第2話
私の発言に、部屋の空気は膨張し、爆発した。人々のざわめきが、思いが強く外にあふれ出る。王様はレイアのほうを見ている。耳が赤いのは恥か、怒りのどちらであろうか。
「どうして……。君は呪いが分かる?」
王様が私を見ずにそう聞いてきた。本当に私に投げかけたのか怪しかったので、王子の様子を見る。顔を少し動かしてこちらを見たので、私は話した。
「呪いを使用する際に、光ったりとか、においとか、何かしら使ってますよってわかるじゃないですか。」
最初に会った勇者ご一行の一人も、私に呪いを使っているときに、媒体としている杖から光が出ていた。私は最初、女神の加護が、どういった特色を出しているのかわからなかった。でも今日この場ではっきりとわかる。この国にミレイルさんの呪いはかかっていない。この国はレイアの布で守られている。
「むしろ賢者という肩書はそのためでは? 知らずしてどうして彼を賢者に?」
今度は私がそう投げかけると、王様は口をつぐんだ。理由もなしにただの青年を賢者にするとは思えない。あんなに差別化された家にも住まわせて、この人間は何がしたいのだろうか。
「つまりこの国は女神の加護がいらない。ということか。」
王子さんが私にそう聞いたのでうなずく。
「女神の加護以外に。魔王から逃れられるはずはない。」
髭の人がそうこぼす。どうしてそんなに嫌がることなのだろうか。新しい突破口が見つかった。やったね。じゃダメなのだろうか。部屋のざわめきが、なんだかよくない方向に向かっている気がする。
「ミレイル殿が女神様の生まれ変わりなら。あの男こそ魔王なのではないの?」
誰かの声が響いた。あの男とは私のことだろうか。
「ミレイル様を賢者様に奪われたくないのでは?」
私結婚している。女神とか魔王とかと違って、愛するあなたと結婚した。私の見た目がこんなんだから、とやかく言われるのだろうけれど、私からしたら。私の感覚が、一つ大きな確信をもって告げている。でもそれを言って、ここにいる人間が助かるか? 助からないだろう。レイアの呪いは外に効くものだ。中には効かない。でもレイアはなぜこれを中に入れた。普通なら逸らされるはずなのに。
「そなた。我が息子に連れられてきたが。何者か。」
王様が私にそう問いかけた。王の後ろに控えていた者たちが、私ににじり寄る。死ぬことはないので怖くはない。でもここで選択肢を間違えばレイアが。
「我が息子よ。このものは何者だ。」
まずい。王が何も知らずに、私を連れだすだけ連れ出した王子に聞き始めた。ミレイルさんの様子は、やっぱり髪の毛のせいで分からない。レイアはずっと布の下で感情が死んでいる。
私はこの国が嫌いじゃない。彼女と食べたキャベツがおいしかったこと。久しぶりにパンの焼けるにおいをかいだこと。あなたがよくきていた服を見かけたこと。そのすべてをもう一度教えてくれたのは、この国とレイアだ。だからできれば終わらせたくない。
にじり寄っていた人から、剣を奪い取った。王と王子、そして賢者とミレイルさんを守るために、後ろへ下げられ、人々も壁際に逃げた。私は剣を振りかざし、己の胸へ突き刺した。悲鳴が上がる。私は突き刺した剣を抜いて、床に落とした。
「私は。私だ。それ以外何物でもない。」
床に落ちた剣や、白い服に血が付いていないことにいつ気が付くだろうか。まだ私を魔王というのなら、話を聞いていないか信じていないかだが、ここにいる必要はない。レイアがしたくもない婚姻を壊せれば、それで十分だ。
「賢者と添い遂げたければ。私を殺せ。殺せなければ国へ帰ってもらう。」
どんな暴力も、どんな呪いをもってしても、私は殺せない。
場の空気が私の手中にある中、ミレイルさんが私の前に立った。私が落とした剣を重そうに持ち上げ、私の前に突き出す。何か呪いをかけて、剣に黒い光がまとった。やはりそうなのだと彼女の顔を見れば、麗しい顔は消え失せ、見たこともない男の顔になっていた。虚ろな目に血色の悪い肌、顔のところどころにしわが入っている。
黒い光をまとった剣が私の首を切りつけた。首が一度離れて、またくっついた。呪いの種類が分かって頭を悩ませるが、目の前にいるそれはたいそう驚いていた。
「お前。人の体を媒介に寄生するのか。そうして黒くした呪いを部分ごとに弱めて。女神のふりね。ずいぶんとおいたがすぎるんじゃないか。」
「お前は。本当に。」
「世界を元に戻せクソガキ。」
彼の頭をつかみ、私の爪を食い込ませる。彼の顔は歪み、苦しさを訴えていたが、急に笑い出した。
「このわたしの力は! こんなものではない! いずれ滅ぼしに来るだろう!」
そういうな否や、彼は紙を燃やしたように姿を消した。
彼が姿を消した後、会場内は騒然となった。十八年もの間、女神の生まれ変わりと言われた人が魔王の一部だったのだから。それはそうなるだろうと思う。私は未だ座っているレイアのもとへ駆け寄った。そうして一番疑問だったことを聞く。
「あれがダメなものってわかっていたよね? どうして中に入れたの。」
「趣味。」
その日初めて、レイアが三日月のように笑った。
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