第18話 たんこぶにたんこぶを積み重ねて
「例えば 花の匂いに ふふーふ♪」
何やら師匠は鼻歌を歌っているらしい。何の曲だろうか。と気にはなったが、聞くのはめんどくさかったので聞かなかった。
「師匠、終わったぞ」
「ほれ」
師匠にタオルを貰う。かなり運動したため汗の量もすごい。タオルで拭くのもいいが風呂に入ってさっぱりしたいな。にしてもふかふかしていて、おまけに少し暖かい。まるで晴れた日に一日中干してあったタオルのよう。
「何かあったのか?」
「何が?」
「うむ。7階層では少し焦っておったようにも感じてな」
「あー。油断してた」
「珍しいな」
「いや、考えごとしててな」
「ん? 考えごととな?」
「あぁ。魔法の事言ってただろ。俺にもできるかと思ったんだがな」
「………ふむ。そう言えば、ここではまともな魔法はないのであったな」
「そうそう。ダンジョンがあるわけだからな、一度は憧れるもんだろ」
「では、まともな方な魔法が使えるとしたら?」
「まじか!」
「待て待て! 食いつきが良すぎじゃ!」
そりゃあ、魔法は男なら誰もが一度は憧れるもんだと確信してる。あんな厨二心をくすぐるものはそうない。
おまけに今の世の中は使えそうで使えないと来たわけだ。そうなれば必然的にも盲目的にも憧れは高くなっていく。
俺も俺で憧れてはいるが今は単純な暴力の方がわかりやすくて楽しい。
「あー! いたー!」
声がした方を見ると女性が立っていた。誰だろうか。もしや、ファンとか言うやつだろうか。俺も観ている人が増えてきたからな。これも仕方あるまい。握手でもしてあげようか。
「はい」
「?」
「?」
「握手したいんだろ?」
「は?」
違ったのか?
少々、人気者になったと自惚れていたかもしれないな。にしても、恥ずかしい。
「ほら私よ! 私!」
「誰?」
こんな女性いただろうか。
唸れ俺の灰色の脳細胞………ダメだ。全くわからない。これあれだ。詐欺だ。関わっちゃダメなやつ。
「ふむ? あー、あの時の女子ではないか」
「師匠知ってるのか?」
「わし自身とは初めましてじゃがな。弟子はあっておるはずだぞ」
????
わからないので、女性の顔をじっくりと見つめてみる。いろいろな角度から見てみる。
すると頬を赤らめて手で顔を隠される。
「そ、そんなに見つめないで……恥ずかしい」
「申し訳ないけど、わからない」
「ふむ……これは少々、お主が可哀想になってくるな
「……あはは……想定はしてたんですが、実際に言われるとくるものがありますね」
悲しそうな顔をされたので、流石に俺の良心にもくるものもあるがわからないものは仕方ない。なので、ここはわからないならわからないなりの行動を取るべきだろう。
「名前を教えてくれ」
「……わかりました。赤月あきの。配信ではあきのんって呼ばれてるよ」
「あー」
もちろんわからない。が、聞いた手前、知らないじゃ済まない気がする。ならばここは知っている体で通すべきなんだろう。
「これはわかっておらぬな。して、わしはわかるぞ。あきのんじゃな」
「…あはは………。でも、お師匠さまに覚えて貰えてるなんて光栄です!」
「弟子よ。失礼ではないか? てい」
頭を下げるようにジェスチャーされたので下げたらチョップしてくる。さすがの師匠なので威力が高い。たんこぶにたんこぶが積み重なっていってないか多少の不安にかられたが、この罰は甘んじて受け入れよう。
「えっと、お師匠さま何をやられているのですか?」
「うむ。殴打療法じゃよ。叩けば記憶が戻るやもしれぬと思ってな」
「師匠、人間は叩いても治らないんだぜ」
「ふむ。そうか」
大人しく引き下がってくれた。まだまだ頭は痛いが辞めてくれただけマシだろう。
そして、あきのんとやらは若干引いていた。
しかし、罰ではなく俺のことを思ってのことだったのか。なんだかんだで師匠は優しいからな。ありがたや。
「して、お主はどうしてここに?」
「お師匠さまととっとこくんの声が聞こえましてね。念の為探しに。もちろん、今日は配信もしてないので安心してください」
「とっとこくん?」
「あなたの名前わかんないからだよ!」
「????」
「そう言えば、弟子は名乗っておらんかったのう。名前」
言われてみれば名前言ってなかったような?
てかとっとこくんって何?
「もう、あなたのチャンネル『とっとこクラブ』でしょ?」
「あー」
そう言えばそんな名前にしてたな。言われて思いだすあれ。あるよねー。
てか、考えてること読まれたような?
「はいこれ」
「何これ?」
「連絡先。今、言いにくいんだったら後で教えてね」
「そっか」
「忘れないでね」
「あぁ、覚えてたら」
「あー、もう! スマホだして!」
「何で?」
「絶対しないから」
「えー、するさ……覚えてたら……」
さすがの俺でも………しないか。仕方ないのでスマホを渡す。暗証番号も聞かれたので教えたら何やらポチポチ操作される。あれ? 暗証番号知られたような?
しばらくしてスマホを返してくれた。
「琴奈って言うんだ。ふーん」
あれ?
教えてないのに知られた。なんかドンドン個人情報抜かれていくな。
「じゃあ、私はこれでまたね。琴奈くん。お師匠さま」
「うむ。またな」
「じゃあな」
そう言ってまたダンジョンの奥に消えていった。本当に嵐のようなやつだった。
しかし、誰だったんだ?
◇◇◇
その頃のあきのんは……
「お師匠さま初めて生で観たけど神々しすぎ! 敬語思わず使っちゃったけど、年下なのよね」
本当不思議ちゃんだったなって改めて考えて見ても思う。それに加えて、作り物かと思うほどの整った顔、スタイル。そして、その堂々たる雰囲気。なのにそれが自然なんだと思わせるような女の子だった。
それにしても何なの琴奈は!
もう心の中では呼び捨てしちゃってもいいもんねー!
「何で覚えてないのよ! でも、まぁ……名前も聞けたし……見つめあったし……連絡先聞けたし……まぁ、悪くないかもね。えへへ」
――――――――――――――――――
久しぶりに書いていますので、設定食い違ってたら指摘していただくとありがたいです。
ちなみにお師匠さまが口ずさんでいた歌わかる方はいますかね?
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