第3話 café 『紫庵』とは

 café「紫庵」は、銀座の端の立地に去年オープンさせた、親父曰く、「税金対策だ」らしいが、大っぴらに、こんな税金対策しても、国税局に目をつけられるだけだ。多分、趣味の一端とは思ったが、いや、親父の夢の一端なのかもしれない。

 俺らの親父は、中学卒業後、父親(俺ら兄妹の祖父)から勘当され、ド田舎から、それこそ裸一貫で上京してきた。そしてすぐに、バーテンダーの世界に入った、中卒の小僧など生きていくのも大変だろうが、「捨てる神、あれば拾う神あり」飛び込みで「働かせてください!なんでもします」と銀座の古いbarにお願いをした、老マスターは、深く理由は聞かず「じゃあ、下働き・雑用を頼むかの……」と、「は、はいなんでも申し付けてください!」なんと中卒の小僧を雇ってくれた。とにかく、ド田舎で成長した親父にとって、憧れだったらしい、白のウイングシャツにネクタイ、カマーベストを羽織り、黒のスラックスにギャルソンエプロンを身に着け、御客さまの、好みのカクテルを伺い、シェーカーを振る……

 老マスターこと「白羽しらは 和彦かずひこ」銀座界隈では、有名なバーテンダーだったそうだ、7年が経ち、親父はマスターの隣でシェイカーを振ることを許されていた。会話・所作・知識、マスターに、みっちり仕込まれた。親父は、それが誇らしく、カウンターに立っていた。

 そんなある日、街で『ある男』に会った。地元の友達だった、名は「三条 京介」地元の名家だ

「え⁉ユキノン(雪之丞)⁉何してんの銀座で⁉」

「そりゃこっちのセリフだよ、京ちゃん……」

彼は今、超大手の証券会社で働いていた、お互いの近況を報告し合った

「ぃや~、まさか、ユキノンが勘当されてたとか、マジうけんだけど、中卒とか名家の嫡男として箔がついたな!はは」

「……笑い事じゃなかったぞ、まじで……廃嫡されそうになったし……」

「じゃあ、笑い事じゃない話をしようか……」

「え、なんだよ京ちゃん?」

「うちの会社に来ないか?」

「はぁ⁉俺は中卒だぞ⁉お前の会社は大企業、有名で、しかも、偏差値の高い大学の卒業者しか雇用しないのが有名なのに」

「僕は、東大を出て、いま現在、この会社の最先頭を突っ走っている。各方面の成績もトップだ。他の先輩なんか害虫を踏み潰す勢いでな、むしろ牛耳ってやるつもりだ……で、今日、ユキノンに出会えたのは、天啓だと確信している」

「そんな大げさな……」

「いや、決して買いかぶりではないぞ、ユキノンは、小学校・中学校も数学・社会経済について、全生徒ぶち抜いて凄かった!それは確信してる、……ま、たしかに素行は悪かったよね……」

「……いや、京ちゃんも、つるんでたやろ……」

「まあ、考えといてよ、入社については、上司は黙らすし、先輩とか、文句言ってきたら、『潰す』からさ、はは」

(普通にこいつ物騒なこと言うな……まぁ昔からか……)

京介と、さよならし、さてどうしたもんだと、考える。

(父といえるマスターに、どう伝えたものか……)

その日の営業を終えた後、親父は、マスターに話があると伝え、向かい合っていた、いざ向かい合うと、なかなか言い出し辛い……するとマスターは、

「雪ノは、自分の好きなようにしなさい……」

見透かされていた……!いやこの人に隠し事など通じない、そして親父は、京介さんとのやり取りを、一言一句隠さず話した。マスターは、

「良い話ではないか。御受けしなさい、彼のいう『天啓』……言い得て妙だね……雪ノ、君が此処に辿り着いたのも、そうかもね、ふふ、雪ノ……人は出会いが大切だよ、ここの店に来て7年、barというのは、人との懸け橋、君は十二分に悟っているはずだ。雪ノの才を信じ、これだけのお膳立てしてくれた京介君を頼りなさい、私が雪ノなら、すぐに飛びつくよ、はは」

