第28話『襲撃者』
湯から上がった俺とリペルは、宿で用意された和服に袖を通した。
藍一色でできた男物、紫と黄色の柄の女物。初めて着たが、動きやすい服だ。
「へへ……どうっすか? 似合ってるっすかね?」
「ああ。うん。似合ってるぞ」
「……嬉しいっす」
笑い合う。だが、俺の心の奥底には小さな――小さな、嫌な予感があった。
「リペル。今日は同じ部屋で寝ないか」
「えっ!? ……あ、あの、ま、まだ私には心の準備が……!」
リペルは顔を赤くしながら、声を裏返らせる。
「なんか俺の六感がな――まあ、俺と一緒の部屋が嫌なら」
「あ、いや! わ、私は大丈夫っす! 準備できてるっす! 問題ないっす!」
「ん。わかった」
こうしてリペルは、俺と一緒の部屋に寝ることになった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
深夜。二時を超えた程度だろうか。
松明が消え、月光だけが部屋を照らす。リペルはぐっすりと、床に敷かれた布団の上で眠っていた。
俺はと言えば、月を肴に酒を飲んでいた。何となく、うっすらとした胸騒ぎがついぞ治まらなかったからだ。腕には木刀を持ち、ある程度の防戦ができるように構えている。
(眠らないのはパーティーの頃からやっていたから慣れてる……本当は、俺も眠った方が良いんだろうけどなあ)
この旅は休養のための旅だ。無駄に夜更かしをするのは意義に反する。もう三十分もすれば眠りに着こう。俺はそう考えていた。
だがそこから事が起こるまで、大した時間はかからなかった。
静まり返った夜の宿に、不意にカンカン、カンカン、と金属音が外戸を叩いた。
「っ!」
俺は即座に飛び出し、手近に置いていた木刀を掴む。
戸がガタガタと震え、カンカンという音が大きくなる。
俺は渾身の力で外戸ごと、木刀を突き刺した。
バキィィツン! と木が割れる音が聞こえた。
加速した俺は、戸と、その裏側に居た者ごと空を舞う。
俺の前に姿を現したそれは、凄まじい姿の化物だった。
体中から何十本もの剣が突き出し、黒い泥を纏った不定形の化物。
「……なんだ、てめ……っ!」
「キンキンキンキンキンキンッ!」
化物はわけのわからない叫びを発しながら、体中の剣を振り回し始めた。
俺は全ての斬撃を弾き返す。ガキン、ガキンと重い音が響く。
幸い、そこまで強いわけではない。せいぜいが王国上級兵程度。そこらの冒険者ならともかく、俺の敵ではない。
だが。
「チッ。もう駄目か」
木刀が、折れてしまった。俺が込めた膨大な魔力と剣速に耐えられなかったのだ。
「キンキンキンキンキンキンキンキンッ!」
「舐めんじゃねえよ」
剣などなくとも、ここでは魔力が使える。行動パターンは読みきったし弱点も何となくわかった。
「オラァッ!!」
「キンッ」
拳を怪物にぶつける。俺の拳は無数の剣を折り怪物の身体に穴をあけた。
「弱点の隠し方が露骨すぎるんだよ。丸わかりだったぜ」
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