第19話 はやく帰りたい
「よっ、お久」
知らない人だったので無視することにした。
そう、俺は今協会に来ている。何やら、俺がサインしなくてはならない書類があるとかないとか。代わりにサインしといてくれって頼んだのだが、何故か説教が続行したのだ。
「おーい。聞こえてるよな! おーい!」
しかし、いつ来てもこの協会は広い。知らない人間が俺に話しかけてくるくらいに人も多い。
肩をパンと叩かれた。反射的に彼を投げ飛ばしてしまう。つい反射的にしてしまったが、なかなかの威力だったのか床にめり込ませてしまった。悪い悪い。
あ、でも受け身はしっかり取っている。これはできるやつだな。
「えーっと大丈夫か?」
「なわけあるか! いきなりなんだよ! お前! 友達だろ? な?」
「友達?」
「ほら俺だよ俺。健三郎」
こいつが名前を名乗った瞬間周りがさらにざわつき始める。だが、一ついいか? 誰?
「はっははは。お前らしいな! ピンときてないな?」
その通りなので頷いておく。俺には馴れ馴れしいヒゲ面にしか見えない。こんなにキャラ濃いなら覚えててもおかしくないんだがなぁ……。全く、心当たりがないはずだ。
「それじゃあ」
「おいおいおい! 待てよ!」
「まだ何か?」
「もうちょっと頑張ってくれよ! 俺だぜ? な?」
「俺用事あるんでそれじゃ」
「ツレねぇな……」
あれは関わったらダメな人なのだろう。
そうか! あれだ、オレオレ詐欺とかやつだ。なるほどな。だから、心当たりがなかったのか。納得してスッキリ。しっかし、詐欺が流行しているもんなんかね。
◇◇◇
そして、俺は協会の奥に通された。VIPルームとか言うやつらしい。まだ、俺を呼んだ人は来ていなかった。
ふかふかなソファーがあったのでそこに腰を下ろすと沈んでいくではないか。
すると、ドアをコンコンと叩く音がしたので「どうぞ」と言って中に入れた。
入ってきたのは、髪と髭が白いなんか強そうな爺ちゃんにえっと………ここまでは出かかってるんだけど、えっーとな、そうそう赤山さんだった。
「あー、なんだ。琴奈くんここに呼ばれた理由はわかるかな?」
「わからん」
わからないことはしっかり「わかりません」と口にできる系なので、自信を持ってこたえてみた。
すると赤山さんは頭が痛そうにこめかみを抑える。
「琴奈くん! 書いてほしい書類があるって言ったでしょ!? あと、敬語くらい使って!」
「あー」
そう言えば、そうだった。あの印象強めな人のせいで忘れてしまっていた。
「赤月くん、いいさ。彼に敬語は似合わないだろう」
「……会長………はぁ。わかりました。琴奈くん、これ読んでから大丈夫そうならそのままサインしてね。今日の日付と名前だけでいいから。あ、でも少し質問みたいな項目もあるからこたえれるところはこたえてくれるとありがたいかな」
あー、赤月さんだったか。惜しいな。
そんな赤月さんから書類を渡される。どうやら、俺の配信で師匠が話していたことをまとめているらしい。それと十二凶星がいたダンジョンの有無についてのあれこれ。正直、俺に質問されても困ることばかり。
「ここ、正直、俺もよくわかってないんだけど……」
「そうか……。すまないね。私達も知らない情報ばかりで困惑してたみたいだね。もう大丈夫だよ。あ、そうそう話は変わるんだが、君のランキングも上がってるようだから見ておくといいよ」
「琴奈くん、どうぞ」
そう言われて、タブレットを渡された。どうやら協会内専用の情報らしい。なんか知らない人の名前がいろいろ書いてあって横に数字が書いてある。
正直、前が何位とかも知らないからどれだけ上がってるのかもわからん。
しばらく探していると俺のフルネームが書いてあった。
「……78」
「……え?」
「確認したようだね。琴奈くんははれて上位勢と呼ばれてるようになったわけだがね、君の情報をホームページに載せてもいいかい?」
「まぁ、別に」
「ありがとう。それと載せる名前はどうした方がいいかね?」
「別に、なんでも……いや」
次の瞬間、俺の頭には翔太、由香、そして妹の莉愛から散々言われてきたことがこだまし始める。
『琴奈(お兄ちゃん)、もっと考えろ!(考えて!)』
そんな言葉を思い出し、やはり慎重に考えるべきかと考え直すことにした。しかし、この場で決めてしまいたいわけだが、そうそう思いつくわけでもないしな。
「決めづらいのなら、君のチャンネル名とかでもいいんじゃないかい?」
「会長、さすがにあんなチャンネル名なんて……」
「そうだな。とっとこクラブで行こう」
「承知した。そう登録しておくよ」
「会長!?」
「まぁまぁ、赤月くん。さて、琴奈くん今日はありがとう。もう用事は済んだから帰ってもらって構わないよ」
「では」
「はや」
俺は光の如くスピードで帰路についた。
正直、疲れた。身体というよりかは精神的にだろう。慣れないことはするべきではないな。やはり、何も考えずに体を動かすに限る。
帰る際に、もう一度ギルド内を通ったが先程のヒゲの人はいなかった。まぁ、あの人とはまた会えそうな気もするから今はいいだろう。
◇◇◇
その頃、協会では
「会長、78位って流石に彼の実力的にも低すぎませんか?」
「まぁ、そう思うかもしれないがね。師匠くんが言っていたことの信憑性だとか真偽もわかってはいないからね。あと、彼はあまり素材とか持ってきてくれないから……。それを加味してもなかなかに高いとは私としては思うんだがね」
「そうでしたか。そう言えば、実力はあるんでしょうが実績の方がまだ足りていないんでしたね。しかし、協会に反発とかでないんでしょうか。彼のファンとかの」
「まぁ、そこはおいおい対応していくつもりだよ。ちなみにだが78位と聞いて気づくことはあるかい?」
「またですか……。そうですね、スーさんがどう動くかでしょうか」
「はは。スーくんは少々変わり者だからね。どうなるかみものではあるさ」
「全く、人ごとなんですから……」
さらに疲れたような顔をした赤月さんとどこか楽しそうな会長は部屋を出て廊下を歩いていく。その間も他愛もない会話は続いていた。
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