「マスター……」

「お店は大丈夫だよ、雪ノの厳しい指導のお陰で後輩の三人も、次のバーテンダーとして控えてるから」

「ありがとう……ございます……。マスター、お世話になりました。必ず結果をお見せします……」その時、父は堪えようした涙が、溢れて止まらなかったらしい……


  

そうして親父は京介さんの会社に入社、最初は、中卒ということを馬鹿にする者も大多数はいたが、仕事の成績で、京介以外のすべての者達を黙らせた。

そして独立し、FXトレーダーとして自身の地位、財産、名誉を確立した。

そんな折、三年前、マスターが亡くなった、心不全だった、マスターは最後まで現役を貫いたのだ、

親父は、居抜き物件となるその店舗を、間髪入れず「買い上げた」。

内装は、変え過ぎないように修繕し、二年後、息子・娘が働く場として、準備した。

そして去年、café『紫庵』をオープンさせた。

しかしcaféで、デュアル・プリンスと、ルナ・エメジストの三名が給仕とあっては、学校の生徒はおろか、他校の生徒も、波のように押し寄せることは明白だ。親父はこのcaféを通じて、色々な職業の「大人」達と会話しコネクションを築いてもらいたいらしい、それと同じく、元バーテンダーの親父で、このcaféのオーナーは、このお店を最も愛する者、大人の紳士淑女がいらっしゃるのに、学生がたむろしては、「大人」が寛げない。そこで親父は剛腕を振るった、

「風営法二号」の許可を取得、これにより、未成年の入店は出来ない。ただ働く側の三名の兄妹にも、その問題はあるが、そこでも親父が剛腕を振るった、三人を、「高校生じゃない18歳」という『設定』に作り上げた……どうやったかは、あえて聞いていない。学校の理事会には、お金と、お金とは別の権力を行使し、黙らせたみたいだ。

caféの営業は、前半はAM11:30~PM13:00で紫陽たちが出るのはPM5:00~PM9:00である。前半戦は、ランチでのお迎えなので、料理は、総料理長の門脇と弟子、スイーツは、専属パティシエ「兜塚 春樹」が担当、ドリンクとホール兼支配人は、「櫻井 慶」が担当する。店のキャパシティーはカウンター10席、四人掛けテーブル三席である、狭い店ではないが、ベテラン三人いれば、余裕でまわせるのだ。もし、このお店が無ければ彼らは屋敷で暇を持て合わせてしまうので、楽しいのだ。ランチのメニューは基本、その日のおすすめで、お客様の苦手なものやアレルギーに関しては、バッチリ対応する。SNSでも、ここのランチは好評である。

 

そして学校では……放課後を迎えていた。紫陽は(さて、と、café向かうか、今日は誰がいらっしゃるかな?)

すると、女子、五名ほどに囲まれた

「紫陽様、これから『紫庵』に向かわれるのですね……私たちも、早く『紫庵』で紫陽様の、御淹れになった珈琲を頂きとう御座います」

「ですわね」

「はは、皆さん卒業されたら、どうぞご来店お待ちしてますよ」

紫陽が、ニコリとすると、女子達は目じりが下がり、へにゃりとしていた。

……と、そこに紫苑が、

「ねえ紫陽、……ってモテモテ男だねえ、くく」

「って紫苑!からかうな、って、たく……」

デュアル・プリンスがそろい、教室の空気が変わる、

「あ~、ふたりの掛け合い、尊い……、」

「なんか美しくて、すごいね……」

そこにリーサルウェポンが登場した……

「紫陽お兄様、紫苑お兄様、早く行きましょう」

ルナ・エメジスト=月銀の紫翠姫が、いきなり現れた。教室の熱量は最高潮に達した……(おい、おまえら、さっさと行くぞ、三人集まるのは、なんか……、ヤバい)

「はは、そうだね」

「?、なにがあったのです?」

「……まあ、あとで話すよ」

なんて華麗な兄妹ですの、や、もっとお近づきになりたいですわ、や、姫と話したいけど、あんな神な御兄様二人も、いたら無理だよ……等々……まあ今に始まったことではないが、なんかすごい存在にされてる感がある。こちらとしては、対等な交友関係を結びたいのになあ……と思いつつ。とはいえ、三人揃ったときに感じる周りからの羨望の視線はすごかった。とはいえ、『お勤め』のために「紫庵」に三人で向かった。








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