか」

 好美先輩の仕事を観察してある程度学んだ。接客という仕事をいざする。俺は注文を取るためにテーブルに行く。お客様はサングラスに室内というのに帽子を被っておりなおかつマスクをつけた怪しい女。そして髪は桃色だった。

「⋯⋯何やってんだ末永。後何でここがバイト先だってわかったんだよ」

「な、何の事ですか? 存じ上げませんね。紅茶とケーキをお願いします」

「⋯⋯かしこまりました」

 あくまでシラを切るつもりらしい。俺はキッチンに戻りマスターに注文を伝えた。すると好美先輩が耳打ちしてくる。

「あれこの前一緒に来てた彼女さんだよね? 何で変装してるの?」

「多分気になって見に来たんだと思います」

「可愛いとこあるじゃない。じゃあちゃんと届けてあげないとね」

 そんなやり取りをしていると急に寒気がした。振り向くと末永がサングラス越しにこちらを睨んでいた。サングラスがなかったらどんな目をしていたのか。変装してくれていたのは不幸中の幸いだったかもしれない。


 それから注文を末永に届けると2人組の女性客が入店してきた。時間帯的に大学生くらいだろうか。

「お兄さん注文お願いしまーす」

「はい今うかがいます」

「これとこれ。後コーヒーにはミルク付けて」

「かしこまりました」

「お兄さん見ない顔だけど新人さん? 制服似合っててかっこいいよ」

「ありがとうございます」

 褒められると悪い気はしない。歳上のお姉さんだからお世辞かもしれないが自信はつく。注文を伝えようとした時、末永のテーブルを横切るとサングラスから眼光が漏れていた。胃がきりりと痛む。


 × × × ×


「マスター。相談があるんですけど」

「なんだい?」

 マスターはにこりと俺の言葉を待ってくれた。正直俺が今からするお願いはマスターにとってはいい話じゃないだろう。だが俺のバイトライフを考えるとする事は決まっていた。

「あの変装してた女の子、あれ俺の彼女なんです。ちょっと嫉妬深い所もあって。だからマスター俺の彼女も一緒に働かせてもらえませんか?」

 俺は深々と頭を下げた。するとマスターは肩に手を置き顔を上げる様にと促した。

「君の気持ちはわかった。いいよ」

「ありがとうございます!」

「と、言うより既に君の彼女は内定しているよ」

「え?」

「君が面接終わった後すぐに私の所に来て私と此崎君2人共採用して下さいと頭を下げてきた」

 末永はそこまでしていたのか。⋯⋯あれ? 末永にはバイトの面接日はおろかどこに受けに行くとも言った覚えはないんだが。気づいてしまうとゾッとしそうなので俺は何も考えない事にした。


 × × × ×


「今日からここで働かせていただく末永愛です。よろしくお願いします」

「愛ちゃんめっちゃ可愛い! 女の子いなかったから私寂しかったのー!」

 好美先輩は制服に着替えた末永に抱きついて頭を撫でて可愛いがっていた。それにしてもマスターの懐の深さには感謝しなければいけない。

「それじゃあこれからよろしく頼むよ新人さん達」

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