灯す明かりの冷えた花
宮乃なの
二人の時間
第1話 出会い
放課後、人の少ない図書室で私――
この図書室は本当に人が少ない。私を含めて三人ぐらいしかこの空間にいない。静かで読書に集中できるとてもいい環境。それに一定間隔で聞こえてくる野球部のカキーンという音が心地よい。
そんな中、私が読んでる本はライトノベルだ。こういう時は文学小説とか読んでいるのが定番の流れかもしれないが、私は文学ものが好きな文学少女ではない。別に嫌いというわけではないが進んで読もうとは思わない。
私は一ページ、また一ページと読み進めていく。この本のジャンルはラブコメというより恋愛系で百合。
主人公の女の子は前の席の子と関わっていくうちにその子のことを好きになってしまう。好きって伝えること勇気がない女の子はその子と交換日記をすることにした。その交換日記で暗号のような言葉で自分の気持ちを紡いでいく、そんな内容。
今まで百合というものがあまり好きではなかった、というより存在を知らなかった。ライトノベルだって読まなかったし、そもそも本自体に興味がなかった。
じゃあ、なんで今私がライトノベル嗜むようになっているのか。そんな疑問が湧いて来るかと思う。
それは隣りに座っているセミロングの黒い髪を靡かせている女の子、
柳木さんはどこか周りの人達と違う。クールというか人を寄せ付けないというかなんというか、孤高の女王みたいな人だ。身長は私と同じくらい小さいけど。
そんな彼女と関わるようになったのは今から一週間前のこと。
私はその時、今日と同じように図書室に足を運んでいた。特段読みたい本があったわけではないけど、どうしても行きたくなってしまった。図書室自体は授業中に図書室の利用についてのガイダンスで一度来ている。
図書室に入ると、いるのは数名だけでほとんどいない。シーンと静寂に包まれていて落ち着いている。私はそんな図書室をこの一瞬で好きになってしまった。
なんでこの数週間図書室に一度もいかなかったんだろ。こんなにも素敵な空間だと知ってたら毎日行ってたのに……でも、今日こうして知ることが出来たからこんなことを思うことができる。気にしてたって仕方がないから、とりあえず本でも読もうかな。
……普段読書とかしないから何を読んだらいいのかわかんない。だ、誰かに聞いてみても大丈夫かな。
図書室にいる人達を見てみるが、ほとんどが二年生、三年生の先輩しかいない。正直言って話しかけることなんて不可能に近いレベル。唯一私と同じ一年生は私の前の席の柳木冷花さん。常に一人で過ごして誰かと関わっているところを見たことがない。
ど、どうしよう。話しかけにくいけど話しかけやすいの柳木さんしかいない。常に一人で過ごしているのは私と同じだけどきっと彼女は好きで一人で過ごしているタイプの人間。友達を作るのに失敗した私とは根本的に違うのだ。
だから、話しかけたら逆に相手に失礼をかけてしまう――
「あ、あの……私ここ来るの初めてで何読んだらいいのかわからなくて……え、えっと……」
気づいたら私は柳木さんに近づいて話しかけていた。顔から冷や汗が出始めているのを密かに感じる。
目の前の柳木さんは黙ったまま私の顔を見つめてくる。彼女の表情は決して呆れているわけではなく、どこか真剣というか……。
柳木さんは少しを視線をそらしてため息を付き、読んでいた本を閉じて私にそのまま渡してくる。
「あなたは確か柳瀬灯さん?だったらこの本、私のお気に入り。きっとあなたも気にいると思う」
「あ、ありがとうございましゅっ……!?」
緊張のせいか思いっきり舌を噛んでしまった。な、なんで私はこういう場面で毎回舌を噛んじゃうの。普通に恥ずかしいからいい加減舌を噛まないようしたい。
でも、当分の間はきっと無理だ。話す友達が誰一人としていないから。柳木さんが友達になってくれたらいいんだけど、多分無理。
私は余計なことを考えながらも椅子に座る。椅子に座る私と同時に柳木さんは席を立ち上がり、私の隣に座ってくる。
な、なんでいちいち隣に……?
「どうしたの。私のことなんて気にしないで早く読んだら」
「は、はい」
柳木さんの有無を言わさぬ圧に圧倒されて怯んでしまった。こんな自分が情けないと思うけど、こんな綺麗な人が隣にいるのはなんというか役満……いや、役得?
私はとにかく表紙を捲る。捲って出てきたのは女の子と女の子が半裸になってキスをしているカラーイラスト。それを目にした瞬間には表紙をそっと閉じて柳木に渡していた。
「こ、ここここれ!?」
「ん?知ってて私におすすめの本を聞いてきたんじゃないの?」
「ち、ちがいます……本って何読めばいいのか何もわからなかったから……」
私がそう言うと、柳木さんは顎に手を当てて考える仕草をしだした。真剣そうな表情で考え事をしている柳木さんはなんというか映える。うん、とても映える。身長は私とさほど変わらないのにどうしてこんなにも綺麗で凛々しくて可愛いのかな。それに比べて私は顔も身体も普通だし、胸は……うん、変わんなさそうで安心。
「ねえ、失礼なこと考えてない?」
「そ、そそそそんなこと考えてないですよ!?ただお胸のほうが凛々しくて可愛いなって……っ?!」
「そ、そう……?柳瀬さんも……そ、その素敵だと思う」
私は一体何を言っているんだ。完全に柳木さんに気を使わせてしまった。恥ずかしすぎて顔を隠したくなってしまうけど、そんなことどうでもよくなってくるくらいのこと――柳木さんが戸惑いながらも照れて髪の毛をくるくるといじる姿が私の視界に映った。
鼓動が早く、胸がソワソワし始めている。深くて暗い、なのに浅くて明るい。なんと言えばいいのかわからない感情が私の中で渦を巻くように存在を強調している。こんな気持ち抱いたことないのに。
お互いが気恥ずかしくなってしまっているせいで何も会話がない。図書室だから喋らないのが普通かもしれない。しれないけど、この静かさは空気感が明らかに違う。私の失言とも言える不可解な言動のせい。
この沈黙を作り出してしまった私を恨んでしまう。
「……話したいことがあるの。ここだと迷惑をかけてしまうから場所を移動してもいい?」
「は、はい……わかりました」
彼女はどこか暗くて重い表情を浮かべていた。それが声にも出ていたから尚更断ることわけにはいかなかった。
私は柳木さんに手をひかれるがままに図書室を後にした。
「そ、それで……話したいことって」
「わ、私と友だちになってほしい……」
私達以外に誰もいない教室の中で柳木さんはそう言う。図書室での重苦しい表情を見てしまっていたせいで少しばかし拍子抜けをしてしまう。
「別にいいけど……私の方こそいいの?」
「……!良いに決まってる!」
「ひゃっ!?ち、ちかい……」
私の手を両手で包み込みながら控えめに興奮している。勢いのままに柳木さんとのの距離が一気に縮まっている。美人の綺麗で美しい顔が至近距離にあるせいで今にでも浄化されて灰になってしまいそうだ。
友達できてこんなにも喜ぶものなのかな。誰しも友達なんて一人や二人はいたことはあるはず。まあ、高校に入学してからの私は周りの空気感に馴染めなくて一切友達なんて出来なかったけど。あれ、これは私も柳木さん同様に喜ぶべきなのでは。
「苦節十五年、お母様、お父様……私は今日始めて友達ができました……!」
「っ……!柳木さん、やりたいことがあったら私に何でも言ってね……」
不意打ち気味に柳木さんから出された言葉のストレートに私は思わずそう彼女になげかけていた。
「じゃあ……!両親に報告したいから私の家に来てもらってもいい?」
「い、いきなり!?」
「だ、だめだった……?」
「っ……!だ、だめじゃないでしゅっ」
柳木さんの悲しそうな表情に私はいとも容易く押されてしまった。うん、無理だよ。今までに友達がいなかったという言動をされてしまったら、とてもじゃないけど断ることなんて出来ない。
私友達の家に行ったことないけど大丈夫だよね。
そのあと、私は柳木さんの部屋でみっちりと百合の素晴らしさをこの身に教えられてしまった。
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